近年では電子書籍の普及によって紙の書籍と同時に電子書籍版も発売されることが多くなりました。電子書籍は専用端末やスマートフォンさえあれば大量の蔵書を簡単に持ち運べる非常に魅力的な存在ですが、新たに昭和大学の研究チームが「スマートフォン読書すると読解力が落ちる」という研究結果を発表しました。

Reading on a smartphone affects sigh generation, brain activity, and comprehension | Scientific Reports

https://doi.org/10.1038/s41598-022-05605-0

研究チームは、34人の被験者に対して「ノルウェイの森」(書籍A)と「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(書籍B)を紙の書籍とスマートフォン上の電子書籍のいずれかの形式で読ませ、内容に関する複数の質問に回答させました。その結果、スマートフォン読書した場合、紙の書籍を読んだ場合と比べて正答率が低くなることが示されました。以下のグラフは書籍A・Bをスマートフォンで読んだ際(S)と紙の書籍で読んだ際(P)の正答数を示しており、書籍A・Bどちらにおいても紙の書籍を読んだ場合の方が正答数が有意に多いことが分かります。



上記の実験は、被験者の呼吸リズムや脳の反応を測定しながら行われました。その結果、スマートフォン読書をすると紙の書籍を読んだ時と比べて深い呼吸をする回数が減ることが明らかになっています。被験者の1人の呼吸リズムを示した以下のグラフを確認すると紙の書籍を読んだ際(赤色)には読書中に深い呼吸を3回しているのに対して、スマートフォン読書した際(青色)には深い呼吸をしていないことが分かります。



また、光トポグラフィ(NIRS)によって読書中の前頭前野の活動を分析した結果、スマートフォン読書した場合(青色)、紙の書籍を読んだ場合(赤色)と比べて前頭前野が活発に活動することも明らかになりました。



過去の研究では、認知負荷が増大すると呼吸が深くなることが示されていました。しかし、今回の研究ではスマートフォン読書すると認知負荷が高まるものの呼吸が深くならないことが示されました。研究チームはこの結果からスマートフォンでの読書が深い呼吸を抑制したと推測しています。また、研究チームは「スマートフォン読書すると『深い呼吸の抑制』と『前頭前野の過活動』が相互作用して読解力の低下を引き起こしている可能性があります」と主張しています。