東京駅大混乱の一番の原因は、転売屋の存在だったのだろうか? - 赤木智弘
※この記事は2014年12月27日にBLOGOSで公開されたものです
JR東日本(以下、JR東)は12月20日、東京駅開業100周年に合わせ「東京駅開業100周年記念suica(以下、記念Suica)」を販売した。当初は東京駅での当日販売のみで15,000枚の予定であったが、想定以上の人が集まり、危険と判断されたため、発売は途中で打ち切られてしまった。
発売中止を知った行列客の中には駅員を罵倒する人もおり、東京駅丸の内駅舎は混乱。危険な状態になったという。(*1)
この2日後にJR東は、申し込みをインターネットや郵送に切り替えて、希望者全員に販売することを決定した。(*2)
販売列などに並んでいた人たちがネットに書き込んでいる内容を見るに、元々の混乱の原因はJR東による行列対策の不徹底にあるといえる。 徹夜での並びを禁止しているにもかかわらず、実際には黙認されたこと。一部報道によると、午前4時40分の段階で、数千人が並んでいたと言われている。
そして何より、決して広いわけではない東京駅の丸の内側に9,000人以上の人間が長時間滞留し、購入希望者に過大なストレスがかかっていたこと。その上で列形成も混乱しており、横入りなども横行していたとみられる。
これらの状況に対して、JR東は整理券を配布したり、柵やロープなどで並び列を整理するなどの対策も行わず、ただ人が勝手に並ぶに任せていた。
そして予定を早めて販売を開始したはいいが、結局は混乱のために途中で突然の販売打ち切り。これで騒ぐなと言う方が無理であり、完全にJR東の失態である。
ところがネットでは「騒いだのは在日(韓国人)や中国人だ!」という根拠なきヘイトスピーチがひとしきり行われたあとに、最終的に「転売屋が悪い」ということで結論づけられてしまっている。
確かに、あの現場にはたくさんの転売屋がいたのだろう。しかしそれもまたJR東の失態の1つにすぎないと言える。
今回の記念Suicaは限定品かつ、東京駅での当日販売のみで、通信販売等は行わないということが告知されていた。しかし、そもそもSuicaを限定にする意味は無い。手作りで一日に何個も作れないような工芸品や特別価格の商品などが限定になるのは仕方ないが、Suicaのような規格化された製品で、単に印刷が違うだけのものを「限定」にするのは、そこにプレミアムをつけようとするJR東側の意図があったからだろう。
しかし、プレミアムがあり、かつ手に入れにくい商品であれば、そこに転売屋が飛びつくのは当然のことである。プレミアムや手に入れにくさこそ、転売屋がお金を得るための「商材」に他ならないのだから。
さらに、Suicaは転売屋にとって、リスクの少ない商材でもある。
今回の希望者全員販売を受けて「転売屋涙目wwww」などとネット上であざ笑う人がいる。確かに、わざわざ並んだ時間は転売屋にとって無駄になっただろう。
しかし、限定Suicaは元々の価格が2000円。その内訳はSuicaに入っている1500円分のチャージと、500円のデポジットだ。SuicaはあくまでもJR東日本からの貸与品であるため、カード自体は0円である。
つまり、プレミアムが付かなくとも、Suicaそのものの本来の価値が損なわれることは無いため、たとえ転売に失敗したとしても、普通にチャージ分を使って、デポジット分を返金してもらえばいいだけの話だ。
ちなみに、チャージされた金額の返金については払い戻しに最大で220円の手数料がかかる。ただしチャージ分が220円以下の場合はチャージ分を放棄すればいいので、買い物などで使いきってしまえば、手数料はほとんどかからない。
コンサートチケットであれば売れなければ紙くずになってしまうが、限定Suicaは売れなくとも購入時の金銭的価値がほぼ残る。そうした意味で、限定Suicaは失敗してもリスクの少ない商材であると言える。
もちろん、転売後の値段を当て込んで、人を雇ってまで限定Suicaを集めた業者はザマァ見ろだが、多くの個人転売屋にとっては関係のない話である。
またネット上で見られる転売屋批判に「本当に限定Suicaを欲しい人の手に渡らないから、転売屋は悪い」というものがある。これについても僕は疑問に思う。
単純に絵柄が気に入ったという理由だったり、コレクションとして限定Suicaが欲しい人からすれば、それこそJR東がわざわざイベントに合わせた限定販売などを行わずに、通信販売などで普通に売ってくれればいいだけの話なのだ。
しかし、限定で販売され、しかも入手経路が東京駅での直接販売のみということになると、地方のコレクターはその日に東京駅に行くか、知り合いに頼むか、転売屋から購入するしかない。
関東近郊ならともかく、北海道や九州沖縄から交通費や宿泊費をかけて東京に来て並ぶくらいなら、転売屋から数万円で買ったほうが、時間もかからず安く上がる。
ネットでは「転売屋から限定Suicaを買わないように」という声が多く上がっているが、そう言えるのはコレクションのために金と時間を湯水のように使える恵まれた人か、関東近郊のコレクターか、コレクションに全く関心のない人たちばかりであろう。
むしろ転売屋が仲介することによって、本当に限定Suicaを欲しい人の手に渡るのであれば、たとえ転売屋が不当な利益を得ているように見えても、他人が文句をいう筋合いはないのではなかろうか。
小田急グッズショップのBlogに興味深い記事がある。
企画した限定商品が想定以上に売れてしまい、お客様がガッカリしたり、お問い合わせの電話が相次ぐ様子を見ての気づきである。
「プレミアをつけられるのは「恥」
開発した商品に価値があるからプレミアがつくのではありません。
その商品を購入したいというお客様に商品が充分届いていないから、プレミアがつくのです。」(*3)
普通であれば「完売した上に、お問い合わせも相次いで嬉しい悲鳴!」として満足しかねない状況に対して、それが需要を満たせなかった失敗であるという事実に気づき、それを「恥」として改善を加えていく。分かっていても、なかなかできることではない。
東京駅に多くの転売屋がやってきたのは、企画自体に無理があり、明らかに需要を満たせずに高いプレミアムを付けられるだろうと転売屋が踏んだからである。そう思われたJR東の脇が甘かったのである。
今回は混乱することによって、イベントの失敗は明らかとなった。しかし、もし無理にでも販売を続けて完売していれば「多少の混乱はあったが、イベント自体は成功」であると、多くのお客様の不満を無視したまま、勘違いしていたのかもしれない。
Suicaは鉄道模型と比べれば、はるかに在庫リスクの少ない商品であり、再生産も容易である。にも関わらず、わざわざ限定販売を煽り、結果として東京駅の混乱を引き起こしたJR東の企画担当者には、この小田急の担当者が失敗から得た気付きを胸に刻んでもらいたい。
少なくとも、ネットなどの無責任な口車に乗って「騒ぎが大きくなったのは転売屋が悪いからだ」などという責任転嫁で終わらないでいただきたいと思う。
*1:駅員に怒声、警官による交通整理... 東京駅「100周年記念Suica」で大混乱 (J-CASTニュース)
*2:<東京駅記念スイカ>1月申し込み受け付け 希望者全員に(毎日新聞)
*3:TRAINSのつぶやき。)