※この記事は2018年05月09日にBLOGOSで公開されたものです

埼玉県川口市の中学生だった栃尾良介くん(仮名)がサッカー部のLINEグループから外されたり、乱暴されたことをきっかけに自傷行為をしたり、不登校になった問題で、同市のいじめ問題調査委は「いじめ事案に関する報告書」をまとめた。報告書によると、調査委は「法律上のいじめと認定できる行為があり、その行為が不登校の主たる要因」として、いじめと不登校の因果関係を認めた。しかし、保護者は内容には不服だったものの、再調査は依頼せず、市を相手に損害賠償を求める訴訟を準備しているという。

認定されたいじめと不登校との因果関係

報告書によると、いじめか否かを調査したのは以下の8点。

1)サッカー部のLINEグループから、良介くんが外された。
2)サッカー部の練習中に、肘で顔を叩かれるなどした。
3)サッカー部の練習中に、良介くんはある部員からTシャツの襟首を後ろから引っ張られ、首が絞まった状態で倒された。
4)良介くんは映画を観る約束をしていたが、ある部員は良介くんに断りなく前日に他の生徒と良介くんと観るはずだった映画を観に行った。約束当日は、良介くんに連絡せず、また別の生徒と遊びに行った。良介くんがそのことを訴えると、その部員は怒りだした。サッカー部員たちに良介くんから一方的に文句を言われたと嘘を言い、良介くんが周囲から責められた。
5)良介くんの自宅で遊ぶことを断られたサッカー部員4人が、良介くんと交際中の女子生徒の自宅に行き、周辺で騒いだ。
6)良介くんが行きたがっているお店へ、部員の1人が、良介くんの目の前で、他の生徒と行く約束をした。この件をきっかけに、良介くんは「学校に行きたくない」と言い出した。
7)良介くんに対して、LINEで中傷をしたり、彼の自宅をスマホで無断で撮影し、LINE上にアップした。
8)良介くんはLINEの中で、他の部員からなりすましによるからかいや誹謗中傷を受けた。

これら8件のうち、調査委は、2)以外の7件を「いじめ」と認定した。中間報告である「いじめ事案に関する進捗状況報告書(案)」では、1)と7)はいじめとしていたが、それ以外も認定されたことになる。

母親はなぜ調査対象が上記8項目だったのか疑問に思っている。これら以外にも、少なくとも11項目を訴えていたが、限定された理由は明確に知らされていない。その上で、母親はこう批判する。

「中間報告は7項目の調査だった。この段階での検討だと思っていたが、その後も他の件は出てこなかった。それに、2)に関しては、部活中に良介がされているのを見た。それを部活後に、副顧問に話している。しかし、部員が『覚えていない』といい、学校側も『記憶がない』として、事実認定していない。暴行事件とも言えることだが、副顧問が管理職に言うか、共有すべきこと。翌日、顧問にも報告していた。しかし、副顧問は何もしてない。学校側は『記憶がない』という言い方になっている」

いじめと不登校の因果関係についても報告書では「主たる要因」と認めた。ただ、学校の対応への不信感、サッカー部顧問の不適切な指導、コミュニケーション不足から誤解が生じたことなど、不登校の要因は複数あるとした。

「顧問の不適切な指導とあるが、ここは体罰であり、処分もされている。なぜ、体罰ではなく、“不適切な指導”としたのか」(母親)

調査範囲がサッカー部員らに限られ、情報提供も生かされず・・・

そもそも、いじめ問題の調査をサッカー部員と交際していた女子学生からしかしてないことにも母親は疑問に感じている。

「一昨年、学校側に『サッカー部から聞き取りはしたのでしょうか?』と聞いた。そのときは『調査した』と答えていた。『内容を知りたい』と言ったが、ずっと聞かせてもらえないでいた。去年になって問いただすと、校長は『記録はある。走り書きで、顧問が記録したもの。確認してから』と言われていたが、ずっと曖昧なままになっていた。『見せます』となって、見ると、聞き取りをしたことは書いてあったが、内容は書いていない。『内容を知りたい』と言ったが、『わかりました』と言うだけ。アンケートも取らず、聞き取りの対象になっていない部員もいた」(同)

報告書には、学校の証言をもとに実施していない調査が実施したかのように書かれているというのだ。たとえば、6)に関して、報告書では「学年全体に約束を守る大切さについて、指導があった」とされている。しかし、母親によると、指導はなかった、という。

また、8)に関して、「LINEの使い方等については、再三指導してきたが、個々の事案については、学校は確認できず、指導には至っていない」とされている。しかし、母親は「その都度、学校側に言っている。なぜ確認できないのか」と話す。この点については、母親の代理人からも情報提供がなされていた。

「最終報告書が公開される前に、市教委へ出向いた。そのとき、調査委のメンバーは欠席したものの、弁護士は同席した。事実に関して訂正をするように要求していた。(訂正要求について)『調査委に必ず報告してください』と言ったが、公開されたものを見ると、訂正されずにそのままになっていた」(同)

学校の対応に関する課題についても、事実誤認が含まれていると母親は指摘する。

「(報告書には)顧問や担任に関する言及は多いが、校長への指摘がほとんどない。『顧問が一人で抱えている』との表現もあるが、隠蔽していただけではないのか。担任の判断、ということもあるが、担任は状況を聞かされず、話し合いにも参加していなかった。むしろ、担任は息子に一生懸命に声をかけていた。責任転嫁ではないか」(同)

本来、報告書の内容に不服があれば再調査ができるものの、母親は再調査は要望しておらず、市に対して訴訟をする準備をしている。

金庫に入れたまま、饅頭が腐るまで放置された卒業証書

良介くんは今年4月、希望する高校に合格し、現在は通学もしている。しかし、中学ではほとんど不登校だったこともあり、授業内容の理解は十分ではない。川口市は報告書を公開した記者会見の際、「高校と連携し、川口市としてできることはやっていこうと思う。追跡調査やフォローは当然やっていかなければならない」と、中学卒業後の学習支援にも言及していた。市教委も母親と17年3月28日付けで学習支援についての約束を交わしていた。しかし、母親によると、支援体制は機能しなかったという。また、会見で述べた支援についても。連絡は一度もないままだ。

4月になって人事異動があり、通っていた中学の新しい校長と教頭が良介くんの自宅を訪れた。2人はこれまでの対応についての謝罪と卒業証書を持ってきたという。母親は「謝罪しないといけないのは誰ですか。あなた方ではないでしょ?」と言った。すると、校長は「これから中学校を改善しないといけない。きちんと謝罪しないといけない人がいますね」と述べたという。

そして、校長と教頭が帰る際、お菓子を渡されたという。母親は「なんのためのお菓子なのか」と聞いた。2人よると、卒業証書と一緒に金庫に保管していた、卒業式の日に渡す饅頭が腐っていた。そのため、お菓子はその代わりだという。

良介くんは卒業式に出ようとしていたが、式の際渡すはずだった「保護者への感謝の手紙」と、「先生たちへのメッセージカード」についての連絡もされなかった。そのため、「俺はもうこの中学の生徒じゃないんだ」と感じ、当時の校長から卒業証書をもらうことを拒絶していた。卒業式の日、良介くんは情緒不安定になり、学校へ行けず、式後に校長がやってきたが、会わなかった。そのまま校長が学校に戻り、卒業証書と饅頭を金庫に納め、そのままになっていたのだろう。母親は憤る。

「饅頭が腐るまで放置されていたことになる。それだけで死にたくなるでしょ。そこまでバカにされているのか」

文科省は県教委を通じて、川口市教委に何度も指導してきた。あるとき、県教委の担当者から母親に電話があり、「これまでもなんどもあっちゃいけないことはあったが。こそれこそ、あってはいけないことだ」と指摘したという。県教委も連絡をしているが、担当者と直接、話をするには至っていない。

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