看板がクリーニング屋? 謎の立ち呑み屋『田っくん商店』(南阿佐ヶ谷)が激ウマだった!
食楽web
一見するとカツ丼なのに、食べてみるとケーキだった――というようなユニーク商品がたまにありますが、まさか飲食店ではそうそう見かけませんよね。でも東京の丸ノ内線・南阿佐ヶ谷駅徒歩3分ほどの場所にある街のクリーニング屋さんがそうなのです。看板は、『クリーニング半田屋』なのですが、よ~く見れば、なんと『田っくん商店』という立ち呑み屋なんです。
南阿佐ヶ谷駅をよく利用する筆者でも、知人から「あのクリーニング屋、実は安くて旨い居酒屋なんだよ」と聞くまで知りませんでした。興味津々すぎて、さっそく行ってみることにしました。
酒肴が本格的なのに安くて美味しすぎる!
店内はカウンターのみで、立ち呑みスペースと着座スペースがあります
入店してみると、確かに、厨房をコの字型に囲んだカウンターで、椅子席と立ち席があります。卓上のお品書きには料理名が山ほど書かれていて、しかも1品300~600円台とリーズナブル。
初めての店で、しかも一人だったので気後れしていたのですが、割烹着を来た若いお姉さんが「何にしましょう?」と明るく声をかけてくれました。
そこで、おすすめを聞いてみたところ、「本日のおまかせ6種盛り合わせ」(1200円)が、旬と自慢のお料理をいろいろ食べられておトクです、とのことだったので、それをお願いすることに。そしたら、これがスゴかったんです!
「本日のおまかせ6種盛り」1200円。食感と味のバランスが秀逸で、日本酒がすすみます
その6種盛りは、立ち呑み屋の料理とは思えないほど美しい盛り付け。まるで料亭の八寸のよう。
お姉さんによれば、内容は「ドライいちじくとさつま芋のクリームチーズ寄せ、アスパラを練り込んだ豆腐、自家製蒸し胡麻豆腐、鶏笹身天ぷらオリーブ醤油、かしわ松風焼き、浸し豆です」とのこと。なんとも本格的で、本当に立ち飲み屋? と驚いてしまいます。
さっそく食べ始めて、見た目だけでなく味も料亭レベルだと判明。食材の味の組み合わせが絶妙で、食感にも工夫があり、さらにお出汁の塩梅のよさ。すべてにおいて丁寧かつ繊細に作られていることがわかるのです。
「れんこんまんじゅう」690円は、エビ入り。なめらかな食感とお出汁の滋味深さに感激する一品
続けておすすめの「れんこんまんじゅう」(690円)をいただいてみると、これまた最高。蓮根のなめらか食感と甘味、とろみのスープのお出汁の旨みの豊かさたるや。イクラもたっぷりのってこのお値段って大丈夫ですか? と心配になります。
そこで、厨房にいたご主人・畑 琢也さんに「お出汁が美味しいですね」と声をかけて、少しお話させていただくことに。
「寄せ料理やソースなどもすべて自家製です。うちの料理は、食材を複数組み合わせて、その素材の良さが引き立つようにしています。お出汁も、鰹と昆布の出汁を引くだけでなく、鯖節・煮干しなど青魚の出汁もとって料理や食材ごとに使い分けてるんですよ」と畑さん。
たとえば、塩味を加えたい場合は、煮干しのお出汁、甘みを出したい時はサバ節といった具合に使い分けているから、塩や醤油は、料理の輪郭を整える程度にしか使わないんだそうです。いやぁ、こだわりが半端ないですね。
「真鯛と梅水晶の塩昆布和え」690円は、梅水晶の酸味に加え土佐酢で味をまとめた爽やかな一品
料理のお話を聞いていて一番驚いたのは、畑さんの料理がすべて独学だということ。なんと、10年ほど前まではレコード屋さんだったというのです。
「当時、代田橋にあった行きつけの1.2坪の小さな居酒屋が閉店するというので、その店舗を買い取り、いきなり開業したんです。飲食業とは無縁だったので、とにかく食べ歩いて料理を勉強。当時、来ていただいた常連さんに謝りながら、いわば試作品を出していたという感じです」
そして、2017年、現在の南阿佐ヶ谷に移転。地元の人が気軽に寄れる立ち呑み屋としてリスタートするやいなや口コミで評判になり、昨年(2020年)9月には『田っくん商店 その2』を南阿佐ヶ谷駅のすぐそばにオープン。確かに、こんなに美味しい立ち呑み屋、そうそうありません。
ご主人・畑 琢也さん
ところで、気になっていたクリーニング屋の看板。これは一体どうしてそのまんまなんですか? と聞いてみました。
「ここのクリーニング屋さんは、100年以上続いた商店で、タバコやお菓子なども売っているよろずやさんだったそうです。下見でこのレトロな看板を見たとき、街の人たちに愛されてきたこの景色を残したいなと思ったんです。そこで、店舗をお借りする際にその旨を告げ、看板をそのまま残したいと伝えると、快諾していただけて」
笑顔が眩しいスタッフのみなさん。まもなく都内に新店舗を出す予定だそう
素敵な看板エピソードですね。しかも「クリーニング屋で一杯」なんて、やっぱり面白い。中央線や総武線沿線に寄ることがあったら、ぜひ『田っくん商店』に遊びに行ってみてください。
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO
店名:田っくん商店
住:東京都杉並区成田東4-37-8ハイライフ阿佐ヶ谷102
TEL:070-4405-1091
営:17:00~翌2:00
休:日祝・不定休あり
https://www.instagram.com/takkun_shouten/