「下げ相場」で勝ち組投資家がやっていること
一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、資産形成、経済的自立のために知っておくべきお金の教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに10000件以上の評価が集まっている。そして日本でも、ついに本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』が発売となった。その刊行を記念して、本書の一部を特別に公開する。
下げ相場は「楽観主義」で見守る
通常、楽観主義とは、「物事がうまくいくと信じること」だと定義されている。だが、これでは不十分だ。賢明な楽観主義とは、「たとえ途中で不運に見舞われたとしても、長期的に見れば物事は自分が望む方向に進むと信じること」である。
長い道のりを歩もうとすれば必ず浮き沈みがある。長期的には右肩上がりに成長すると楽観的に考えながら、その途中には地雷がたくさん埋められていることも予あらかじめ想定しておくべきだ。この2つは、相反するものではない。
「短期的には失敗しても、長期的には成功できる」という考えはすんなりとは理解しにくいが、この仕組みでうまくいっているものは世の中に無数にある。
たとえば人間の脳のシナプス結合は、2歳から20歳までのあいだに半減すると言われている。成長の過程で、非効率的で冗長な神経経路が取り除かれるためだ。
もし、親が自分の子どもの頭のなかをのぞき込めるとしたらどうだろう。毎朝、観察するたびに、子どもの脳のシナプス結合が減っていくのを見てパニックになり、「たいへんだ。どんどんシナプスが減っている。医師に診みてもらおう!」と考えるだろう。だが親が目にしているのは、正常な成長の証なのだ。
市場は、損失のなかで成長していく
経済も、市場も、キャリアも、「損失のなかでの成長」という似通った道筋をたどることが多い。下図は、過去170年間の米国経済の推移だ。
あなたは、この期間に何が起こったかをご存じだろうか? どこから始めればいいかわからないくらい多くの出来事があった。
●大きな戦争が9度あり、130万人の米国人が亡くなった
●創業された企業の約99.9%が倒産した
●米国の大統領が4人、暗殺された
●インフルエンザの大流行により、1年間で67万5000人の米国人が亡くなった
●30回の自然災害で、それぞれ400人以上の米国人が亡くなった
●33回の景気後退が、累計48年間続いた
●これらの景気後退を予測できた人はほとんどいなかった
●株価が直近の高値から10%以上も下落したことが少なくとも102回あった
●株価が3分の1に暴落したことが少なくとも12回あった
●インフレ率が7%を超えた年が通算20回あった
●グーグルによれば、「economic pessimism(経済的悲観論)」という言葉が新聞に2万9000回以上掲載された
この170年で、米国人の生活水準は20倍になった。だが、悲観的な理由がない日はほとんどなかったのだ。だが、長期的な楽観主義から得られるメリットを享受するためには、短期的には悲観的な状況を受け入れる必要がある。
(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)
ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。