80代、山梨の自然との暮らし。得たものは「お金で買えない幸せ」
若い頃には船と陸路で世界を半周。帰国後には学習塾を経営。アグレッシブに人生を切り開いてきた大蝶恵美子さんは今、自然豊かな山梨県の山荘で、土鍋作家として暮らしています。自然の恵みを満喫しながらの、お金をかけなくても豊かな暮らしとは、どんなものでしょうか?
80代、自然からの恵みと人の縁に守られた暮らし
土鍋作家、大蝶恵美子さんの自宅「大蝶山荘」は、山梨県の八ヶ岳山麓にあります。この土地は、もともと住んでいたわけでも、親戚がいたわけでもなく、40代のころ、ひょんなことで出会った場所でした。
●人生と格闘中に出合ったオアシス
「初めてこの土地に出合ったときは母も一緒でした。偶然訪れたんですが、あまりにも美しくて、すっかり気に入って。土地を買って小さな家を建てて、セカンドハウス兼アトリエにしたんです。母を連れて、静岡と山梨をずいぶん往復しました。母の介護もここでしましたが、緑深い静かな環境で、母にとってもとてもよかったと思っています」
塾経営の傍ら陶芸を学び始めたのが20代の半ば。何事も始めると夢中になる大蝶さん、休みにはヨーロッパへ渡り、陶芸修行。やがて土鍋をつくり始め、ここに本格的な工房を構えました。
「陶芸の学校でも土鍋の制作は教えてくれませんでしたから、なにもかもが手探り。静岡の学習塾も60代まで続けていました。山梨の家で過ごす時間は安らぎでもあり、挑戦でもあり。忙しい人生です(笑)」
●年齢を重ねるごとに暮らしはシンプルになっていきます
土鍋づくり同様、山梨での暮らしそのものが試行錯誤の連続でした。
「ここで暮らしているとね、じつはあんまりお金がかからないんです。畑で野菜もとれるし山菜も豊富。ありがたいことにお友達もできて、お互い作物を交換したり、困ったら助け合ったり。人と人のつながりが、暮らしの根幹を支えてくれています」
現在、母屋として使っているスペースは友人たちと力を合わせ、大工の棟梁さんに指導してもらいながら増築した部屋! かつての居室は土鍋のショールームになっています。家の中にはパソコン環境が整い、なんとアマゾンエコーも! 最近は寒かったお風呂場を思いきってリフォームしました。
80代の女性の一人暮らしでもそこまで住環境が整えられるのは、この土地で知り合った友人たちのおかげです。
「私は私にできることでお返しをする。たとえば、友人のお子さんが高校生だったら、勉強を見てあげる。学問の基礎は変わりませんから、受験のお手伝いは今でもできます」
●環境を生かして暮らせばお金はかからない
「寒いならストーブに火を入れる。水が豊かで土が肥えているなら畑を作る。この環境に人工的なものを取りいれると、無理な暮らしになるんです。自然の恵みをいただいているのに、それじゃ申し訳ない」
お母さまが存命だったころは園芸種の花を植えてお世話していた庭も、今はあえて何もせず見守っています。鳥が運んできた種が芽を吹き、オニユリやオミナエシなどの在来種が、次々と息を吹き返しています。
そんな大蝶さんの生活費は、月々およそ16万円とちょっと。
そのうち仕事の経費(焼成窯の維持費など)は2万5000円ほどなので、実質は13万円ぐらいです。
【固定費】
固定資産税(月割り) 1万円
電気代・ガス代・水道代 3万5000円
通信費(スマホ、固定電話、インターネット) 1万4000円
社会保険料 8500円
合わせるとおよそ7万円
【変動費】
食費 3万円
交通費 1万円
ファッション・美容代 5000円
日用品 5000円
交際費 2万円
医療費 ほぼゼロ
仕事の経費 2万円(外食費含まず)
合わせるとおよそ9万円
生活費合計は約16万円(仕事の経費含む)
「普通に暮らす分には、さほどかかりません。でも、家はどんどん古くなるし、私も歳をとる。修繕費はこれから恐ろしいほどかかるでしょうね。それに、自分が要介護になる日が来たらどうなるのか。市営の老人ホームに入っても文句を言わない自分を育てておかなきゃ。そのことのほうが大変かもしれないわね(笑)」