"苦手"の原因は5種類ある「勉強ができない子」の才能を開花させる最強の寄り添い方
※本稿は、岡田尊司『発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■勉強が苦手になる子どもの5つの原因
勉強が苦手というケースでも、その子のもつ特性はさまざまだ。原因により、大きく5つくらいのタイプに分けられるだろう。
一つは、知的能力が全般に低い場合で「知的障害」と呼ばれる。意外に気づかれにくく、支援からも漏れやすいのは、知能のグレーゾーンで、「境界知能」の場合だ。
また、言語面の能力だけが低いものが、「言語障害」だ。数学は得意なのに、国語や社会が極端に苦手で、話す言葉もたどたどしいという場合に疑われる。
三番目は、全般的な知能は正常範囲なのに、ある領域の学習能力だけが極端に低いもので「学習障害」と呼ばれる。つまり、学習障害は、勉強ができないという意味ではない。漢字を書くこと、文字や文章を読むこと、計算や算数といった一つの領域が極端に弱いところがあるとき、診断される。ある領域に限られていることを示すために、「限局性学習障害」という用語も使われる。
四番目は、知的能力自体の問題によるというよりも、注意力や課題遂行の能力の問題のため、集中力が維持できなかったり、提出期限が守れなかったりして、学業に支障をきたすもので、ADHDが代表である。
五番目も、知的能力自体の低下はないものの、こだわりが強く、関心が偏ってしまうために、好きな教科しか勉強しなかったり、細部にばかり気をとられ、効率のよい勉強ができず、よい成績がとれない場合で、ASD(自閉スペクトラム症)の傾向をもった子によく見られる状況だ。
本稿では、グレーゾーンのケースに多い、境界知能と学習障害を中心に説明することにしよう。
■気づかれにくい知的障害のケース
早く知的障害の存在に気づかれた場合は、さまざまな支援を受けられるので、障害はあっても、その子なりのペースで発達していけると言える。むしろ問題は、知的障害の存在がわからないまま、普通学級で無理を強いられた場合や、知的障害というほどではない境界レベルの場合だ。
気づかれにくいケースとしては、ある部分の能力が高いため、ほかの能力もそんなに低いはずはないと、周囲が思い込んでしまう場合が多い。
たとえば、言語や社会性の能力が比較的高く、コミュニケーションにあまり問題がないという場合、印象としては、知的障害があるように感じられない。しかし、知覚統合や作動記憶が低いため、学習内容が難しくなると、ついていけなくなってしまう。どうして、こんなことができないんだろうと、周囲は意外に思うわけだが、知能検査をしてはじめて、大きなハンディを抱えていることに気づくことになる。
■小学校までは成績が良いケースも
境界知能は、知能指数が70〜80(85とする場合も)のレベルの知能をもつ場合をいう。一般人口の二割近い人が当てはまる。なかには、小学校までは成績がよい子もいる。しかし、勉強内容が難しくなり、抽象的で高度な理解力を必要とするようになると、次第についていくのが苦しくなっていく。努力だけでは、補いきれなくなってしまうのだ。
しかし、周囲からは、高い期待をかけられている場合もあり、次第にまわりの期待が重荷になっていく。一方的に期待を押しつけようとする親との関係が悪化し、反抗や非行に向かうケースや、ゲームや恋愛、薬物乱用など依存的な行為にのめり込むケースもある。勉強では結果が出せない挫折感を、ほかのかたちで発散しようとするのだ。期待に押しつぶされて自信を失い、引きこもりに陥る場合もある。
こうした場合、発達検査を受けて、本人の現実を客観的に知り、親が過大な期待をかけるのを止めることで、事態が改善に向かうことが多い。
■読み書き・計算が苦手な「学習障害」
もう一つ、勉強が苦手な原因となることが多いのが学習障害(LD)だ。学習障害は、知的能力は低くないのに、読み書きとか計算といった特定の領域の学習だけが苦手なタイプである。
苦手な領域が一つの領域に限られている場合もあるし、いくつかにまたがっている場合もある。それでも、知的能力は正常範囲ということは、ほかに優れた点があるからだ。
作業的な能力が長けているという場合や、視覚・空間的な能力が高く、運動や工作、技術、芸術、演劇などの分野に優れているという場合もある。匠と呼ばれるような職人や名工、アーティスト、詩人など一芸に秀でた人には、学習障害やその傾向をもった方が少なくない。凸凹がないと、特別な能力は生まれないようだ。
■視覚・空間型はやりたいことを好きにさせるべし
学習障害と近い関係にあるのが、「視覚・空間型」と呼ばれるタイプで、言葉で考えたり表現したりすることは苦手だが、目や手足、体を使って、実際に作業しながら、感覚的に理解したり表現したりすることが得意なタイプだ。座学には向かないが、実技となると生き生きとして、本領を発揮する。
視覚・空間型の人では、しばしばある領域に異才をもつことがある。言語的な能力も劣っているとは限らず、詩人には、視覚・空間型の特性をもつ人が少なくない。
詩人の金子光晴は、学校に自分の居場所はないと感じていたが、幾何学と絵だけは得意だった。『ちいさい秋みつけた』などの作品で知られる童謡作家で詩人のサトウハチローは、母親を捨てた父親に反発して非行に走り、札付きの不良になっていたが、また野球少年でもあった。
『ネバーエンディング・ストーリー』などファンタジックな児童文学の金字塔を打ち立てたドイツの作家ミヒャエル・エンデは、大の学校嫌いで、落第生だった。古典語も数学も悲惨な成績だったが、唯一図画だけは成績がよかった。作品を彩るあの豊かなイメージは、視覚・空間型ゆえのものなのだろう。
このタイプの人を伸ばすには、あまり勉強にはこだわらず、好きな道や適した分野を見つけて、手に職をつけさせることである。自分のやりたいことを追求しているうちに、天性の才能が開花し、大化けすることもある。
■特性に合った技能や職業で活躍
学習障害では、言語理解やワーキングメモリが低く、処理速度が高いというパターンを示しやすい。処理速度は比較的単純な課題を素早く処理する能力だが、それがほかの群指数よりもずっと高いということは、逆に言うと、言語理解、知覚統合などの複雑な処理や知識を必要とする課題が苦手だということだ。
英語や数学のような、いわゆる学習課題は苦手だが、単純作業をてきぱき行う能力は優れている。学校時代は、勉強で苦労しがちで、つらいことも多いが、本人の特性に合った技能や職業に出会えると、社会に出てから活躍するケースも多いのである。
■ASDの傾向をもつ場合もある
処理速度だけが高いというケースでは、程度の差はあれ、社会的コミュニケーションの困難をともないやすい。言語理解やワーキングメモリが弱く、言葉を操るのも話を聞きとるのも苦手なうえに、知覚統合も弱く、場の状況や相手の立場を読みとるのが不得手ということになれば、社会的コミュニケーションがうまくいかないとしても、ある意味、無理はないと言える。
なかには、ASDの傾向をもつ場合もある。ASDにも、処理速度が相対的に低いタイプ、つまり、言語・記憶優位な理屈っぽいタイプと、処理速度が相対的に高い、単純作業が得意なタイプがあると言える。同じASDタイプでも、特性が大きく異なるため、職業選択においてこうした点を考慮することはとても重要である。
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岡田 尊司(おかだ・たかし)
精神科医
1960年、香川県生まれ。京都大学医学部卒。岡田クリニック院長、日本心理教育センター顧問。『あなたの中の異常心理』(幻冬舎新書)、『母という病』(ポプラ社)など著書多数。小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『あなたの人生、逆転させます』(新潮社)などの作品がある。
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(精神科医 岡田 尊司)