後悔を長引かせない方法はあるのか。筑波大学の上市秀雄准教授は「友人とけんかをしたり、約束を破ったりしたときは謝罪することで後悔を減らすことができる。一方、非常に大きな出来事で後悔を感じたときは、しばらく何もしないというネガティブな対処法も有効だ」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、上市秀雄『後悔を活かす心理学』(中公新書)の一部を再編集したものです。

■大学生は後悔したときにどのように対処してきたか

後悔はそのままにしておくと、精神のみならず体調にもよくない影響を及ぼす。悲観的な考え方をする人は、楽観的な人よりも、病院の診察回数が多い、感染症にかかりやすい、免疫機能の働きが弱いなどのように、健康状態が悪い傾向がある。このことは、後悔などのネガティブな感情を持っている人にも関係する可能性が高い。それでは後悔に対して、どのように対処すればよいのだろうか。

実際に経験した後悔に対する有効な対処法について、大学生を対象にした研究を紹介する。

今までの人生において、最も後悔した対人関係に起因する後悔(けんかした、人を傷つけた、約束を守らなかったなど、自分以外の相手がいる場合の後悔)、および一般的な後悔(やるべきことをやらなかった、○○をした/しなかったなど主に自分自身に影響する後悔)それぞれについて、後悔した出来事の内容、行動選択(行動したために生じた後悔なのか、それとも行動しなかったために生じた後悔なのか、どちらか一方を選択)を答えてもらった。

■対人関係の後悔に対する一番の対処法は「謝罪」

そしてそれぞれの後悔した出来事に対して、その出来事が起こった当時の後悔の程度(0%:全く後悔しなかった〜100%:非常に後悔していた)、後悔対処法(その後悔に対してどのような対処をしたのか)、今現在の後悔の程度(0%:全く後悔していない〜100%:非常に後悔している)について回答を求めた。

その結果の一部を図表1に示す(数値は平均値)。四角で囲まれたところが、役に立った対処法である。

出典=上市秀雄・楠見孝.(2002).「後悔への対処法と時間的変化――日常経験の調査に基づく検討」.『日本心理学会第66回大会発表論文集』, 832.

対人関係の後悔に対する対処として有効な方法は、行動した後悔(けんかした、人を傷つけた)と行動しなかった後悔(約束を守らなかった)の両方とも「謝罪」であった。何らかの対人関係から生じた後悔を減少させるためには、相手に謝罪することが必要となる。

行動した後悔については、「何もしなかった」としても後悔は小さくなっている。時間にまかせてしまうことも、後悔を和らげるひとつの方法といえるだろう。

■自分自身に影響する後悔は「自己正当化」で減少

一般的な後悔については、行動した後悔と行動しなかった後悔の両方とも、自己正当化(失敗したが、自分の行動選択は正しかったと思う)が、後悔を減少させる対処として有効であった。

行動しなかった後悔については、代わりの行動をする(生じた後悔を全く異なる行動で解消する。たとえば勉強しなかった後悔をスポーツで頑張ることで解消する、気晴らしをするなど)、合理化(このような結果になったことも今後の役に立つと思う)、勉強する、類似行動をする(そのときに行わなかった行動と似た行動をする。

たとえば、高校のとき勉強しなかったので、大学では勉強する)、行動変更(同じような状況になった場合、今度は行動する)によって、後悔は小さくなった。

■謝罪は心から、自己正当化は限定的に使うべき

これらのことから、「けんかした」「傷つけた」「約束を守らなかった」などの対人関係に関する後悔を低減させるためには、相手に謝罪することが重要である。ただし謝罪は心からの謝罪が必要となる。

単なる謝罪は、「謝罪しているのだから、許すべきだ」と相手に許すことを強制することになるし、「謝っているのになぜ許してくれないのか、許してくれないあなたも悪い」というようなことにもなりかねない。そして自分自身は謝罪することで気持ちは軽くなるが、相手にその分だけ負担をかける場合もある。相手が許してくれるかどうかに関係なく、心からの謝罪をする必要があるといえる。

写真=iStock.com/Bigandt_Photography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bigandt_Photography

なお謝罪は、後悔だけでなく、法律や規則を破ったとき(万引きをした、禁煙場所で喫煙したなど)に感じる罪悪感や恥についても、低減させることができる。

一般的な後悔に関して、行動しなかった場合に生じた後悔については、合理化、代わりの行動、類似行動などをすることで後悔が小さくなる。自己正当化は有効な方法のひとつではあるが、自分自身を省みない責任転嫁という側面もある。自己正当化を用いるときは、「自分の過ちを認めている」「大きなショックから立ち直ろうとしている」など、自分自身に対して十分な省察ができており、成長しようとしている場合などに限るとよいだろう。

■研究成果に基づく後悔対象法の4分類

これまでの研究成果に基づいて、後悔の対処法を分類する。後悔の対処法には大きく分けると2つの次元がある。ひとつ目の次元は、その後悔した出来事に対する考え方や受け止め方を変えることで後悔を低減させようとする心理的対処と、実際に何らかの行動をすることによって後悔したことに対処しようとする行動的対処である。

もうひとつの次元は、後悔が生じた出来事や後悔した状況などに対して真摯(しんし)に向き合い、前向きに対処するというポジティブな方法と、それらに対して正面から向き合わず、後ろ向きな対処をするというネガティブな方法である。図表2は、心理的対処と行動的対処、ポジティブな対処とネガティブな対処という2つの次元によって、様々な後悔対処法を簡単にまとめたものである。

出所=『後悔を活かす心理学』

ポジティブな心理的対処法とは、「このような出来事も、今後の自分にとってよい経験になる」という合理化、「後悔した出来事に対して真摯に向き合い、自分の行為を省みる」という反省、そして、「悪いことが生じてしまった原因や結果を受け入れ、納得する」という結果の受け入れなどである。

ネガティブな心理的対処法は、「このようなことが起こったのはしかたがなかった」という自己正当化、「自分のせいであることを認めない」という否認、「解決しないといけないことから目をそむける」「問題の解決を先送りにする」という先延ばし・先送り、そして、そのことについて何も考えないようにすることなどである。

■「時の流れに身をまかせる」も1つの対処法

ポジティブな行動的対処法は、「今後このような失敗をしないように知識を深め、スキルを磨き、能力を高める」という努力、「悪い結果となった行動とは別の行動をすることによって、後悔したことを取り戻す」という代わりの行動、「喜ぶ」「褒める」「同情する」などのような感情表出、そして「相手に対して真摯に謝る」という謝罪・償いなどである。

ネガティブな行動的対処法は、逃避(悪いことが生じた出来事から逃げる、関わらないようにする、やつあたりをする、他の行動に逃げる)、感情表出(怒り、敵意、嫉妬、悲嘆、軽蔑をする)、および何もしない(特に何もしない、考えないようにする、時の流れに身をまかせる)である。

■ネガティブな対処法が悪いとは言い切れないワケ

基本的には、ポジティブな対処法はよい対処法である。なぜならば、後悔を低減させるだけでなく、適応的行動を促進するからである。ここでいう適応的行動とは、「人が何かを経験した後、その経験を活かし、その後の行動をよりよい方向に改善するための認識や態度・行動」のことである。

さらに詳しく定義すると、「経験を活かすために、自分自身や周囲の環境に直接的・間接的、あるいは能動的・受動的に働きかけ、自分のみならず他者の態度や行動の改善・成長を阻害する要因を減少させたり、それらを促進する要因を増加させたりする認識や態度・行動」のことになる。たとえば、謝罪は適応的行動(同じ過ちを繰り返さないなど)を促進する。

しかしながら、ネガティブな対処法が一概に悪いとは言い切れない。図表1に示したように、一般的な後悔の場合では、「自己正当化」によって、行動した後悔と行動しなかった後悔の両方とも低減している。対人関係の後悔の場合では、行動をしたための後悔(けんかなど)については、「何もしない」ことにより後悔が低減している。時と場合によっては、ネガティブな対処法も十分に役に立つ場合があるといえる。

■あまりにも大きな出来事を受け止めるには時間が必要

非常に大きな後悔を感じてしまった場合、それを受け止めるには時間が必要である。そのような場合には、無理にその出来事に向き合うよりも、少し距離を置いたほうがよい。非常に大きなストレスやトラウマを抱えるような出来事に直面した場合、その出来事を受け入れるまでには、いくつかの段階を経ることが知られている。

末期のがん患者が死を受け入れるまでにたどる心理的過程には、第1段階「否認と孤立」(自分は死ぬはずはない、周囲からの孤立)、第2段階「怒り」(自分自身や周囲の人たちに対する怒り)、第3段階「取り引き」(どんなことでも受け入れるので、助けてほしい)、第4段階「抑うつ」(嘆き、悲しみ、失望、無力感)、第5段階「受容」(死の受け入れ)という5段階がある。

このような場合、自分自身と向き合うためには、ある程度長い時間が必要となる。「死」というような極端なことだけでなく、大きな事件や事故に見舞われた場合なども、同じような段階を経るだろう。

これらのような、あまりにも大きな出来事の場合には、自分自身やその出来事などに向き合うことはせず、それらから離れることも重要である。それらから離れていることで、自分の気持ちを把握し、その出来事を客観的に見ることができるようになるだけの心理的な余裕が生まれる。時と場合によっては、「何もしない」「考えないようにする」ということも非常に有効な方法になる。

他にも、自分の感情を爆発させることで、気持ちがスッキリすることもある。自分に対して怒ることによって、自分自身に対する不信感や情けなさを払拭(ふっしょく)したり、あるいは他者に対する悲しみなどを表出することで、自分の気持ちに整理をつけたりすることはよくある。そしてその後に、何らかの対処をすることによって、その出来事に対する後悔がずっと続くことを防ぐことが可能になるだろう。

■万能な対処法がないからこそ臨機応変に使い分ける

これらのことをまとめると、後悔対処法には、心を落ち着かせ、ダメージや後悔が大きくならないようにするために有効な方法と、後悔を低減させ、長期間続かないようにし、適応的行動を促進することに有効な方法の2つがあるといえる。これらの対処法の関連性は、図表3のようなプロセスになっている可能性がある。

出所=『後悔を活かす心理学』

非常に大きな後悔を感じるような出来事の場合、ネガティブな心理的対処→ネガティブな行動的対処→ポジティブな心理的対処→ポジティブな行動的対処という順番で行うとよいだろう。

たとえば、今後の人生に影響を及ぼすような失敗をしてしまったとき、その起こってしまったことに対して自分は悪くないと自己正当化をしたり、その出来事の解決を先延ばしにしたり、その出来事を考えないようにしたり(ネガティブな心理的対処)、感情を爆発させたりする(ネガティブな行動的対処)ことで、自分自身の心を落ち着かせ、事態がさらに悪化することを防ぎ、後悔が長く続かないようにすることが期待できる。

上市秀雄『後悔を活かす心理学』(中公新書)

その後、心やその事態がある程度落ち着いてから、今回の結果を受け入れ、反省し(ポジティブな心理的対処)、今後同じようなことにならないように自分のスキルや判断力を高めるような努力(ポジティブな行動的対処)をすることで、後悔をより低減させ、自分自身の行動をよりよいものに改善することもできるだろう。

それほど大きな出来事ではなく、あまり深刻ではない後悔の場合、ネガティブな対処は適応的行動をあまり促進させないため、同じような過ちが繰り返されるかもしれない。あまり深刻ではない後悔の場合には、ポジティブな対処をするほうがよいといえる。

ある後悔に対して「絶対に○○という対処をすればよい」ということはない。どのような後悔にも適用できる万能な対処法もない。どの対処法を用いればよいのかは、後悔している人の心理状態や置かれている状況などで変わるのである。

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上市 秀雄(うえいち・ひでお)
筑波大学システム情報系社会工学域准教授
1964年山口県生まれ。1990年千葉大学文学部行動科学科(心理学)卒業。1999年東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士課程修了。博士(学術)。東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻助手などを経て現職。専攻は意思決定論、認知心理学(リスク認知)、感情(後悔、後悔予期)、社会心理学。
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(筑波大学システム情報系社会工学域准教授 上市 秀雄)