※この記事は2014年09月06日にBLOGOSで公開されたものです

 9月に入り、子供たちも学校に戻った頃だと思うが、夏休みが終わる少し前頃に「夏休みの宿題代行業者」というのが話題になっていたらしい。(*1)

 作文一枚5000円ということは、ノルマが5枚だとすれば2万5000円だろうか。ドリルも一冊で3000円から1万円以上まであるらしい。

 で、それに対して尾木ママこと、教育評論家の尾木直樹は、「子どもたちに対しては「教育犯罪」そのものです!!「詐欺」の実践教育であり、学校が最も大切にしている正直な生き方に反する、担任への「虚偽」行為に他なりません。しかも、子どもに「自己欺瞞」させることでもあります!つまり三重の教育犯罪なんですよ。」(*2)
 と、激怒している。

 また、哲学者の内田樹も、宿題代行の是非についてコメントを求めた記者に対して「箸にも棒にもかからない愚論を紹介するメディアがありますが、なぜそんなバカな話を媒体自身の見識に基づいて「非」とできないのか!と一喝したくなります。」と怒りを表明している。

 僕は、彼らの怒りを全く理解できない。いいじゃない、夏休みの宿題なんて、やらないで済むならそのほうが。
 内田樹は「学習努力と貨幣は代替可能だと思っている」などと見当違いのことを書いているが、こうした代行業者が相手にしているのは、夏休みの宿題ができないレベルの生徒ではなく、学習は塾に任せてしまっているから、学校の低いレベルの勉強に、わざわざ時間を割きたくないお受験家庭。

 こうしたサービスを利用する親たちは、学習努力を回避するためにではなく、学習努力のためにこそ夏休みの宿題などという無駄な時間を費やしたくないと考えて、安くないサービスを利用しているわけだ。

 で、結局は今の学校に親や会社が期待することは「勉強させて、いい大学に行かせて、いい会社に就職する」ことのみであり、それ以外のサービスは全く期待されていない。つか、もう勉強だって学校に期待されていないから、ある程度のお金がある家庭なら、みんな塾に子供を通わせるわけだ。親は内申点さえなければ、子供が学校と関わる時間なんて最小限にしてあげたいんじゃないかな。

 尾木さんは「学校が最も大切にしている正直な生き方に反する」などと言っているけど、学校が何を大切にしようとも、子供の親が大切にするのは進学と就職。夏休みの宿題くらい、嘘ついたっていい大学に入っていい会社に入る方が子供は幸せなんですよ。スタートで失敗したらすべてがアウトの格差社会なんだから、そんなことは当たり前でしょうに。

 だいたい、学校なんて「水にありがとう」なんて言ってみたり、ゲーム脳なんてものを信奉してみたり、掛算に順序があるとか言ってみたり、道徳の教科書で「江戸しぐさ」なんて嘘っぱちを教えているわけでしょ。学校だって正直な生き方なんてどうでも良くて、嘘も方便だとしか思っていないだろうに。

 今の社会が求める子供は、夏休みに毎日天気を記録する子供じゃなくて、毎日株価をチェックする子供。
 でも、それが露骨すぎるといけないから、子供は空気を読んで、子供らしく務めている。
 子供だって学校の欺瞞に気づいてる。でも、大人が求めるから、子供らしく勤める。

 そんな学校教育と社会の関係性が孕んでいる大きな欺瞞を放置したまま、たかだか小銭をかすめ取ろうとするだけの宿題代行業者にキレて「私は良識あるいい大人です」とばかりに振る舞うなんて、それこそが欺瞞の悪用に過ぎない。
 そんなことに怒るヒマがあったら、進学就職というルートでしか人が幸せになれない日本社会の問題にこそ、怒るべきなのである。

*1:「宿題代行サービス」作文1枚5000円!? 尾木ママ「れっきとした詐欺罪」「教育犯罪」と断罪(J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2014/08/28214330.html?p=all
*2:2014年08月27日のブログ(尾木直樹(尾木ママ)オフィシャルブログ「オギ☆ブロ」)
http://ameblo.jp/oginaoki/day9-20140827.html
*3:内田樹さんの連ツイ-宿題代行の是非だって?メディアは「賛否両論」を取り上げると称して、箸にも棒にもかからない愚論を紹介するな(Togetter)
http://togetter.com/li/714317