ペナントレースが幕を閉じたプロ野球。日本シリーズに向けたポストシーズンの戦いも熾烈さを増している一方、各球団とも来シーズンを見据えて動き始めている。ドラフト、新監督の招聘、コーチ陣の刷新など、来季への布石を打っている。

 そのなかで注目は、FA権を持つ選手たちの動向だろう。2020年オフは7選手が宣言し、梶谷隆幸(DeNA→巨人)、井納翔一(DeNA→巨人)、澤村拓一(ロッテ→ボストン・レッドソックス)が新天地を求めたが、果たして今オフに何人の選手が権利を行使するのか。


今オフのFA市場で動向が注目される阪神・梅野隆太郎

 その今オフのFA戦線に対して、素早い動きを見せたのがDeNAだ。FA宣言すれば引く手あまたと目されていた今季推定年俸1億7000万円の宮粼敏郎との残留交渉をまとめた。

 宮粼は最下位に沈んだチームにあって、今季は打率.301、16本塁打、キャリアハイの73打点をマーク。2012年ドラフト6位で入団し、レギュラーに定着した2016年以降は首位打者になった2017年を含めて4度目の打率3割台を記録。その安定感が評価され、32歳ながらも6年推定総額12億円+出来高という破格の契約を手にした。

 目玉のひとりだった『ハマのプーさん』は早々に残留を決めたが、今後の動向に注視したいFA権取得者はほかにもいる。2021シーズン中にFA権を取得した主だったAランク、Bランクと推測される主な選手は次のとおり。

【Aランク/所属球団の日本人選手で年俸上位3位まで】 ※年齢は11月11日時点。年俸は推定。
菅野智之(巨人/投手/32歳/8億円)
山粼康晃(DeNA/投手/29歳/2億8000万円)
梅野隆太郎(阪神/捕手/30歳/1億1000万円)

【Bランク/所属球団の日本人選手で年俸上位4位から10位まで】
千賀滉大(ソフトバンク/投手/28歳/4億円)
岸孝之(楽天/投手/36歳/2億5000万円)
大瀬良大地(広島/投手/30歳/1億5000万円)
嘉弥真新也(ソフトバンク/投手/31歳/1億4000万円)
大田泰示(日本ハム/外野手/31歳/1億3000万円)
石川歩(ロッテ/投手/33歳/1億1000万円)
大和(DeNA/内野手/34歳/1億円)
九里亜蓮(広島/投手/30歳/8700万円)
祖父江大輔(中日/投手/34歳/7000万円)
福田永将(中日/内野手/33歳/5500万円)
秋吉亮(日本ハム/投手/32歳/5000万円)

 各球団の主力級が顔を揃えるが、Aランクでの注目は阪神の梅野隆太郎だろう。2018年から3年連続でゴールデングラブ賞を獲得し、今季も130試合でマスクをかぶった。打率.225ながらも、得点圏打率はリーグ2位の.321を記録するなど勝負強さを発揮した。

 守備面でも、今季は盗塁阻止率こそ2割台と奮わなかったものの、補球やブロッキングの技術など数字に表れないところでの貢献度はあいかわらず。打てる捕手へのニーズは高いだけに、東京五輪の金メダルメンバーがFA権を行使すれば、獲得に名乗りを上げる球団は複数あるだろう。

 Bランクでは、メジャーへのポスティング移籍の道が途絶えたソフトバンクの千賀滉大が国内FA権を行使すれば、大きな話題になるのは間違いない。ただ、今季の4億円と言われる推定年俸を考慮すれば、獲得に名乗り出られる球団は限られてくる。

 熱い視線を集めるのが広島のエース・大瀬良大地だ。投手キャプテンを務めた今季は23試合10勝5敗、防御率3.07。度重なる故障で5勝に終わった2020年の雪辱を果たした。入団から8シーズンで5度のふたケタ勝利を記録する大瀬良は、先発投手を欲する球団にとっては喉から手が出るほどほしい存在。ただし、推定年俸1億5000万円と言われる大瀬良を獲得するのにも、千賀と同様に資金力は必要だ。

 一方、同じ広島の先発ローテーション投手の九里亜蓮なら、資金面のハードルは下がる。今季は自身初めてのふたケタ勝利となる13勝をマークし、阪神・青柳晃洋とともに最多勝のタイトルを獲得。防御率3.81はリーグ8位、QS率68.0はリーグ6位を記録した。昨季も8勝6敗ながら防御率はリーグ5位の2.96と、ピッチングが安定している点も魅力的だ。

 同期入団の大瀬良ほどの圧倒的な存在感はないものの、今季推定年俸の1.5倍増で獲得したとしても年俸は1億3000万円。この投資で先発ローテーションの一角を一年守れる安定感を手にできるのなら「高くはない買い物」と言えるだろう。

 リリーバーでは、実績と知名度なら山粼康晃の右に出る者はいない。だが、FA宣言したとしても、ここ2シーズンの成績や高額な年俸、FA移籍Aランクの補償などを天秤にかけて、獲得に二の足を踏む球団は少なくないだろう。

 その中継ぎ投手で"コスパ的"に狙い目なのが、今季推定年俸7000万円でBランクの中日・祖父江大輔だ。マウンド上での鋭い形相と、2020年オフの契約更改を保留した際にはダルビッシュ有からその働きぶりをSNSで援護されたことでも話題になった鉄腕リリーバーだ。

 1年目の2014年から毎年30試合以上に登板し、昨季は54試合に投げて最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得した。その蓄積疲労もあってか今季序盤は本来の姿ではなかったものの、後半戦からは持ち前のスライダーとシュートの出し入れで打者を翻弄。終わってみれば55試合に登板して1勝2敗5セーブ19ホールドで防御率2.59。来年8月で35歳だが、来季もまだ"睨み"は通用するはずだ。

 ただ、ここまで挙げたFAランクでA、Bの選手を獲得するには、前所属球団が望めば金銭補償に加えてプロテクト外選手1名を人的補償に出さねばならない。プロテクトリストから泣く泣く除外した選手が他球団で大活躍というケースも少なくないだけに、獲得には難しい判断が求められる。

 しかし、人的補償も金銭補償も不要なのが、CランクのFA選手。NPBでの実績もあるので、新外国人選手のような大ハズレもないし、資金的にも比較的ハードルは低い。そのCランクに該当し、今季FA権を取得したのは次のような選手たちだ。

【Cランク/所属球団の日本人選手で年俸上位11位以下】
又吉克樹(中日/投手/31歳/4200万円)
田島慎二(中日/投手/31歳/1500万円)
比嘉幹貴(オリックス/投手/38歳/2100万円)
海田智行(オリックス/投手/34歳/2200万円)
辛島航(楽天/投手/31歳/5100万円)
岡田雅利(西武/捕手/32歳/3000万円)

 このなかで今オフ最大の争奪戦が勃発する可能性があるのが、中日・又吉克樹だ。立浪和義新監督就任後の一部報道では、又吉のFAランクは「Bランク」と報じられているが、ここでは昨年オフの契約更改でスポーツ紙が伝えた全選手の推定年俸を基にした「Cランク」として話を進めていく。

 又吉はルーキーイヤーの2014年に67試合9勝1敗2セーブ24ホールドをあげ、3年目まで連続して60試合以上に登板した。しかし、150キロ超の球威と大きな曲がりのスライダー、そして荒れ球で抑えていたのに対戦相手が慣れると成績は下降。突然制球を乱したり、ここ一番で痛打を浴びたりすることが増加し、2019年、2020年には2年連続して登板数は26試合にとどまった。

 それが今季は、カットボールとシンカーをマスターしたことで制球力が格段に向上し、チーム最多の66試合に登板して3勝2敗8セーブ33ホールド、防御率1.28をマーク。主にセットアッパーを務め、守護神ライデル・マルティネスが東京五輪予選で不在時はクローザーを任されるまでに復活を遂げた。

 2018年に推定8800万円あった年俸も、今季は推定4200万円。仮に3倍増の提示をしても1億2600万。入団8年間で400登板したタフネスぶりと、SNSに普段着のチームメイトの表情を投稿する「又吉広報」としてのファンサービスを考慮すれば、これほどコスパに優れるリリーバーは今後もそうそうFA市場には現れないのではないだろうか。これは又吉のFAランクが人的補償が必要となる「Bランク」だったとしても、獲得するメリットの大きさに変わりはない。

 中日のリリーフ陣ではもうひとり、元クローザーの田島慎二もFA宣言すれば触手を伸ばす球団が複数現れるだろう。2017年までクローザーとして活躍したが、その後は長らく不調に喘ぎ、最高時は1億1000万円(2018年)あった推定年俸も下がりに下がって、今季は推定1500万円。

 しかし、昨春にトミー・ジョン手術を受けて今季7月に復活を遂げると、22試合2勝1敗8ホールド、防御率2.45をマークした。西武の平良海馬が今季『開幕からの連続無失点記録39試合のプロ野球記録』を樹立したが、それまでの記録保持者だったのが田島(31試合/2016年)。今季後半戦は2016年シーズンのようなスライダーとツーシームの横の揺さぶりで抑えるピッチングを取り戻している。来季はさらに復調すると見込んで、先行投資する価値はあるだろう。

 又吉、田島、祖父江の中日のリリーフ陣を評価するうえで見逃せないのが、12球団最弱の中日打線と対戦していないということ。彼らがFA宣言して移籍すれば、リーグ戦や交流戦で『最弱打線』を相手にするため成績はさらに向上する可能性が高い。立浪和義新監督を迎えたばかりの中日が、FA戦線では草刈場になる可能性は十分にある。

 FA権利を行使できるのは、日本シリーズ終了後の翌日から土日祝日を除いた7日以内。果たして誰がFA宣言し、どんな綱引きが繰り広げられるのか。ストーブリーグの幕明けはもうそこまで迫っている。