連絡線ならではの急カーブを進む長堀鶴見緑地線用の70系。通常ここを通るのは今里筋線用の80系だけだ(撮影:伊原薫)

地下鉄には、あちこちに“秘密の線路”がある、と言ったら皆さんは驚くだろうか。たとえば、東京メトロの有楽町線桜田門駅と千代田線霞ケ関駅の間には、長さ約600mの連絡線がある。


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有楽町線の車両は、大規模検査を千代田線北綾瀬駅に隣接する綾瀬工場で行っており、この連絡線を通って綾瀬工場へと向かう。また、市ケ谷駅のホームの先では有楽町線と南北線の線路がつながっていて、南北線の車両も綾瀬工場まではるばる回送される。

車両の回送を行うための連絡線は地下鉄に限った話ではないが、一般の乗客がそこを通ることはなく、また地下にあると見えないため、余計にミステリー感が増す。

“見えない連絡線”なぜ必要か

こうした連絡線を作る理由は、多くの場合、工場を集約するためだ。というのも、地下鉄を建設する際の“悩みの種”に、工場をどこに作るか、というものがある。地下鉄の多くは都市部を走るため、用地の確保が難しい。地下方式とするにしても、他人が所有する土地の下に勝手に作るわけにはいかない。

また、工場には大規模な設備と人員が必要となるので、効率の面からもまとめたほうがよい。そこで、都心から少し離れた場所に大規模な工場を作り、そこで複数路線の車両をメンテナンスしているのだ。


谷町線と中央線を結ぶ連絡線の谷町線側終端。前方が行き止まりになっている(撮影:伊原薫)

大阪で8つの地下鉄路線を運営するOsaka Metro(大阪メトロ)は、谷町線と千日前線の線路がそれぞれ中央線とつながっており、3路線の車両の大規模検査は2016年まで中央線森ノ宮駅の近くにある森之宮検車場が担当していた。

だが、同検車場の設備が老朽化したことから、新たに中央線と四つ橋線をつなぐ連絡線を本町駅に建設。四つ橋線北加賀屋駅近くにある、緑木車両工場に検査業務を移管した。緑木車両工場は、以前から御堂筋線車両の大規模検査も担当していたため、これによって架線ではなく給電用レールから集電する「第三軌条方式」の同社車両がすべて出入りするようになった。逆に言うと、5つもの路線がつながっているわけで、東京メトロにはない特徴だ。

大阪メトロにはほかにも秘密の線路がある。それは、南北に走る今里筋線の車庫と東西に延びる長堀鶴見緑地線の車庫をつなぐ連絡線だ。同社に8つある地下鉄路線のうち、2006年に開業した今里筋線は、開業後の需要予測がそれほど多くないことから、長堀鶴見緑地線と同じくリニア地下鉄方式を採用。工場についても、車両数が少ないため他路線と共用する方針とされた。

ただ、リニア地下鉄の車両は線路側にリニアモーターを動かすための「リアクションプレート」が必要だが、通常の地下鉄路線にはこれがないので、走行できない。必然的に、長堀鶴見緑地線と線路をつなぎ、共用することになる。

鶴見緑地の地下を走る“秘密のトンネル” 

大阪メトロの路線図を見てみると、両路線は大阪城の北東にある蒲生四丁目駅で交差している。では、連絡線はこの駅にあるのだろう……と思ったら、さにあらず。スペースが確保できなかったなどさまざまな理由で、同駅付近には連絡線を作ることができなかったのだ。では、どこなのか。実は、連絡線は今里筋線で3駅北の清水駅の近くから延びているのである。


鶴見検車場と鶴見緑地北車庫を結ぶ連絡線のルート図。鶴見緑地の地下を縦断している(撮影:伊原薫)

清水駅の南側で本線から分岐した2本の線路は、緑一丁目交差点付近の地下で本線とは真逆に東へとカーブ。そのまま600mほど進行し、右側にある花博記念公園鶴見緑地の敷地北端に到達すると、その先の地下には同線の鶴見緑地北車庫が広がっている。だが、線路はここで終わらない。さらに鶴見緑地を南へと突っ切り、2kmほど南端にある長堀鶴見緑地線の鶴見検車場までつながっている。

これだけ長い連絡線は、大阪メトロはもちろん、全国的にも珍しい。営業線ではなく、単線でよいとはいえ、地下に2km(清水駅から鶴見緑地北車庫までを含めると約3km)ものトンネルを掘るのはそれなりに費用がかかる。逆に言うと、それだけの費用を払ってでも連絡線を作ったほうが、車庫用地を容易に確保できたり工場を集約出来たりといったメリットが大きいということになる。


鶴見検車場と鶴見緑地北車庫を結ぶ連絡線。かなり急なカーブが続く(撮影:伊原薫)

この連絡線を走る列車に、特別に乗車させてもらった。筆者が乗る長堀鶴見緑地線用の70系は、鶴見検車場を出るとリニア地下鉄用の小断面トンネルをゆっくりと進んでゆく。途中の何カ所かにあるカーブはかなり急で、連結部を見ていると「くにっ」と折れ曲がるようだ。営業線であれば、カーブを通過する際に貫通路を通る人がいることを考慮しなければならず、また乗り心地の面からも、これほどの急曲線にはできないだろう。

検査設備や人員の効率化に貢献

列車は5分ほどで、鶴見緑地北車庫に到着。横には今里筋線用の80系が停車していた。先に述べた通り、この連絡線は今里筋線の車両が鶴見検車場で検査を受ける際に通る線路なので、逆に長堀鶴見緑地線用の車両が通ることは基本的にない。鶴見緑地北車庫に70系が止まっているのは、なかなかレアなシーンである。


急カーブを抜け、鶴見検車場に到着。この連絡線は今里筋線の車両を安全に走らせるために欠かせない(撮影:伊原薫)

鶴見検車場に戻ってくると、すぐ近くには長堀鶴見緑地線仕様の80系が止まっていた。元は今里筋線用に作られた80系だが、長堀鶴見緑地線の運行に必要な車両が不足したことから、1編成がコンバートされたのだ。こうした転属がスムーズにできるのも、この連絡線のおかげ。Osaka Metroでは、このほかにも路線を越えた“人事異動”が時々行われるほか、保線用車両の共用化も実施。設備や人員の効率化につながっている。

地下鉄には、あなたが知らない線路がまだまだいっぱいある。真っ暗な窓の外に目を凝らせば、“秘密のトンネル”が見つかるかもしれない。