オンライン授業「録画・撮影は禁止」ルールに、名門大学生が感じるモヤモヤ…法的には?
コロナ禍、大学のオンライン授業は定着してきたが、あるルールをめぐって困惑も広がっている。
「授業の録画、撮影は禁止。ネットにアップしたら留年措置をとる」。首都圏の名門大学に通う大学1年生のTさん(19)さんは、4月のオリエンテーション(授業説明会)で言われた一言にモヤモヤを感じている。
Tさんの大学の授業は、緊急事態宣言後、完全オンラインへと移行した。一部の授業では、教員から「資料は配らないから、適宜スクリーンの写真を各自の端末で撮るように」と指示されたという。
だがTさんは学期の初めに授業の撮影や録音は禁止と言われているそうだ。Tさんは「教員からは写真などが流出すれば留年とも言われています。でも、レポートやテスト勉強を書く時には保存しておかないと不便。恐る恐る手探りの状態で授業を受けています」と話す。
Tさんは「そもそも資料が配布されないから、キャプチャーを保存せざるを得ない。こんな状況でも、ほんとに著作権違反になるのでしょうか」と疑問視する。
同様の問題を抱える大学生も少なくなさそうだ。著作権に詳しい柿沼太一弁護士に聞いた。
●著作権者の許諾なくても利用できる「権利制限規定」とは
--前提として、大学の授業で映される資料の著作権は、誰にあるのでしょうか。
大学の授業で映される資料の著作権について、当該大学の著作権規定の内容にもよりますが、当該資料を教員が作成した場合には、大学ではなく教員が著作権を有しています。
「授業動画のキャプチャーや撮影」は、動画という著作物の「複製」行為なので、著作権者の許諾がなければできません。
--禁止されているにもかかわらず、自分の学習のためにキャプチャーや動画を撮った場合でも、著作権違反となるのでしょうか。
著作物については、原則として当該著作物の著作権者の許諾がなければ利用することはできません。
もっとも、日本の著作権法では他人の著作物についても例外的に著作権者の許諾なく利用(コピーなど)できる場合が複数定められており、それに該当すれば著作権者の許諾がなくとも利用することができます。このような例外規定を「権利制限規定」といいます。
学生が「自分の学習(復習)のため」という目的のために複製する行為は、権利制限規定の一種である「学校その他の教育機関における複製等」(同法35条1項)に該当し、著作権侵害にはなりません。今回の相談事例でも、一部の行為はこの権利制限規定に該当します。
ただ、ややこしいのは、そのような権利制限規定該当行為を、大学(あるいは大学教員)が契約や規則で禁止していることをどう考えるかです。
これは一般化して言うと「著作権法上の権利制限規定に該当する行為を契約や規則で禁止した場合、当該契約等は有効なのか」という問題であり、著作権法を契約等により上書き(オーバーライド)できるかという問題です。
要するに「法律でやって良いって書いてあるのに、著作権者といえども私人がそれをNGといえるのか」ということですね(なお、教室内での授業を撮影する行為を禁止する場合には、施設管理権という別の問題が生じるのですが、ここでは省略します)。
--今回のようなケースではどうでしょうか。
この点については、権利制限規定の趣旨などから総合的に考える必要があります。
著作権法35条において、教育の重要性や、対象となる非営利の教育が持つ公益性から特別に権利制限が認められている趣旨、平成15年改正で学生についても35条の適用が認められた経緯からすると、一律に学生による復習目的の複製を禁止することは当該趣旨を没却するものと考えられます。
したがって、大学において当該授業を受講している学生が、自分の学習のためにキャプチャーや動画を撮影する行為を禁止する契約や規則は、公序良俗違反等の理由により無効である可能性が高く、学生がそのような行為を行ったとしても著作権侵害はもちろん、契約・規則違反にも該当しないと考えます。
以上は「禁止された授業で自分の学習のためにキャプチャーや動画を撮影する行為」について検討したものです。「禁止された授業で撮影した動画を第三者と共有する行為」は事情が異なりますので、詳しくはこちらのサイトを参考にして欲しいと思います。
【取材協力弁護士】
柿沼 太一(かきぬま・たいち)弁護士
兵庫県弁護士会所属。IT系・技術系ベンチャー企業からの相談・依頼案件が多い。またAI企業からの相談・依頼も近時とみに増加している。事務所サイトではAI、IT、知財、ベンチャー系企業に関する記事を多数掲載。
事務所名:STORIA法律事務所
事務所URL:http://storialaw.jp/