「事故物件」が流通に乗り始めた 月100件以上の問い合わせがある会社も - 中川寛子

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※この記事は2021年06月07日にBLOGOSで公開されたものです

事故物件と聞くとマイナスのイメージを持つ人が多いかもしれない。だが、一括りに事故物件といっても事件性のあるものだけでなく、高齢者が自宅で亡くなったケースやごみ屋敷、近所にクレーマーがいるなど様々な物件が含まれている。問題とされている要因次第では気にならない人もいるだろうし、リフォームしてしまえば問題ないと思う人もいる。

この1年ほどで事故物件が流通に乗り始めているのだ。

孤独死、自殺で年間数万件という市場規模

事故物件を専門に取り扱う『成仏不動産』は、2019年4月にスタートした。その前年、事故物件の所有者から相談を受けたことがきっかけとなり、サイトをオープンするに至った。

「年間で孤独死は3万件、自殺が2万件あると言われており、それ以外にも殺人、事故死などと考えていくとかなりの物件があるはずですが、これまで不動産業を営んできた肌感覚では市場に出ているのは1割もないのではないかと。もちろん、相続して住み続けている例もあるでしょうが、一方で売りたくても売れない、買い叩かれている人もいるのではないかと思い、その人たちのために市場を作ろうと始めました」(成仏不動産広報・有馬まどか氏)。

特殊清掃業者の玉石混淆を危惧 自社で取り組み開始

最初はサイト運営だけで、取扱い範囲も自社で扱える神奈川、東京中心だったが、2020年4月以降、首都圏に範囲を広げ、買取り、特殊清掃も始めた。

「テレビや雑誌の取材もあり、サイトは多い時には月に60万PV、平均では約30~35万PV、月に50~60件の問い合わせがあり、開始からの1年半で60件前後の成約がありました。しかしながら、事故物件をそのまま売却するだけでは物件のバリューアップには繋がらないのではと考えました。そこで事故物件を気にしない人を増やし、市場を作ることを考え、買取り、特殊清掃を始めることにしました」。

特殊清掃については成仏不動産を始めて以降、特殊清掃業者が玉石混淆で、他社に依頼、清掃したものの臭いが取れずに困っているという売主から二次施工の依頼をいただくことがあったためと有馬氏。10年前には数百社だった特殊清掃業者は去年までに6000社ほどにも増えているが、資格不要の仕事のため知識と技術が一定レベルに達していないケースがあるのだ。

特殊清掃は緊急性が高い。事業者をじっくり調べる時間もなく、とりあえず依頼したものの、満足いかない結果になる例もあるのだという。

「成仏認定書」付きリフォームと情報開示で早期売却

同社では特殊清掃、お祓いをした上で「成仏認定書」を付けてリフォームを行う。認定書を発行することで、『汚い、怖い』を払拭する新たな価値基準になることを目指しているのだ。リフォームでは物件の良さを引き出すと同時に次の事故物件にならないことも意識している。

「建築医学と言っているのですが、人の考え、行動は環境に左右されやすいもの。これまで訪れたごみ屋敷、事故のあった部屋は暗かったり、湿っぽかったりと人の気持ちを蝕むようなところがありました。そういう部分のない、明るく暮らせる部屋を意識してリノベーションしています」。

また、物件紹介のページには「孤独死で発見までに●日」などと事故の理由を明記してもいる。その成果だろう、この1年で買取り→リフォームから売却に至った8物件は、売り出しから20日ほどで相場よりそれほど価格を下げずに売却できている。孤独死のあったタワーマンションで1割安というから、価格の安さだけを期待する人には多少拍子抜けするかもしれない。

とはいえ、安く買えれば投資としても成立する。そのため、同社では2020年11月から投資家向けに『成仏物件倶楽部』という、事故物件に投資したい人向けの仕組みも作っている。

「自分でリフォームその他をして貸す、戸建て投資を手掛ける方々を中心に月に20~30人の登録を頂いています。木造戸建ては事業者が購入、リフォームして販売するとなると費用が嵩みますが、投資家が現状のままで購入、手を入れるなら安くて済みます」と投資物件担当の石川健吾氏。すでに成約になった例も出ているという。

ちなみにこの1年で買取りから売却まで行った物件は8件、仕入れが終了、これからリフォームする物件が4件、相続登記を待っている物件が7~8件あるそうで、取扱い範囲を首都圏に広げたことで爆発的とは言えないものの、確実に問い合わせは増えているという。

テレビ取材に加え、夏にはテレビコマーシャルを予定する会社も

同社ほどメディア等では取り上げられてこなかったものの、5年近く水面下で多数の事故物件を扱っており、テレビキー局からの取材を受けるまでに規模を拡大。この夏以降、テレビコマーシャルを計画しているという会社もある。実現すればもちろん日本初である。

それが大阪府守口市に本社を置く『事故物件買取センターあきんど』だ。成仏不動産は不動産会社が母体だったが、こちらは本体が工務店。以前から中古物件の買取り、再販を手掛けており、残置物の処理から始まり、物件再生のノウハウがある。自社施工のため通常のリフォーム費用より100~200万円安く仕上げることが可能となり、その分だけ買取価格を高く提示できるという。

「本体である『なにわ工務店』経営者家族への、知人からの相談がきっかけでした。親が自宅で亡くなり、その家を処分したいと考えているが、引き受けてくれる不動産会社がなくて困っているとのこと。相談を受け、そうした問題で困っている人がいること、さらにこれからも増えるだろうことに気づき、現社長が株式会社あきんどを立ち上げ、事故物件を専門に買取り、リフォームして売却することになりました。2021年7月で立ち上げから5年です」と広報担当の清田浩泰氏。

月100件以上の問い合わせと10数件にも及ぶ買取り

最初は地元である京阪エリアを中心にチラシを撒く程度で、問い合わせも月に数件くらいだったというが、1年ほど前にホームページをリニューアルしたことで徐々に問い合わせが増加。買取エリアを全国に広げたことで月に100件を超える個人や業者からの問い合わせが届くようになったという。

しかも買取れるものがあれば月に15~20軒は買取っているというから驚くべきスピードである。事故の内容としては孤独死、自殺、殺人や心中などのように人の生き死にに関わる心理的な瑕疵のほか、火事にあった、傾きがある、再建築不可、シロアリ問題、長屋・連棟、狭小地、借地などといった建物、土地に瑕疵や売りにくい物理的な瑕疵があるなど様々だが、同社はどちらも買取りを行っている(物理的瑕疵については2021年1月からトラブル物件買取センターでの扱い)。

多くの人は最初、地元の不動産会社に相談するものの、そこで敬遠されて同社に相談というケースが多く、現在では全国に査定に赴くようになっている。その労力を軽減しようとまずは東京に進出。御徒町にオフィスを手配し、現在は知事免許を大臣免許に書き換えの作業中で、7月下旬からは本格的に業務を開始。

同時に首都圏で流すTVCMも作成中で、さらには今年、来年くらいには福岡、愛知への出店も考えてもいるという。

「これまで本当に大阪から無料で査定に来てくれるんですか?あとで多額の費用を請求されたりしませんか?と不安がられていましたが、今後はそれが無くなります(笑)」と査定担当の鎌田氏。

売却は地元不動産会社が担当

ワケありとはいえ、様々な地域で相場より安い物件が供給されているのであれば買いたいと考える人もいるだろう。だが、現状では同社が手掛けた物件を探すのは難しい。

「購入するまではプライバシーに細心の注意を払い、他社には見せませんし、購入後もしばらくはどうリフォームするかを考えて寝かせていたりします。不動産は適切に手入れすれば腐るものではありませんし、最悪売れなくても良いと腹を括っているところもあります。

リフォーム後の販売は地元の不動産会社に任せており、自社でレインズ(不動産流通標準情報システム)に載せることはあるにしても売るところにはあまり関与しません。売れるものはすぐ売れますし、中には売却まで1年以上かかるものもあります。弊社が事故物件を扱っていることを知ったいろいろな地域の方から買いたい、賃貸に使えるような物件はないかとお問い合わせは受けますが、将来的にホームページに載せることはあっても、現状では地元の会社さんにお任せしています」。

物件はきれいに改装され、地元の不動産会社が販売を担当。もちろん、過去の事情はきちんと説明した上で売られているが、そこでは同社の存在は見えなくなっているのである。買う側からすると残念だが、売る側からすると逆に売り手の情報は見えなくなっており、安心というわけだ。

相続物件は放置しないほうが得策

ちなみにそれだけの数を買っている同社でも買わない物件がある。それは過去に該当地域での売買履歴がなく、賃貸ニーズもなく、修復が困難なほど老朽化した物件で、仮に解体しても利益が全く見込めないものだ。

「流通性がなくても家がしっかりしていれば賃貸用に買う人がいるでしょうし、買取金額が安ければ残置物があって、建物が多少傷んでいても賃貸ニーズを見込んで買うこともあり得ます。どれかひとつの条件をクリアしていれば考えますが、3つの条件が重なっている物件はダメ。買いません」。

もし、相続するなどで関わっている物件があるなら、同社のコメントを参考に不動産を放置して老朽化させないことが肝要というわけだ。

国交省も事故物件流通に一石

ここでご紹介した2社以外にも事故物件を扱う会社は続々登場しており、事故物件に対する抵抗感は確実に弱まりつつある。30年前には墓地が見える物件は忌避されたものだが、今はリビングの真正面に墓が見えるなどの場合を除き、さほど気にされなくなっていることを考えれば、事故物件、特に事件性のない事故物件は徐々に市場に出回ることになろう。

後押しする動きもある。国土交通省が2021年5月20日からパブリックコメントを開始した「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)がそれだ。

・「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)に関するパブリックコメント(意見公募)を開始します

・「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)に関する意見募集について

同案では前の入居者が自宅内で死亡した物件について、老衰や病死など自然死の場合には事故物件扱いせず、次の借り手や買い手に告知する必要はないとしており、階段からの転落など日常生活に伴う事故死も原則として告知不要としている。

一方で他殺や自殺に加え、自然死でも遺体が長期間放置されて臭いや虫が発生した場合などには原則として告知が必要としている。賃貸物件の場合、告知が必要な期間は死亡から約3年に限定するとした。これらの内容は年数など細かい部分は多少異なるものの、2020年春に「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書」として公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(以下全宅連)がまとめたものと共通している。

・令和元年度 住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書(PDF)

なぜ、国土交通省や業界団体が?と思うだろう。話は簡単だ。室内で自然に死ぬことまでが忌避された場合、高齢者に部屋を貸さない傾向が強まるからだ。

国は2017年の「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)の一部を改正する法律」で高齢者や障がい者、子育て世帯などの住宅の確保に配慮が必要な人たちに対して、入居を拒まない住宅セーフティネット制度を創設。家を借りられずに困っている人たちの問題を民間賃貸住宅利用で解決しようと考えている。それは本来国の責務だろうという考えもあるが、脱線するのでここではとりあえず忘れておく。

ところが、そのセーフティネット住宅の登録が遅々として進んでいない。その背景のひとつに孤独死の問題がある。入居した高齢者が亡くなって不動産価値が毀損、所有者が損をするとなれば貸したくないと考える人が出るのは自明の理。そこで事故物件のうちでも事件性のない孤独死への見方を変えたいというのである。

自分は持ち家に住んでいるし、困ってもいないから部屋を借りる話は関係ないと思うかもしれないが、郊外の大きな家を売って都心のコンパクトなマンションを借りようとしたものの、自宅を売却した多額の現金があるにもかかわらず、貸してもらえない例や単身の親を呼び寄せようと近所に住宅を借りようとして断られ続けた話もよく聞く。それを考えると問題は今困っている人だけのものではない。

逆にいえば事故物件流通は所有者、借りる人、投資家など様々な人に恩恵を及ぼす。勝機があると見て参入し始めた事業者もいるので、相手を見る目は大事だが、関心は持っていても良いのではなかろうか。