市川海老蔵に“親になるのが不安”と相談したら、父としての姿勢に圧倒された
R25世代のなかには、これから親になる人もたくさんいるはず。
ただ、毎日仕事で忙しくて、自分の人生もうまくできていないのに、ちゃんと子育てなんてできるのだろうか…? という不安もありますよね。
今年29歳になった筆者もそんな不安を抱えるひとり。
そこで今回相談したのは、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんです。
歌舞伎一家という特殊な環境ながら、日々お子さんとのコミュニケーションをたくさんとり、教育にも専念されている海老蔵さんは、まさに理想の父親だと思います。
〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
【市川海老蔵(いちかわ・えびぞう)】1977年生まれ。十二代目市川團十郎の長男として、1983年5月歌舞伎座『源氏物語』の春宮で、堀越考俊の名で初お目見得。1985年5月には歌舞伎座『外郎売』の貴甘坊で七代目市川新之助を名乗り初舞台。2004年5月歌舞伎座『暫』の鎌倉権五郎ほかで十一代目市川映像を襲名。日本の伝統芸能を次世代に伝えるべく、自ら企画した「古典への誘い」「ABKAI」などの自主公演にも意欲的に取り組み、次々と新作を生み出している。環境問題などにも取り組み、今年2月にはNPO法人「Earth&Human」を立ち上げ、植樹活動を行っている
「8歳のころには父親になる覚悟ができていた」市川海老蔵の育児マインド
福田:
私事ですが30代が近づいてきて、まわりでは子どもが生まれた友人もいます。
でも自分はいまだに毎日の仕事でヒイヒイ言ってまして…いつか子どもができたときに、いい父親になれる自信がないんです。
海老蔵さんは現在10歳の娘さんと8歳の息子さんの子育てをされていますが、自分が父親になるときに不安はなかったんですか?
海老蔵さん:
不安ですか…そういう悩み、私は小学生のときに卒業してしまいましたよ。
“早熟”という次元ですらない。どういうことですか?
海老蔵さん:
私は8歳のときから、自分に子どもができたらどういう教育をして、どういうふうに過ごさせて、どんな時間を共有するか考えてました。
10歳ではある程度の方向性まで決まってましたね。
福田:
10歳で方向性が…
どうしてそんな年齢から「子育て論」を考えていたんですか?
海老蔵さん:
私自身、親の子育てに対してやや疑問を抱く部分があったからです。
私の家は伝統芸能の1つ、歌舞伎の市川宗家でもあるので、幼いころからやらなくてはいけないことがたくさんあるんですよ。
たとえば日本舞踊は週に3件の教室に行かないといけないし、三味線や鳴り物も覚えなければいけない。
全部で7〜8つは習い事がありました。
福田:
あまりに多忙なスケジュールですね…
海老蔵さん:
かなりスパルタに育てられました。
ただ、合理的ではないなとは思っていたんですよね。
「それは本当に必要なのか?」「もう少しうまく学ぶことはできないのか?」ということをずっと考えていました。
自分が親になったときには、必要最低限のやらなきゃいけないことを明確にして、最短で大きく成長をできるルートを用意してあげたいなと。
とんでもない8歳児だ…
海老蔵さん:
つまり「いつか親になるのが不安…」と言うよりも、今のうちにいくらでもシミュレーションをしておけばいいんですよ。
なんでそのときになるまで待ってるんですか?
今日の取材はずっと叱られる予感がしています
「幼いときから“選択”と“責任”を与える」ハイレベルな海老蔵一家の教育方針
福田:
海老蔵さんの育児論をもう少し深堀りさせていただきたく…実際に子育てをしているとき、「これだけは大切にしている」ということはありますか?
海老蔵さん:
すべてです。
「これだけは」なんて考えている時点で全然ダメ。
生き方・考え方・勉強・人との向き合い方…そのすべてを子どもには伝えないといけないと思いますよ。
すごすぎますって
福田:
すべて…
そこまで気を張っちゃうとまったく気を抜けないというか…正直きつくないですか?
海老蔵さん:
それは子どものことをまったく考えてない発言ですね。
だんだん叱られるのに慣れてきました
海老蔵さん:
子どもは親のすべての行動を見ているんですよ。不機嫌なときのちょっとした一言や、焦っている姿勢とか。
自分が気づいていないところでよからぬ影響を与えたり、信頼を失わせてしまったりしますから。
毎秒背中を見られているつもりで生きる。それを当たり前と思わなくちゃ。
福田:
では、海老蔵さんはずっとそれを意識できていると。
海老蔵さん:
当然ですよ。
うちの親父にも、そうやって背中を見せられていたので。
福田:
なるほど…! ちなみに、お父様(十二世市川團十郎さん)から受けた教えなどはありますか?
海老蔵さん:
とにかく対話の時間をとることです。
私の父は幼いころに親を亡くしてたので、親子の会話が少なかったんでしょうね。
だから私との会話をとても大事にしていて、夕食のときには2人でよく話す時間をとってくれていたんですよ。
その対話が私の肉になっているので、自分も子どもたちともちゃんと向き合おうと意識しています。
福田:
普段、お子さんとはどんな会話をするんですか?
海老蔵さん:
なんでも話しますよ。それこそ、大人同士でするような会話も。
たとえば先日なんかは「A社のほうが車を販売する数が圧倒的に多いのに、B社のほうが企業価値が高い。なぜだと思う?」とか。
海老蔵家の食卓のレベルが高すぎる。10歳と8歳のお子さんですよね…
海老蔵さん:
我が家では、実際に投資の経験もさせています。
去年のアメリカ大統領選挙のときには、それぞれの候補者が勝ったときに経済にどんな影響があるか? そこを踏まえてどこに投資するか? ということを考えてもらって、私が代理で株を買っているんですよ。
福田:
29歳の僕より意識が高い…なぜ幼いころからそんな経験を?
海老蔵さん:
とにかく自分の頭で考え、選択をする経験を積ませるためです。
海老蔵さん:
大人になったとき、就職するも、結婚するも、子どもをつくるもすべて自分の選択なんですよ。
だからこそ、子どものころから選択させる。
どんなに小さいことでも、選択させることで責任が生まれる。悔しい思いもちゃんとできる。
その経験は将来的に彼らにとって財産になるはずですから。
海老蔵さんのもとに生まれてたら人生が180度変わってそう
福田:
正直、人としてのスペックの差に圧倒されているのですが…
どうして海老蔵さんはそんな父親になれたのでしょうか?
海老蔵さん:
特殊な環境で育ったからでしょうね。
子どものころから人前に出る仕事をしていたので、本来なら小学生が感じなくてもいいような苦労も経験しました。
高校生のころには写真週刊誌にも取り上げられ、それにどうやって対応するかということも自分で考えないといけなくて。
そんな環境で育ったからこそ、自分の子どもたちには「自分で考え、決める力」を持ってほしいと思うのだと思います。
「私は人生が大変でしたから(笑)」とちょっと砕けた海老蔵さんが垣間見えました
海老蔵さんから、これから親になるR25世代へ
福田:
海老蔵さんのような父親になれる自信はないですが…今から準備できること、覚悟しておいたほうがいいことはありますか?
海老蔵さん:
「今のうちにお金を稼いでおけよ」ですね。
子どもはどんな環境でも、自分の家庭が基準になって育ってしまいます。
つまり、親の経済環境によって、子どもたちの「基準」が決まる。
たしかに…
福田:
子どものためにも、やはり給料は上げたほうがいいのか…
でもそのために仕事ばかりしていると、今度は逆に家族との時間が取れなくなりそうですね…
海老蔵さん:
それは日本という国のあり方ですね。
日本はずっと家族か仕事かの二者択一に迫られるのが当たり前になっているんですよ。
それはあなたのご両親世代もそうだったろうし、もっと上の世代から変わっていません。
福田:
つまり日本から脱出しないと難しいということでしょうか…?
海老蔵さん:
そうは言うけど、君は英語は話せる?
もし英語がダメでもほかの言語は?
福田:
話せないです…
海老蔵さん:
となると、日本にいながら自分を変えなくてはいけませんよね。
もし40歳までにリタイアができるくらい稼げるような経済システムであれば、若いうちに馬車馬のように働くことは間違ってない。
しかし、そうでないのであれば、お金の稼ぎ方を抜本的に考え直さないと。
海老蔵さん:
今の日本で「家族との時間」と「稼ぎ」を両立するには、収益源を複数持たないといけないと私は思っています。
2つ以上の仕事があると、必然的にそれぞれの時間の使い方を変えないといけないでしょう?
なので、稼ぎを維持…もしくは上げながら、強制的に「時間をコントロールするスキル」が身につくようになると思っています。
福田:
なるほど…海老蔵さんも複数の仕事を?
海老蔵さん:
私は役者だけではなく、環境問題のNPOも立ち上げているし、学校もつくっています。
そのすべてが私の収益源になっているし、子どもたちの時間も柔軟につくれるんです。
本気で家族との時間をつくろうと思えば、こういう発想にたどり着くはず。
福田:
…だんだん理解できてきました。
僕はまだ自分の人生を主体的に「コントロールしようとしてない」ということですね。
会社に依存している状態だから、家族にあてる時間も自分でつくることができないと。
海老蔵さん:
そういうことですよ。わかってきたじゃないですか。
(初めて褒められた!)
海老蔵さん:
結局、「仕事が忙しくて、子育てができる自信がない…」というのは、仕事と家族の優先順位を決められてないだけかもしれないですね。
本気で「子育てをちゃんとしたい」と思っているなら、働き方を変えるためのアクションを起こすことも大事です。
福田:
おっしゃる通りですね…これから、仕事の向き合い方を改めて考えてみます…!
海老蔵さん:
これから?
違う!今から変えるんですよ!
せっかく褒められたのに…でも、本当にその通りでした
海老蔵さんの意識の高さに圧倒され、あっという間に過ぎてしまった20分。
その言葉の数々は厳しいようにも感じられますが、僕らのことを真剣に考えてくれていたからこそ。インタビューの終始、父親のような厳しさと優しさを体感しました。
海老蔵さんのような父親にはなれる自信はまだありませんが、それでも「覚悟」と「責任」を胸に、今から親になるシミュレーションから始めていきます。
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=森カズシゲ/ヘア&メイク=Eita (Iris)/スタイリスト=大久保篤志〉
新作歌舞伎『プペル 〜天明の護美人間〜』の公演チケットが販売中!
こちらが海老蔵さん演じるゴミ人間。かっこよすぎませんか…!
キングコングの西野亮廣さん原作の絵本『えんとつ町のプペル』。
映画を見た海老蔵さんの熱烈なオファーにより、歌舞伎舞台化が実現しました。
今作は、西野さん自らが脚本を手がけ、江戸を舞台にしたまったく新しい『えんとつ町のプペル』になるそう。
そんな『プペル』の見どころを海老蔵さんに聞いてみました。
海老蔵さん:
『プペル』は、亡くなった熊八という父親の魂がゴミ人間に宿り、子どもに寄り添う話です。
私が熊八とゴミ人間役、長女のぼたんと長男の勸玄が子ども役を演じるのですが、我々からすると、亡くなった熊八の魂とは、母親の(小林)麻央のことなんです。
その麻央の魂を宿したゴミ人間を私が演じて、子どもたちと接する。我々家族の関係を作品とリンクして伝えられればと思っています。
新作歌舞伎『プペル〜天明の護美人間〜』公演概要
【日時】2022年1月3日〜20日
【場所】新橋演舞場(東京都中央区)
【観覧料(税込)】SS席:3万円、S1席(2階最前列):2万円、S席:1万4000円、A席:1万1000円、B席:6000円、C席:3000円
チケットはすでに販売受付中。下記の「チケットWeb松竹」で購入できますので、気になった方はお早めにチェックしてみてください!
チケットWeb松竹
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