「ネットは大きな柱の一つ」躍進から半年 枝野幸男代表に聞く立憲民主党のこれから - BLOGOS編集部
※この記事は2018年05月30日にBLOGOSで公開されたものです
昨年の躍進から半年あまり、安倍政権の支持率が下落する中、立憲民主党をとりまく状況はどのように変化しているのだろうか。政権に真っ向から対峙する野党第一党の党首が見据える支持拡大への道、現政権の問題点について、枝野幸男代表に話を聞いた。【取材・文:村上隆則、撮影:弘田充】
「党本部の事務所も決まっていなかった」躍進の裏で感じた不安
-- 昨年10月の結党からおよそ半年が経ちました。立憲民主党を取り巻く状況に変化はありましたか
枝野幸男代表(以下、枝野):昨年の選挙では、結党からわずか20日という短い期間で野党第一党にしていただきました。しかし、体制の面でそれに相応しいものができていたかというと、正直に言って、非常に不安でした。当時は正式な党の職員も全くいない状況でしたし、党本部の事務所も決まっていなかった。その上、地方組織も全くない状況でしたから。
その後半年で、党のスタッフ、地方組織、相次いで地方議員にも加わっていただき、国会の方でも志を同じくする人達が順次加わってきて、当初の不安を乗り越えるだけの前進はできたなと思っています。
-- 地方組織は課題となっていると思いますが、今後どのように支持を広げていくのでしょうか
枝野:この半年、国会議員のいるところから順次都道府県組織を立ち上げています。県連組織が立ち上がれば、そこを軸にしてそれぞれの地域の事情に応じた動きが進んでいきますから。
今のところ、立ち上がっている県連は正式なものが20、もうあと10県くらいは目途が立っています。そうすると、全国をカバーするために必要な数はあと10余り。これからの課題はそうした空白地域で県連のコアになる方をどう増やしていくかという部分になります。
-- 今後は支持を拡大して政権交代を狙っていくと
枝野:もちろんです。野党第1党が政権交代を目指さなければ、民主主義は成り立ちません。
-- 国民民主党など新党もできましたが、政策など、他の野党との連携はどのように考えていますか
枝野:どこか一党と、ということではなく、国会で野党は、五党一会派でできるだけ足並みを揃えてやっていきます。
これらの皆さんとは「いまの安倍政権、自民党はひどすぎるので、よりマシな政権を作らなければいけない」という認識を共有できていると思います。しかし、党が違う以上は違う部分もある。どの党との関係でも、それぞれ一緒にできる部分は違ってくるかもしれないが、共通する部分はできるだけ一緒にやっていきたい。
ただあえて申し上げるなら、昨年、希望の党ができるとき、そこに行かなかった無所属の会のみなさんと我々は、非常に共有する点が多いと思っています。
-- 先日、連合と連携を強化していくという報道もありました
枝野:昨年の結党時点では、連合はどこかの政党を支援するということはせず、従来から応援していた候補者については政党関わらず応援していく方針で、我々も昨年の衆議院選挙では大変なご支援をいただきました。今後ともその延長線で、連合の皆さんからもより強いご支援をいただければありがたいと思っています。
しかし、支持層がそれだけでは国民政党とは呼べません。昨年の総選挙でもそれ以外の多くのみなさんからもご支援いただいています。連合以外の支持層をより深く、より広げていくということは、連合との連携を深めることと両面でやっていきます。
-- 新たな支持層はどのように取り込んでいこうと考えていますか
枝野:総選挙の時から基本的な立ち位置は変わっていなくて、まず我々自身の主張を明確に、クリアにすること。どこを目指しているのか党の主張があいまいで分からないというような状況では、期待や信頼をしていただけないですから。
ですので、いかに明確な主張を題し続けることができるのかということと、草の根のネットワークを張っていけるのかということ。この2つを地道にやっていくしかないと思っています。
ネットは「大きな柱の一つ」
-- 草の根のネットワークという意味では、昨年の選挙では立憲民主党を支持する若い人たちがネット上で盛り上がっていた印象があります
枝野:実は、僕はいまTwitterやネットの世界というのは若い人たちが集まっているところだと決めつけて使うと間違ってしまうと思っています。もちろん若い人たちは完全に使いこなしていますが、一方で元々ワープロやパソコンに慣れ親しんでいる既にリタイアされた世代の方が結構なヘビーユーザーになっていたりする。なので、世代で切るという意識はありません。
ただ、こうしたネットという世界は、2ちゃんねるに象徴されるように、完全に自民党に先を越された分野でした。しかし、やり方次第では、我々の潜在的な支持層にもアプローチできるのではないかと思っています。
なおかつネットのすごいところは、我々の意図しない規模とかやり方で、ネットユーザーのみなさんが独自に情報を拡散して輪を広げてくれるところです。これは昨年の選挙以来続いているのですが、大きな柱の一つだと思います。
-- 情報発信をする上で気をつけている点はありますか
枝野:まずは色々な発信をすると言うことだと思います。総選挙の時はTwitterだけで手一杯だったんですが、現在はLINEを通じても有権者に対してアプローチをさせていただいています。それらを通じて、オーソドックスな情報発信、たとえば明日の何時何分から国会質問がありますという発信もしていますが、一方では政治家ってどういう人なのかという人物像がわかっていただけるような情報発信も行っています。
現在は、党の所属議員としての発信と党からの発信が、暗黙の役割分担のような形にはなっていますが、より整理して、様々な形で様々な関心を持っている方にアプローチしていただけるような発信を心がけていきます。
-- 各党とも、政治に関心のない若者に興味を持ってもらおうと政策を練ったり、広報活動をおこなったりしていますが、なかなか苦戦しているように思います
枝野:政治に関心のない若者に政治から入ったのでは、なかなか関心を持っていただけないと思っています。したがって、まずは政治や政策以外の切り口で、いかに関心を持ってもらうのかが大事ではないでしょうか。
そもそも、若者向けの政策という言い方はおかしなことだと思っています。たとえば、一般に若者向けといわれる子育て支援も結果的には高齢者に色々な恩恵をもたらします。逆に年金や介護に関する政策は、若い人たちにも恩恵をもたらします。なので、若者に向けた政策というのは違う。社会はお互い様で、支え合わなければならないというのが我々の本質的な考え方です。
そうすると、「どう関心をもってもらい、知ってもらえるのか」というのが大事になるので、政治以外のことでも、できるだけたくさんのテーマや媒体、場にアプローチしようと思っています。
政治家は「普通のおじさんやおばさん」
-- 政治以外のテーマ・関心ということでいえば、枝野さんはアイドルについても造詣が深いことで知られていますね
枝野:アイドルは本当に好きなんです。今の世の中、もし関心を持ってもらうために媚びて無理をしたり、背伸びをしたりすれば、おそらくそれは勘付かれてしまいます。
なので、私は絶対にそういうことはしません。政治をやっているのも普通のおじさんやおばさんなんだということを知ってもらうこと。そこから少しでも関心を持ってもらえればいいと僕は思っています。
-- 年額500円で誰でも参加できる、立憲パートナーズが始まりました
枝野:立憲パートナーズについては、ネットを通じて申し込んでいただける方が非常に増えています。これからの問題は参加していただくだけではなく、参加していただいた方とどうコミュニケーションをとっていくのかという部分。
ようやく、ネットで登録していただいた方の情報を整理して、地方組織等を窓口としてコミュニケーションを始めていくスタートラインに立ちつつあります。それ以外の部分は正直言って試行錯誤、色々なことをやってみるつもりです。例えば少人数で行うディスカッションの場を持ったり、タウンミーティングを行ったりとか。あるいはパートナーズ限定で、ネット上で議論を行える空間を持ってもいいと思っています。
-- やはり、ネットの活用が特徴になっていくのでしょうか
枝野:リアルな世界においてもコミュニケーションを取っていこうと思っていますが、地方組織がなかったり、あっても広い都道府県の中では直接アプローチをするのが難しい人もいる。また、決められた時間・場所でのアプローチが難しい人もいるので、ネットを使ったコミュニケーションは一つの大きな柱として活かしていくべきだと考えています。
「安倍政権がひどい」というのはもう当たり前
-- 立憲民主党の重点政策について教えてください
枝野:広い意味では社会を下から支えて押し上げる。日本社会に元気がない原因のひとつは将来の不安が大きいことで、これは消費の抑制になっているし、将来が不安であればなかなかチャレンジもしにくい。
その解消に向けて、まず需要があるのに低賃金の仕事をしている人に公的資金を集中投資します。介護職員、保育士は政治が決めれば、ダイレクトに公的資金を賃金に回せます。需要があるのに低賃金というのは経済の原則に反していますが、これは公的資金の注入量が足らないせいです。こうした方達の賃金は元々低いので、賃金が上がればほぼ全額消費に向かっていきます。
もちろんバラマキはダメですが、所得が低い人の所得をうまいやり方で底上げしていけば、消費が拡大して経済が活性化します。
また、雇用の面で間違いなく言えるのは、長時間労働であるとかサービス残業であるとか、きちんとしたルールに基づく雇用ができていないところを厳しく取り締まるべきです。そのために規制を強化します。
ちゃんとした賃金を払わなければ働かせることができない、業務が回らないということになれば、賃金を払わざるをえない。そうなるよう労働法制を強化していきます。また、最低賃金も着実に上げていきます。
これらをトータルで表現するなら「社会を下から支えて押し上げる」ということになります。
-- 先ほど、「安倍政権はひどすぎる」というお話もありましたが、今後、現政権とどのように対峙していくのでしょうか
枝野:「安倍政権がひどい」というのはもう当たり前の話です。その上で立憲民主党が期待されているのは、我々はこう変えますよ、という部分。
これはメッセージを出しているつもりですが、まだまだ十分に伝わっていない。今後も、じゃあどうするのという部分をきちっと伝えていくことによって、こんなにひどいなら変えてみようとか、もうちょっと立憲に力を持たせてみようという風になっていくんだと思います。
安倍政権は「外交をもてあそんでいる」
-- 外交についてはどうですか
枝野:外交政策についてよく聞かれるんですが、実はそんなに違いはないんです。これはつまり、日米同盟を基軸としながら、ということです。我々はここが違いますと拳を振り上げる形ではありません。
なぜなら外交は相手があることだし、国際環境の状況によっても変わってきます。北朝鮮がどのような対応をするのか、それに対してトランプ大統領はどのように対応するのか、これは我々にはほとんどコントロール不能なわけですよ。
そうした中で、我々はもちろん日米同盟が軸ではあるんですが、長距離ミサイルの問題よりも中距離短距離のミサイルがちゃんと減っていくことが重要だと言っていますし、これだけ地理的に隣接しているんだから、万が一にも朝鮮半島有事になるということはあらゆる努力をして避けなければならないと言い続けています。もちろん拉致問題もあります。
我が国の立ち位置を考えると、あとは外交の技術の話になってくると思います。そしてそれは結果責任でしか問えません。交渉の途中経過を全面公開しろとは言えないわけですよ。ただ実際に、ある時期まで対話なんかしないと言い続けてきたのに、アメリカが態度を変えたら、急にうろたえる。こういうときは結果として「うまくいってないんじゃないの?」と指摘せざるをえない。水面下を中心とした外交の中で、どれくらい外交的な技術を駆使できるのか、そしてその能力を持っているのか、僕はここが最大のポイントだと思っています。
-- 安倍政権は北朝鮮問題をテコに憲法改正をしようとしています
枝野:そもそも、そういうことをテコに使うというのは外交をもてあそんでいると思います。外交を内政に利用しようということ自体が、外交的判断を間違える原因になるし、日本の立ち位置からして、外交的判断を間違えたら内政でどんなに立派なことを言っても意味がないわけですね。
我々は決して護憲ではない。よく変わるなら変えた方がいい。ずっとそう言ってきています。しかし、そもそも、立憲主義に反するような解釈の不当な変更をしておいて、その上で9条絡みの部分を変えようとする。まず、変えるためには守ってから言えという話がひとつです。
それから、立法事実がないのに、とにかく変えることが自己目的化しています。これ自体間違っていますよね。具体的に、「こういうところが困るので、こう変えたい」という話がないんです。法律とか予算措置とか、行政の執行でどうしても不都合があるというときに初めて「じゃあ憲法を変えなきゃね」という話になるんです。
たとえば我々は、衆議院の解散を内閣が勝手にできてしまう、こんなことは世界の先進国を見ると明らかに時代遅れであると。これは憲法を改正しないと変えられないことですから。もし議論するならこういうことではないですかと具体的に申し上げています。そういう議論のアプローチをしていないのが、そもそも憲法に関する議論のやり方として間違っています。
プロフィール
枝野幸男(えだの・ゆきお):立憲民主党代表、衆議院議員(埼玉県5区)。1993年に初当選。民主党政権時には内閣官房長官、経済産業大臣等を歴任。2017年に民進党を離党し、立憲民主党を立ち上げ、代表に就任。1964年生まれ。