大分港で目撃された巨大クレーン積んだ大型船。その正体を探ってみたら、あまり一般的ではないけれど深い理由が判明しました。しかも過去、同じような船がたびたび大分港に来航していることも。

目立ちまくり 黄色い船体に青色の巨大クレーン

 2021年12月中旬、九州・大分港で1隻の大型船が確認されました。その名は「BIGLIFT BAFFIN」。黄色い船体に、とてつもなく巨大なクレーンがいくつも乗ったその姿は、遠くからでもよく目立ちます。

 しかし、この船はいったい何のために大分港にいたのでしょう。そこで船に詳しい人物に聞いてみました。


大分港に停泊していた「BIGLIFT BAFFIN」(2021年12月、伊藤洋平撮影)。

 説明によると、そもそも「BIGLIFT BAFFIN」は重量物運搬船とのこと。これは一般的な貨物船などでは運べない、巨大なモノや重量物を輸送するために造られた船です。

 重量物運搬船は、貨物の荷役方法により、LOLO(リフトオン・リフトオフ)方式、RORO(ロールオン・ロールオフ)方式、FOFO(フロートオン・フロートオフ)方式の3種類に区分されます。

 最初のLOLO方式は、船に装備したヘビー・デリックと呼ばれる大型クレーンを使って貨物を荷卸しするタイプのフネを指します。そのため、船の形は一般的な貨物船とあまり変わりません。

 2番目のRORO方式は、船自体にはクレーンなどの荷役装置を装備せず、車両などを用いて荷卸しを行うタイプです。なお、なかには戦車揚陸艦(LST)のように直接、海岸に乗り上げ(ビーチング)できるタイプもあるとのこと。また、ほかにも運搬用の台車を自走させて貨物の積み降ろしを行うタイプは「モジュール運搬船」といいます。

 最後のFOFO方式は、船体を水面下に沈めて貨物の積み降ろしを行うタイプの運搬船で、半潜水式の構造になっているのが特徴です。また船体を水面下に沈めるといっても船橋や船首など完全水没しないため、甲板が凹形状になっているのもポイントとのこと。なお、このような甲板は「ウェル甲板」といい、このような構造のため、船や海洋プラットフォームなどを運搬するのに使われます。ちなみにFOFO方式は「FLOFLO方式」ともいうそうです。

 では、今回大分で目撃された「BIGLIFT BAFFIN」はどれにあたるのでしょうか。

重さ2万tの積み荷まで対応可能な大型船

 船に詳しい人物によると、大分港に停泊していた「BIGLIFT BAFFIN」は、RORO方式の重量物運搬船になるのではないかとのことでした。

「BIGLIFT BAFFIN」はオランダの貨物船運航会社ビッグリフトが保有する大型貨物船で、全長173m、幅42.11m、載貨重量トン数(デッドウェイト)は2万675トン(mton)あります。

 船体上部の過半を占めるカーゴデッキスペースは縦125m、横42mあり、面積は5250平方メートルとのこと。この貨物スペースに様々なものを積んで世界中を結んでおり、「BIGLIFT BAFFIN」の一部のように見えた巨大なクレーン、実は積み荷でした。


過去、大分港に入港していたクレーン搭載の重量物運搬船(伊藤洋平撮影)。

「BIGLIFT BAFFIN」が接岸していた場所は、三井E&Sマシナリー(旧三井造船)大分工場の岸壁。ここは港湾などで用いられるコンテナクレーンを製造している工場です。

 敷地自体がクレーン製造に特化したレイアウトになっており、鋼材の陸揚げ(入荷)から、切断・加工、屋内組立、屋外組立・一体上架まで効率よく行えるような配置が組まれています。

 この大分工場の最も外側に出荷用の岸壁があり、そこに「BIGLIFT BAFFIN」は接岸し、出荷予定の巨大クレーンを積み込んでいたわけです。

 過去、さかのぼって調べてみると、大分港にはたびたびこのタイプの重量物運搬船が入港していました。なかには「BIGLIFT BAFFIN」とともにビッグリフト社が所有する姉妹船「BIGLIFT BARENTSZ」も来航しており、今回と同じように港湾用のガントリークレーンを積載し出港していました。

 これまでに大分港で撮られた写真を見てみると、運搬船にも積載するクレーンにもさまざまなバリエーションがあり、なかには諸事情により大分工場で保管されていた浮体式潮流・風力ハイブリッド発電装置「skwid(スクウィッド)」なんていうものまで。

 まさに、さまざまな巨大構造物が、船によって日本全国のみならず世界各地へ運ばれていたことがわかりました。