NTTドコモの井伊基之社長は、グループ再編による法人事業の立て直しで成長戦略を描く(写真:NTTドコモ)

当初計画から遅れること半年、「新ドコモ」構想が動き出した。

NTTドコモは10月25日、グループ企業のNTTコミュニケーションズ(コム)とNTTコムウェア(コムウェア)を子会社化し、成長分野の法人事業などをテコ入れすると発表した。消費者向け通信事業の収益が先細る中、収益構造の転換に本腰を入れる。

新ドコモグループの再編は2段階で実行する見通しだ。まず、2022年1月にもコムとコムウェアの株式を、ドコモにそれぞれ100%、66.6%移管する。続いて2022年7〜9月をメドに、ドコモの法人事業をコムに移し、MVNO事業を手掛けるコム子会社のNTTレゾナントはドコモの傘下へと移管する想定だ。

これらにより、グループ全体での機能統合とシナジー創出を狙う。

「やっと必要な武器が一体に」

NTTの澤田純社長は2020年12月の東洋経済の取材で、「ドコモは法人向けビジネスが非常に弱かった」と語っていた。コムが持つような固定回線事業がなく、モバイル回線のみを手がけていたためだ。

KDDIなどの競合他社は「固定回線も含めてセットで契約してくれれば、モバイルは安くする」など柔軟な営業ができた一方、ドコモは法人顧客向けのサービスをワンストップで提供できないのがネックだった。

25日の記者会見に臨んだドコモの井伊基之社長は、「今までドコモの法人営業は移動通信、コムはネットワーククラウドやデータセンター事業が中心だった。競合他社はそういったものをそろえて戦っている。やっと必要な武器が一体になった」と強調した。

2021年3月期のドコモ、コム、コムウェアの業績を単純合算すると売上高は6兆円弱、営業利益は1兆円強になる。旧ドコモ単体(2021年3月期の売上高は4兆7252億円、営業利益は9132億円)では国内通信キャリア業界で3番手だったが、これが首位のKDDIに匹敵する規模となる。

加えて新ドコモでは、消費者向けの通信事業が中核の現ドコモから収益構造を一変させる。「(2026年3月期までに)法人事業と(金融・決済などの)スマートライフ事業で収益の過半を創出したい」(井伊社長)という。

ドコモでは低価格帯の新料金プラン「ahamo(アハモ)」の投入などにより、消費者向け通信事業の利益が圧迫されており、今後も収益拡大は難しいとみられる。一方、法人向け事業は企業のデジタル化需要を取り込んで伸ばせる可能性が高い。これを強化することで、通信事業に代わる新たな収益基盤を育てる狙いがある。

ドコモ、コム、コムウェア3社の法人事業売上高の合計は、2021年3月期時点で約1兆6000億円。新ドコモではこれを2026年3月期に2兆円以上に引き上げる計画だ。一方、スマートライフ事業は2021年3月期(約6000億円)の2倍近くまで拡大させる。

グループ再編に伴う業績押し上げ効果は、営業利益ベースで2024年3月期までに1000億円、2026年3月期までに2000億円と試算した。そのうち、売り上げ拡大が半分、経費削減分が半分を占めるという。

法人事業を強化するために新ドコモでは、法人営業の共通ブランド「ドコモビジネス」を展開するなどの営業施策を打ち出す方針だ。スマートライフ事業でも、電力小売り事業に新規参入したり、映像配信を手掛けるNTTぷららを統合してコンテンツ発信力を強化したりするという。

ライバルも攻勢かける法人事業

そもそも、新ドコモグループへの再編は当初、2021年夏ごろからの実施を想定していた。だが2020年末、KDDIやソフトバンクなど競合他社が総務省に意見を申し立て、公正な競争を確保する観点から問題がないかを検討する有識者会議が開かれていた。

そのさなかの2021年3月、総務省幹部に対するNTTの接待問題が発覚。有識者会議は中断され、結論が先送りになっていた。10月12日には法令上、再編に制約がないとする同会議の報告書が公表され、ようやくグループ再編に向けた動きが加速し始めた格好だ。

なお、NTTの澤田純社長は25日に開いた記者会見で、「(当初計画比で)遅れはあまり大きいものではない」と強調している。

再編についての会見の翌26日、NTTの株価終値は1株あたり3267円と、前日比5%強上昇した。シティグループ証券の鶴尾充伸ディレクターは「グループ再編に伴い、NTTがEPS(1株あたり利益)を引き上げる計画が市場から好感された」と指摘する。NTTは会見で、2024年3月期の目標EPSを370円と、50円引き上げる目標を発表している。

好意的な受け止めが広がる中ではあるが、業界アナリストからは「(統合する3社が)有効に機能統合できるかが課題になる」(SMBC日興証券の菊池悟シニアアナリスト)との指摘もある。

新ドコモが成長事業と見定める法人事業は、いずれもKDDIやソフトバンクなど競合他社が注力する領域でもある。ソフトバンクとKDDIは2022年3月期の法人事業の営業利益を前期比10〜19%の増益と見込む。

井伊社長は「他社に勝てるような競争力のあるサービスを出せるか、あるいはコストを下げていけるか。これからの取り組みでいちばん大事な点だ」と語る。