世界トップと戦い「どの位置にいるのかわかった」


世界選手権リズムダンスの村元哉中&郄橋大輔 photo by Getty Images

 試合後のミックスゾーン取材で、とある外国人記者が村元哉中と郄橋大輔に質問をしたあとにひとつ言伝をした。

「(振付師の)デヴィッド・ウィルソンからの伝言で、『本当に会えなくてさみしいけど、頑張ってください!』とのことです」

 思わぬメッセージに、やや表情が硬かった郄橋は相好を崩した。その記者に対し、「Say hi to him(彼によろしくって伝えて)」とフランクな英語で返答した。隣にいた村元もつられるように笑顔になって、その場の空気はふわりと和んだ。

"かなだい"と親しまれるアイスダンス村元・郄橋組は、ひとつのチームとしては初めての世界選手権を終えたところだった。

 3月25日、フランス・モンペリエ。世界選手権のアイスダンス、かなだいは世界のトップ選手たちと一堂に会している。カップル結成2年、郄橋に至ってはシングルからの転向2年目で、その場に立ったこと自体が快挙と言える。

「(郄橋)大ちゃんと滑っているのはたまに不思議で、幸せだなって思うくらい」

 村元はしみじみと言う。

「5分間練習で、『ダイスケ・タカハシ』って名前が呼ばれた時、みんなシングルスケーターとしての大ちゃんを知っているので、ひとりのスケーターとしてすごいなと。大ちゃんと一緒に滑れているって、あらためてすごいことだなって思います。大ちゃんと一緒に世界選手権のアイスダンスで滑れて本当によかったなって」

 リズムダンス(RD)、かなだいは『ソーラン節&琴』で世界を魅了した。漁師の生命力や海の雄大さにヒップホップの異国的律動が重なった。プログラムについて「派手さだけじゃない奥ゆかしさを」と郄橋は説明し、「日本人の表に出さない秘めた思いを」と村元は語ったが、それを見事に体現していた。プログラムコンポーネンツだけで言えば12位で、スケーティングの見事さを示したと言える。

 もっとも、日本の歴代最高得点を記録したNHK杯、ワルシャワ杯の時と比べると取りこぼしがあり、点数そのものは伸びなかった。

「(前半の)演技がよかっただけに、決めなきゃという気持ちが出すぎて」

 郄橋はそう言って唇をかんだが、ふたつ目のツイズルがほどけた。

「ツイズルはメンタリティのところが大きくて。2個目のツイズルは(練習でも)ハマったりハマらなかったりを繰り返し、知らず知らずに不安要素になっていました。毎日、同じようにできていないところだったので。会場に入って、(調子は)悪くはなかったんですが、これが世界選手権なんだなって」

 RDは67.77点で15位だった。下を向くような得点ではない。フリーダンス(FD)に進出できたことは、日本選手の過去の成績と比較しても確実な収穫だ。

 そして3月26日、かなだいはFDで2年目となる『ラ・バヤデール』で、その世界観を再び表現している。バレエ作品曲だけに、それぞれ手の動きからフリーレッグまで優雅で、陶然とさせる調和があった。

 特に海外でふたりの演技に対する評価が高いのは、エッジが深く、体の傾斜で角度をつけ、指先まで神経を通わせた調和にある。写真になった時にわかりやすいが、一枚の絵として美しい。音が鳴って、動き出しそうな躍動感だ。

 しかし、カップル2年目と経験の差はあって、技術面の再現性では苦労した。例えば、ローテーショナルリフトはレベルが取れなかった。なかなかGOE(出来ばえ点)を稼げず、得点は96.48点にとどまっている。

「世界のトップと戦えたことで、自分たちが世界のどこに位置しているのか、実感することができました」

 村元は言うが、ふたりは新たなフェーズに進んだと言えるだろう。

「リズムもフリーも練習ではよくて、自信を持って臨めました。でも実際は取りこぼしが多く、普段はやらないミスが試合で出てしまって。チームとして、試合の経験が浅いことを実感する世界選手権になりました」

かなだいの競技継続は現時点では白紙

 合計で164.25点、16位で終わった。競技だけに点数や順位は重要で、ミスは改善する必要がある。しかし、繰り返すがふたりの場合は結成2年で、その舞台に立ったことがメダルに値する。

「世界選手権が終わったばかり、今は先を考えず大会を楽しみたいです。2年間、突っ走ってきたので、気持ちにバケーションを上げて(笑)。そこでしっかり考えたいと思っています」

 来シーズンもアイスダンスを続けるかを問われた郄橋は明言を避けたが、それだけ渾身の2年間だった。

「僕はゼロからのスタートで、成長しかありませんでした。昨シーズンはアイスダンサーという実感がほとんどなかったですが、今シーズンはアイスダンサーになれたのかなって。シーズンを通して自信が持てるところと持てないところと、振り幅はあるんですが。先は決まっていないですが、ポテンシャルはまだまだあるはず、これで100%ではないかなって」

 去就は、現時点で白紙だ。

 ひとつ言えるのは、ふたりがスポーツ界でセンセーションを起こしたということだろう。アイスダンスの人気を向上させ、フィギュアスケート全体にもたらした恩恵は計り知れない。たった2年で、世界の扉を開けたのだ。

ーーアイスダンスの続きを見たい、と思っている人は多いですよ。これで終わりはもったいない!

 世界選手権の熱気が残る会場にいる郄橋に、そう言葉をかけた。

「ありがとうございます。言葉は受け入れて聞いておきます(笑)」

 彼はいつものように朗らかな声で答えた。

「(同じことを)周りのみんなに言われているね」

 隣で村元が郄橋に笑いかけた。

 ふたりは4月8日からのアイスショーに凱旋出演後、決断を下すことになるはずだ。