「政権批判を自粛する空気が社会やマスメディアに広がるのを危惧する」 作家や映画監督、ジャーナリストら言論人が「声明」を発表 - BLOGOS編集部
※この記事は2015年02月10日にBLOGOSで公開されたものです
「ISIL(イスラム国)」による日本人の人質殺害事件が発生して以来、現政権への批判を「自粛」する空気が社会やマスメディア、国会議員に広がっていることを危惧するとして、作家や映画監督、ジャーナリスト、音楽家など、表現活動にたずさわる人々が2月9日、「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」を発表した。声明には、映画作家の想田和弘さんや社会学者の宮台真司さん、憲法学者の小林節さん、元経産官僚の古賀茂明さんのほか、音楽家の坂本龍一さんや映画監督の是枝裕和さん、さらに孫崎享さん、平野啓一郎さん、香山リカさん、内田樹さん、森達也さん、吉田照美さんら、多数の「表現者」が名を連ねている。その数は1000人以上にのぼるという。
この日は、ネットで声明を発表するとともに、東京・永田町の参議院議員会館で記者会見を開き、小林節さんや古賀茂明さんのほか、パロディ作家のマッド・アマノさんやお笑い芸人のおしどりマコさんらが、それぞれの思いを語った。(取材・大谷広太、亀松太郎)
今井一さん(ジャーナリスト、声明の呼びかけ人)
「1月下旬に人質事件が起き、結果として、大変残念な結果に終わったが、その間、政府に対して批判的な言辞をしたり、異議を呈することがはばかられる空気が非常に広まった。私は、どんな時勢であっても権力への批判は控えてはいけないと思っていたので、大きな危惧を覚えた。ほかにも同じことを考えている人がいるかもしれないと思い、想田和弘さんや古賀茂明さんと議論しながら声明文を作り、2月1日に声明文をネット上にアップした。アップした翌日のアクセスが2万380件、その翌日のアクセスも1万5000件を超えた。賛同者があっという間に広がり、我々がふだん付き合いのない著名な方々も名を連ねてくれた。
現時点で、賛同者に名を連ねてくれた言論人は約1200人、支持・応援するという一般の人は約1500人に達している。
声をあげてくれた言論人の一人、作家の中沢けいさんとは今日、電話でやりとりした。中沢さんはこういう声明に、ふだんは名前を連ねることがない人。本人も『積極的に強い意志で名前を連ねたのは今回が初めて』と言っていた。『こういうのは私の趣味ではないと思っていたが、もう無理。ここで言論人がスクラムを組まないと、この国は手遅れになる』と話していた。
また、ここで名前は読み上げないが、NHKの現職のプロデューサーとディレクターも名前を連ねている。二人と電話で話をして、『本当に名前を出していいのか』と聞いたら、しばらく考えて『名前を出してもいい』と答えてくれた。
そのプロデューサーは『黙っていることは、もはや同意とみなされなかねない。危険な世の中になってしまったと危惧します』というメッセージを寄せてくれた。
もう一人、NHKのディレクターのメッセージは次のようなものだ。
『後藤健二さん、湯川遥菜さん、本当に残念でした。日本という国がいかに個人を守らない国であるかがよくわかった出来事でした。のみならず、このことを利用し、戦争のできる国にしようとしています。大変危険な局面にきていると思います。間違った道をこの国が選択することのないよう、個人としては微力であっても、口を閉ざすことなく、言い続けていく必要があると思います。この声明に賛同します』
NHK以外のほかのメディアでも、会社に所属している言論人が賛同してくれている。まだまだ数は少ないが、こういう動きが広がっていったらいいと思っている」
マッド・アマノさん(パロディ作家)
「私は、約10年前に自民党から通告書をもらったことがある。2004年の参院選のときに自民党の選挙ポスターをちゃかしたら、当時の安倍幹事長から、顧問弁護士と連名で内容証明書つきの通告書が送られてきた。『名誉毀損だ。お主は何を考えているのか。二日以内に答えろ』と恫喝された。それに対して、私は通告書を書いて、安倍さんに送った。選挙が始まったら、何も言ってこなくなったが・・・。
それから10年がたったが、風刺というものは、権力が一番嫌がる表現だと思う。ちゃかされるというのを嫌がる。いま、そういう風刺を封殺しようという動きが出てきている」
小林節さん(憲法学者)
「今回の人質事件については、政府が言うように、国民の命は尊いし、テロに屈しないというのも全く同感だ。ならば、我々はキリスト教とイスラム教の歴史的な争いに無縁な存在なのだから、放っておくのが一番いいはずだ。そうすれば、テロにもあわないし、国民の命も脅かされない。そうであるにもかかわらず、(安倍首相が中東で)ああいう刺激的な発言をしたことは、やはり批判されるべきだと思う。政治家の言動だから、批判されてしかるべきだ。ところが、その批判を何人かが口にしたとたん、『黙れ、非国民。敵を利するのか』と言われるようになっている。
もう一つ、最近は、政府当局から報道機関に対して『公平な報道をするように』と注文がつく。これが意味するところは、政府を批判しないように、ということ。これはどう考えても、日本国憲法が想定する世界ではない。自由と民主主義をモットーとして国を運営しようとしている政党の政権がすることでないと思う。
私が心配するのは、そういうことについての自覚がなく、ちょっと批判的な人に対してヒステリックな反応をすること。それが度を越しているのが、本当に心配だ」
古賀茂明さん(元経産官僚)
「現在のようなマスコミを中心にした自粛は、いまに始まったことではない。私は官僚を辞めて以降、いままでもたびたび、いろいろな圧力や迫害を感じたことがある。経産省を辞めて、東京電力の破たん処理というのを、おそらく日本で一番早く唱えたが、それ以降は、動物の死体を玄関に置かれるなどの嫌がらせを受けた。それに対して、警察が『気をつけてください』とアドバイスをしにきたりした。今回は、私が『報道ステーション』で『I am not Abe.』と言ったのがいけなかったと思う人がいるようで、数日前に、神奈川県警から二人の巡査部長がきて、『古賀さん、危ないから、警備を強化させていただきます』と言われた。『どんなささいなことでもいいから、おかしいと思うことがあれば、すぐに電話をしてくれ』と。
そういう意味で、私はいろいろなことを敏感に感じているが、いまは相当に危機的な状況に立っていると思っている。昨年12月2日にツイートした内容だが、『報道の自由』が失われていくのには3段階があると考えている。
第1のホップは、『報道の自由への抑圧』。第2のステップは、『報道機関自身がみずからが体制に迎合』。第3のジャンプは、『選挙による独裁政権の誕生』。そして、いまは、ステップの段階まで来ている。
第1段階では、政権の側から圧力や懐柔をかけてくる。たとえば、放送局に放送後、官邸から『あの放送はなんだったのか』と電話がかかってくる。そういうときに対応するのは、記者としてはめんどくさくて、仕事にならない。そういうことが続くと、『ちょっと自粛しておこう』ということになり、第2段階に進んでいく。そして、政権がなにか言わなくても、報道機関みずからが体制に迎合したり、自粛するようになる。
いまはそういう状況と言えるが、そうなると、国民に正しい情報が行き渡らなくなる。どんなに賢明な国民でも、日々の正しい情報を得られなければ、間違った判断をしてしまうことは、十分にありうる。そして、最後の段階。選挙という最も民主的な手続きで独裁政権が生まれるというパラドックスが生じることになる。
このように、いまはステップの段階に来ていると思うが、その一方で、非常にうれしく思っているのは、こういう中でも、大手の新聞社やテレビ局の中に『名前を出してくれ』という人がいること。いまも問い合わせを寄せてきている人がいる。逆にいえば、そこまで、危機に感じているということだ」
雨宮処凛さん(作家)
「私は、今回の人質事件を口実にして『戦争ができる国』になろうとしているのではないか、ということを一番、懸念している。そういう状況のいま、声がなかなかあげづらくなっている。声をあげると、『日本が一つにならなければいけないときに』という形で、非国民とか、売国奴とか、国賊という言われ方をする。去年の朝日新聞の慰安婦報道の問題のころから、非国民とか、国賊、売国奴という言葉が、当たり前に流通するようになった。そのうえで、今回の事件があり、みんなが言葉を失うような状況になっている。そういう茫然自失の状態の中で、いろいろな法整備が進められようとしているのではないかというのを、とても危惧している。
また、政権批判をすることでバッシングされるということが続いていくと、なかなか声をあげることができなくなっていく。そのことをとても危惧している」
おしどりマコさん(お笑い芸人)
「吉本に所属していながらここに座るのは、あとでまた怒られるんだろうなと思って、ちょっとびくびくしている。原発事故の取材をし始めてから、いろいろ仕事がなくなっていったが、原発事故だけでなく、いまの状況というのは、ものすごく怖いと思っている。私は芸人と取材をしているので、お客さんに近い場所で、世の中のことをキャッチしていると思う。今年1月に聞いた2つの話をしたい。
一つは、先月、岐阜に仕事に行ったときに、お客さんから聞いた話。被ばく関連のイベントはなかなか公民館を借りられないものだが、いまはなんと、『平和展』というイベントで、公民館を借りられなかったと聞いた。『平和』という言葉は左翼的用語で、政治的思想なので、『平和展』で公民館が借りられなかった、と。
もう一つは、東京の公立小学校の話。小学校6年の男の子が、卒業文集に『大きくなったら、一生懸命勉強して、国会議員になりたい』と書こうとした。集団的自衛権の容認や武器輸出三原則が改正されたことに言及して、『大きくなったら、国会議員になって、平和な国を作りたい』という作文を書いた。しかし、公立小学校の先生から『その作文は、政治的批判を含むので、卒業文集には載せられない。書き直せ』と言われた、と。
さきほど、古賀さんが『ホップ、ステップ、ジャンプ』のステップの段階と言っていたが、本当に生活圏にまで、いろいろな自主規制が働いているのではないかと思う。
岐阜の話は、『平和』の前に『積極的』をつけたら借りられたのではないか、と話していた。また、小学生の作文も、『安倍首相みたいに立派な大臣になりたい』と書いたら、卒業文集に載ったのではないかと話していたのが、印象的だった。
この空気を少しでも伝えたくて、ここに座っている」
・翼賛体制構築に抗する声
・翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明