ノーベル賞の文学と平和の受賞者には末っ子が多いようです。その理由とは? (写真:metamorworks/PIXTA)

心理学という学問の研究対象は、私たち人間です。
心理学で明らかにされている法則や公式のようなものは、身近なケースとして「ああ、そういうことってよくあるよな」「なるほど、だから私はよく間違いをしちゃうのか」と、体験的に理解できるものが少なくありません。

『人と社会の本質をつかむ 心理学』は、そんな心理学の基礎から発展までを学べる1冊です。本稿では同書より一部を抜粋しお届けします。

政治家に長男・長女が多い理由

政治家には、調べてみると、なぜか異様に長男と長女が多いのですよ。もう、不思議なくらい長男と長女だらけ。

麻生太郎さんとか、河野太郎さんのように、「太郎」という名前の政治家は多いのですが、「太郎」というのは、長男につけられることの多い名前ですから、政治家に「太郎」という名前が多いのもうなずけます。もちろん、小泉進次郎さんのように次男、三男の人がいないわけではありませんが。

では、なぜ政治家には長男・長女がこんなに多いのでしょう。

オランダにあるライデン大学のルーディ・アンデウェグによると、それは親のしつけと関係があります。

たいていの親は、長男と長女にはものすごく大きな期待を持ちますし、厳しくしつけます。しっかりした大人になってもらいたいので、そうするのですが、そのため長男と長女は責任感があって、しっかり者になりやすいのです。

兄弟の出生順位でいうと、2番目、3番目、4番目となると、親も教育をするのに疲れてしまうのか、だんだんいいかげんになってきます。そのため、2番目や3番目になると、自由にのびのびと育てられ、性格のほうもいいかげんになりやすいのです。

長男と長女は、兄弟姉妹の中では、一番上なので、家庭の中でリーダーになりやすいことも理由に挙げてよいでしょう。長男と長女は、兄弟との付き合いの中で、リーダーシップも自然に養われていくのです。こうした理由によって、長男と長女は、非常に政治家向きの人格を形成していくのだろう、というのがアンデウェグの指摘です。

アンデウェグが、オランダの地方議員と国会議員の両方を調べても、やはり長男と長女が圧倒的に多く、中間子(真ん中)は非常に少なかったそうです。

政治家は、国民を守るために、しっかりした人になってもらわなければ困ります。中途半端なところで、簡単に諦めて投げ出すような人では、私たちも困ってしまいます。そのため、政治家に長男と長女が多いということは、まずは安心できるといえるでしょう。長男と長女には、面倒見がよく、世話焼きで、しっかりした人が相対的に多いですからね。

ついでにもうひとつ面白い研究をご紹介しておきましょう。

アメリカロード・アイランド・カレッジのロジャー・クラークは、197名のノーベル賞受賞者の出生順位を調べて、物理学、化学、経済学、医学の受賞者には長男と長女が多く、文学と平和の受賞者には末っ子が多いことを突き止めました。

しっかり者の長男と長女は、研究するときにも簡単に諦めたりしませんし、投げ出したりもしません。コツコツと同じ研究にずっと取り組むことができることが、ノーベル賞受賞につながるのでしょう。

その点、末っ子のほうは、わりとのびのびと育てられるので、そのぶん自由な発想ができるような大人になり、そのことが文学賞や平和賞の受賞につながるのかもしれません。

末っ子ほど、リスクをおそれない

長男と長女が、どちらかというと保守的で、あまり危険を冒さないタイプに成長するのに対して、末っ子のほうは逆にリスク・テイカーとして成長していくことも知られています。

カリフォルニア大学バークレー校のフランク・サロウェイの研究によると、末っ子は、第一子(長男・長女)に比べて、1.48倍もリスクの高いスポーツを好むそうです。ラグビーやアメフトなど、激しいぶつかり合いを好むのが末っ子。長男と長女は、水泳ですとかゴルフですとか、あまりケガをしないスポーツを選ぶ傾向があります。

サロウェイはまた、兄弟がともにメジャーリーガーになった700名を分析し、弟のほうが盗塁の試みを10.6倍もすることを突き止めました。10倍ですよ。

お兄ちゃんのほうはというと、無謀な盗塁をあまりしません。もし盗塁に失敗してアウトにでもなったら、元も子もないと判断するのでしょう。お兄ちゃんはそういう危険をあまり冒したくないのです。

その点、弟は違います。リスクをとるのに躊躇しません。自分が走れると判断すれば、積極的にチャンスを狙っていく、という挑戦的な姿勢を持っているのです。そういう姿勢が功を奏するのか、サロウェイによれば、弟のほうが、お兄ちゃんに比べて盗塁を成功させることも3.2倍多かったといいます。

どちらがよい、というわけではない

リスクをとるのがよいのか、それともリスクを避けたほうがいいのかは状況によります。どちらのほうがよい、というわけではありません。ただ、「そういう事実がある」ということを述べているだけです。

もし自分が兄妹の下の人は、「リスク・テイカーになりやすい」という事実を知ると、「なるほど、だから私は小さな頃から、危なっかしいことばかりやっていたのか」ということに納得できるかもしれません。私がそうでした。


私には、姉がおりますので、やはりリスク・テイカーなところがあります。長女の姉は、石橋をたたいて、たたいて、それでも石橋を渡らないくらいにリスクを回避しようとしますが、弟の私のほうは、がむしゃらに突き進んで痛い思いをすることが多いタイプです。まさにサロウェイが明らかにしている事実どおりなので、笑ってしまいますね。

兄弟の出生順位に関しては、自分ではどうにもならないことなので、それはもう受け入れるしかないのですが、自分が長男であるとか、末っ子であるということに向いている適性や適職というものがあるはずですので、そういうものを探してみるとラクな人生を歩めるのではないでしょうか。自分に不向きな仕事をするのは苦痛でしかありませんからね。

(内藤 誼人 : 心理学者、立正大学客員教授、アンギルド代表取締役社長)