Microsoftは早期からアクセシビリティー(この場合は障がい者支援)機能に注力してきた。下図はWindows 95のデスクトップだが、このころは「ユーザー補助」として同機能を提供している。当時はまだ若かった筆者は利便性に気付かず、不要な機能と思っていた。だが齢(よわい)を重ねて五十路(いそじ)を迎えると、身体の各所が思うように動かなくなり、コロナ禍の運動不足も相まって日常生活に支障が出るようになってきた。ありがたいことに現時点でアクセシビリティー機能の大半は不要だが、拡大鏡はたまに使っている。

Windows 95のデスクトップ

Windows 11では過去のアクセシビリティーツールに加えて字幕機能や音声認識など多角的な強化を図っており、Microsoftが現地時間2022年5月10日に公開した公式ブログにて、さらなる機能強化がアナウンスされた。

まずは通知機能。現行のWindows 11でもアプリケーション単位の通知設定や、一定条件下で通知を受け付けない集中モードを備えているが、そこに「応答不可」「フォーカス」が加わる。正確には既存の集中モードが「応答不可」に置き換わり、集中を妨げるアプリのバッジやタスクバーボタンの点滅などを抑制するというものだ。Microsoftは「ADHD(注意欠如・多動症)を抱える人々の集中体験を思い描いた」と本機能の実装した理由を述べている。下図はWindows 11 Insider Preview ビルド22616のデスクトップだが、フォーカスモードを有効にするとタスクバー右端の通知アイコンが変化し、セッション中に受け取った通知は表示されない。

Windows 11 Insider Previewのフォーカスモード

次は字幕機能。普段は自宅で仕事をしているが、集合住宅特有の騒音問題に悩まされることも少なくない。仕事中は常に耳栓やノイズキャンセリングヘッドホンを身につけている。しかし、すっかり定着したオンライン発表会は玉石混淆(ぎょくせきこんこう)。プレゼンターがマイクをこする雑音や音声ラインの取り回しミスによる音割れが頻繁に混ざったりすると、ヘッドホンで聞いていて頭が痛くなるほどだ。

そのため音声よりも文字の重要性が高まり、Windows 11の字幕機能に期待を寄せていたが、現行のWindows 11は字幕機能を呼び出す方法を提示していない。この点を改良したのが、Windows 11 バージョン22H2が備える長所の一つだ。

字幕機能を利用するには最初に音声認識エンジンをダウンロードする

本稿執筆時点では英語音声のみ対応だが、「Win」+「Ctrl」+「L」キーでライブキャプションをオンに切り替えると、アプリで再生した音声がデスクトップ上部に字幕として現れる。音声認識エンジンは事前にダウンロードする仕組みで、オフライン環境でも利用可能。願わくば日本語への早期対応を望みたいところだが、基盤技術となる音声認識はAzure Cognitive Servicesを利用するサービス群やMicrosoft 365のトランスクリプト機能で日々磨かれているため、それほど待たずに実現するのではないだろうか。

Windows 11 Insider Previewの字幕機能

ほかにもWindows 11 バージョン22H2には、音声でWindows 11を操作する「音声アクセス」や、画面の文字列を音声で読み上げる「ナレーター」の品質向上(いずれも英語環境のみ)が加わる予定だ。興味を持ったら日本マイクロソフトの公式ブログをご覧いただきたい。Microsoftには、このままアクセシビリティーに注力する姿勢を崩さないでいてほしいものだ。

著者 : 阿久津良和 あくつよしかず 1972年生まれのITライター。PC総合誌やDOS/V専門誌、Windows専門誌など、各PC雑誌の編集部員を経たのちに独立。WindowsとLinuxをこよなく愛しつつ、PC関連の著書を多数手がける。近年はBtoCにとどまらず、BtoBソリューションの取材やインタビューが主戦場。休肝日を設けず日々飲み続けてきたが、γ-GTP値が急激に増加し、早急な対応を求められている。 この著者の記事一覧はこちら