コロナ禍でリモートになり、「大学に入りなおした」という30〜40代の女性が増えています。多くの大学のサイトを見ると、「入学してよかった」「社会的地位が上がった」「世界の味方が変わった」「一生の仲間ができた」などの体験談が掲載されています。

それを読み「私もそうなれるんじゃないか、と思って、入学したのですが、1年目にして後悔しています」と語るのは、咲綾さん(33歳)。都内のIT関連会社に勤務しながら通学しています。

32歳、結婚・子供・キャリアの「3ナイ」に不安が増大

咲綾さんが約1年半前に「学びなおそう」と決めたのは、コロナ禍での不安から。

「それまでほとんどSNSを見ていなかったのですが、時間ができたのと、リモートが続いて自分の人生が不安になり、“みんなはどうしているんだろう”と、友人や同級生のSNSを見るようになったんです。そういうときって、イケてる人が発信する情報をつい見ますよね。

そこで衝撃を受けたのは、31歳くらいに大体人生が決まっているのだということ。“勝ち組・負け組”がそのあたりでキレイに別れているんです。“結婚・子供・仕事&やりがい”すべてを手に入れた人は輝いてみえました。我が身を振り返ると、いずれも持ち合わせない“3ナイ”状態。私は自分のことを密かにイケてると思っていたのですが(笑)、気が付いたらイケていませんでした」

多様性の時代、“結婚・子供・仕事&やりがい”にとらわれずに生きようという考えが主流になっていると思いきや、実際はそうでもないと言う。

「実際は…というよりは“本音”です。建前上は”多様化が大切”とは言っているけれど、難関大学はレベルを上げ、大手の採用試験は数百倍。みんな結婚したいから婚活しているし、子供が欲しいから妊活しています。”自由な人生でいいんですよ、多様化ですよ”って言っても、大手に勤務して都内にマンション買って、子供を名門私立小学校に入れている人は、マジで輝いてみえます。

そして、そういう人に限って、バリバリ仕事をしているんですよね。私は大学時代トップクラスの成績だったのに、仕事はいまそんなにできていないし、結婚どころか彼氏もいません。子供だってまだ全然わからない…。そんな不安が増大して、お酒に溺れそうになったり、過度に筋トレして体調が悪くなったりを繰り返したあげく、思い立って“大学に再入学しよう”と決めたのです」

咲綾さんのキャリアは華々しい。都内の名門中高一貫女子校から、有名私立大学に進学し、環境や情報について学ぶ。商社勤務の偉大な父に相談しつつ、倍率400倍ともいえる第一希望のIT関連会社に就職。これも父のアドバイスに従い、会社の手厚い支援制度を使いながら、情報技能検定やウェブ解析しなどデジタルマーケティングに必要な資格を取得。

「今思うと、勉強で人生の不安を消していたんだと思います。勉強することは好きではないけれど、苦ではなかったのと、目に見えて結果が出るのが気持ちよかったので」

将来を考えて資格を取得するが、出世はしない

仕事に「コレジャナイ感」しかない

仕事に必要な資格を取得し、その手当てがついても、仕事にやりがいが見いだせないままだという。

「専門性を持って業務にあたろうと思っても、割り振られるのはチームリーダーの尻拭いをする雑用ばかり。企画を立てようと思っても、何も浮かびません。やりたい仕事が見つからず、入社から8年が経過した30歳時点で、すでに10回以上は異動していました。デジタルマーケの部署にいましたが、仕事に“コレジャナイ感”しかもてませんでした」

会社員で30歳になるころには、出世する人としない人の差が歴然とつくという。出世頭の同期は億単位の予算が付けられ部下が50人もいた。一方、咲綾さんにはまだ何もない。

「昔はタメ口をきいていたのに、自然と敬語になってしまいます。この同期が男性ならよかったのに、女性なんですよね。私も彼女と同じように活躍できる人材になりたい。そのためにはどうすればいいかと悩み、父に相談したら“より専門的な知識を得てみなさい”とアドバイスされました。市場への理解を深めること、事業戦略を立てるには、レベルの高い知識かディスカッションしかないと。私は人と話すことが下手なので、知識を得ようと社会人大学院に入学を決めたのです」

社会人大学院はさまざまな形態があり、働きながら通学できるところも多い。また、一般的に大学入試に比べればハードルが低い。それゆえに、自分の出身大学を底上げしたい人が入学することも多いという。

「いわゆる“学歴ロンダリング”って言われているものですね。私はそう言われたくないので、母校と偏差値が近い大学の大学院を選びました。試験は面接と小論文。もちろん合格しました」

初年度納入金は200万円程度。

「これは父が出してくれました。私は実家暮らしだし、会社の財形と投資信託でお金を増やしており、1500万円以上の貯金があるんです。“親ガチャ”に成功していてホントに良かったと思います。社会人大学院に行くことを上司は応援してくれて、会社の助成制度や給付金のことを教えてくれました。そのノリで、たまたま廊下ですれ違った同期にそのことを話したら、“時間があるって、いいね”と言われたんです。彼女は育児と仕事に追われて、学ぶどころか睡眠時間もないと。“咲綾がうらやましい”と言われましたが、敗北感しかありませんでした」

【社会人大学院に進学しても居場所がないことと、仕事が評価されない理由は同じだった〜後編に続きます】

子供が生まれた同級生の写真を見ると、焦る気持ちが先に立ったという。