楽天モバイルが全社を挙げた総力戦へ! ユーザー獲得狙うエリア展開戦略の現状と課題

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●楽天モバイルの4Gエリアが人口カバー率94.3%に到達
楽天モバイルは10月22日、オンラインにて通信エリア展開に関する記者説明会を開催しました。

同社が移動体通信事業者(MNO)事業に参入して1年半ほどが経ち、急速なエリア展開よって、10月14日時点での人口カバー率は94.3%にまで達しました。
10月にはKDDIとのローミングエリアを多くの都道府県にて順次停止し、楽天モバイルの自社網へと切り替えが進んでいます。

楽天モバイルはこのエリア展開の速度と止めることなく、2022年3月までには人口カバー率96%を目指すとしています。

また、人工衛星による「スペースモバイル計画」も予定しており、アンテナ基地局の敷設が難しい山間部や過疎地、海上などを人工衛星通信で補うことにより、
今後は人口カバー率ではなく国土すべてのカバー率を100%にしていく計画です。


全国の主要都市部はほぼカバーできたと言って良い


わずか1年半足らずで急速なエリア展開を成し遂げたことは驚異的でもあります。
その背景には並々ならぬ企業努力がありますが、まだまだ問題は山積しています。

楽天モバイルがエリア展開にかける思いや数々の問題とは一体どのようなものなのでしょうか。

●遅々として進まない基地局設置に全社を挙げた大号令
楽天モバイルはMNO事業開始前に十分な基地局を用意する予定でした。
しかし基地局に使用する用地契約や設置工事に手間取り、その計画は遅れに遅れます。
総務省からも数回にわたり是正勧告を受けるなど、厳しい状況での事業スタートとなりました。

そこで楽天モバイルは奮起します。
これまで工事を請け負う業者任せにしていた用地交渉やその契約に楽天グループの社員を総動員し、工事関係者とともに現地交渉を行わせたのです。

こういった通信事業者の社員と工事担当業者の社員が共同で用地交渉を行うことは異例であり、

「非常に難しかったが工事会社とのパートナーシップにより成功させた。
工事会社の働き方を変えた」


このように語り、楽天グループの総力を結集して成功させたと自負しています。



通信エリアの展開は楽天グループ全体の最優先課題として取り組んだ


楽天モバイルの基地局設置がこれほどまでにスピーディに展開できた理由は、工事関係者とのパートナーシップだけではありません。
完全仮想化によるモバイルネットワークを構築・実装したことで、アンテナ基地局に必要な機材を削減し、設置工数を大幅に短縮できたのです。


●ドローンの活用で作業を効率化
また、アンテナ基地局の用地調査や安全性チェック、点検作業などにはドローンを活用し、これまで人間が行ってきた仕事の効率化を図りました。
ドローンによるチェック作業は、当初人間の目視よりも安全性の不安が指摘されていましたが、

「蓋を開けてみれば、人間よりも細かく点検ができ、しかもその場で動画や写真などのデータで残せるなど、情報量でもコスト面でもメリットが多かった」

このように、ドローンのほうが人間の点検よりも安全かつ迅速に作業が行えたことを強調しています。


得られた情報をすぐにデータベース化できる点も大きい



●山積する課題を地道に潰していく
楽天モバイルのエリア展開は、このような人海戦術に近い企業努力と最新のテクノロジーの両輪によって成し遂げられました。

しかしながら、その計画はまだまだ道半ばです。
そして課題も多く山積しています。

現在最も大きな課題となっているのは周波数問題です。

楽天モバイルはMNO事業を開始するにあたり、総務省より4G通信用として1.7GHz帯の電波を2バンド割り当てられました。
NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった他MNOは、この1.7GHz帯に加え、
800MHz帯や3.5GHzといった周波数も利用しているため、周波数帯域の狭さや少なさが弱点になるのではと危惧されていました。

とくに800MHz帯の電波は、
・建物などへ電波が入りやすい(浸透性が高い)
・建物の裏側などに電波が回り込みやすい(回折性が高い)

こういった特徴があり、「プラチナバンド」とも呼ばれています。
このプラチナバンドを楽天モバイルは持っていないために、

・大都市でビルの密集する場所(ビルの陰)
・ビルの地下階
・地下鉄

こういったところで電波が届きにくくなるといった状況が生まれやすいのです。


まだまだユーザーが少ないとは言え、割り当てられた周波数帯域だけではエリア展開は難しい


そこで楽天モバイルは、総務省へのさらなる周波数帯域の割当を要望しつつ、

・ビル内などで電波の繋がりにくい場所へフェムトセル(小型基地局)の「Rakuten Casa」を設置
・ビルの陰などにはレピーター(電波中継機)を設置(2020年以降順次設置予定)
・ユーザーからのエリアに関するクレームには個別対応し、電波対策やスマートフォンの貸し出しを実施

このような施策を行っています。


安定した通信の確保には、楽天モバイルのみならずMNO各社が苦労するところだ


もう1つの大きな課題は半導体不足です。
こればかりは楽天モバイルだけではなく全世界的な問題となっており、楽天モバイルのエリア展開計画にも大きな影を落としています。

楽天モバイルはこれまで、2021年夏までに人口カバー率96%を目指すとしてきました。
ところが昨今の半導体不足によって基地局設備の納入に遅れが生じ、前述の人口カバー率 94.3%という数字に留まっています。

この問題について楽天モバイルは、

「すでに予定数の基地局の用地確保や契約は完了している。
当初はもっと早く(機材を)もらえる予定だったが、また少し遅れてしまった。
12月には納入が完了する目処が立っている」


このように話し、2022年3月までには遅れを取り戻せるとしています。


世界的な半導体不足はこんなところにも影響を及ぼしていた




●自社網の強化がユーザーメリットにつながる
楽天モバイルにとって、自社網の整備はユーザー確保のためにも最重要課題です。

楽天モバイルの通信料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は月額0円から始められる従量制である点が人気ですが、
さらに月額2,980円でデータ通信が使い放題となることもまた人気のポイントです。

しかしながら、このデータ通信の使い放題が適用されるのは楽天エリアのみであり、KDDIによるローミングエリアでは適用されません。

そのためユーザーからは、

・楽天モバイルのエリアが狭くて使い放題のメリットが得られない
・楽天エリアだと思って使っていたらKDDIのエリアで通信速度制限がかかってしまった

このような不満やクレームが相次いだのです。

そのため楽天モバイルは、クレームを低減しユーザーに使い放題というメリットを強くアピールするためにも、
なんとしてでも自社網を強化し、使い放題が適用されるエリアを確保する必要があったのです。


いくら使い放題でも自宅や生活エリアで楽天モバイルの電波が飛んでいなければ意味がない


楽天モバイルの契約者数は8月23日現在で、MNOとMVNOを合わせて500万回線を突破しました。
第三者機関による顧客満足度調査でも総合満足度1位を獲得するなど、徐々に低料金かつ使い放題という同社の真価を発揮しつつあります。

楽天モバイルの参入によって移動体通信業界は料金競争の時代へと突入し、
その後の総務省による指導もあり、2020年の年末から激しい低価格競争が始まりました。

しかしながら、忘れてはいけないのは安心して通信が行える環境整備です。
いくら安くても通話やデータ通信を快適に行えないのでは意味がありません。

楽天モバイルの場合、4Gエリアの展開だけではなく、5GエリアについてもまだまだMNO各社の中で遅れを取っています。
5Gエリアについては、

「完全仮想化のメリットを活かし、4G基地局に5G基地局も併設できるようになっている。5Gのエリア展開は順調だ」

このように力強く語り、そのエリア展開戦略に自信を見せていました。


4Gと5G、2つのエリア展開を急ぐ



今は投資の時期と割り切り、全社を挙げた総力戦で通信エリア展開に挑む楽天モバイル。

同社の料金施策がMNO他社の通信料金競争を生み出し、消費者の流動性に繋がったように、エリア展開でもMNO他社に危機感を持たせ、
新たな競争を生み出すことで、消費者により便利で快適な通信環境を提供してくれることを期待せずにはいられません。




執筆 秋吉 健