Facebookはこれまで、13歳未満の子ども向けインスタグラムを開発する計画について、ほとんど口外してこなかった。だがすでに、それに対する激しい怒りを、子どものメンタルヘルスやデータプライバシーを心配する親や児童擁護団体、米国の議員から買っている。

キッズ向けデジタル広告の世界市場は拡大しつつある。同市場の今年の売上は実に17億ドル(約1842億円)に達することが見込まれている。そうしたなかでFacebookは、すでに物議をかもしているこのアプリ(キッズ向けインスタグラム)に、広告が配信されることはないと盛んに公言している。

政治的な観点に加えて、「高まる規制当局の圧力というリスク」や「広告主が期待しているターゲティング広告を可能にするデータ利用に、Facebookが課すべき制限(YouTube Kidsの広告主にとってはすでにハードルとなっている)」は、Facebookの広告収益本能に抗うには十分だったかもしれない。

「13歳未満の子ども向け広告の法的要件は、Facebookのビジネスモデルの真逆だ。もし同社が広告販売を計画していたら、その管理は文化的原動力として興味深いものになっていただろう」と、子ども向けテクノロジー企業のスーパーオーサム(SuperAwesome)でCEOを務めるディラン・コリンズ氏は語る。

「どのような形で利用されようと、13歳未満の子ども向けに開発されるインスタグラムに、広告が表示されることはない」と、Facebookの広報担当者であるステファニー・オトウェイ氏は、米DIGIDAYに対して語った。インスタグラムという世界のなかに、子どものための場所を別につくりたいと同社が考える主な理由は、「アプリを利用するために、年齢を偽る子どもたちがいる。業界が直面しているこの問題の現実的な解決策を見つけたい」からだと、オトウェイ氏はいう。

「Facebookは現在、13歳未満の子どもにインスタグラムを利用させないようにする年齢確認システムの開発に取り組んでいる。同時に、子どもの年齢に応じて親が管理できる、子どもでもインスタグラムを体験できるサービスの可能性も探っている」と、オトウェイ氏は語る。いまのところは、13歳以上でなければインスタグラムを利用できない。今年3月に投稿されたブログのなかで、Facebookは「以前から、新規ユーザーがアカウントをつくる際には、年齢確認をお願いしている」と述べている。

米国の児童オンラインプライバシー保護法(Children’s Online Privacy Protection Act:COPPA)やEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)など、子どものデータ利用の指針となる厳しいプライバシー規制が敷かれているいま、子ども向けサービスのローンチは、広告ターゲティングの有無にかかわらず、Facebookにとってリスクが大きい──そう語るのは、子どもにフォーカスするメディア企業、ワイルドブレイン・スパーク(WildBrain Spark)で米国の広告部門責任者を務めるチャールズ・ガブリエル氏だ(同社は広告サービスとライセンスコンテンツのためのスタジオを構えている)。この動きは、インスタグラムが、Facebookにもたらされる可能性のある規制措置の「先を行く」のに役立つと、彼は語る。Facebookは、年齢に応じたユーザーだけがインスタグラムを利用していると思っているのだろうか? そう考えるのは無理があると、同氏はさらに指摘する。「『我々のプラットフォームを利用しているのは13歳以上』という主張を鵜呑みにはできない」と、同氏は語る。

GoogleのYouTube for Kidsは、ターゲティングを厳しく制限した広告配信を行っている。一方、子ども向け広告を配信しないプラットフォームをローンチしようとするのは、Facebookだけではない。TikTok for Younger Usersもそうだ。同プラットフォームでは、個人情報の共有は許可されていない。子どもが自分で投稿した動画を共有することも、別のユーザーが投稿した動画にコメントすることも、ほかのユーザーにメッセージを送ることも、さらにはプロフィールやフォロワーを管理することもできない。

データ追跡の優性遺伝子



スーパーオーサム(SuperAwesome)の委託によって実施された、PWC(PricewaterhouseCoopers)の2019年のレポートによれば、2021年中に、子ども向けデジタル広告の世界市場は17億ドル(約1842億円)に成長することが見込まれている。この広告売上の一部を、Facebookは何かほかの方法で自称・キッズ向けインスタグラムに振り向けようとするのだろうか? それはいまのところまだわからない。「おそらく、マネタイズの道は選ばずに、エンゲージメントにフォーカスするのではないか」と、コリンズ氏は語る。

Facebookはデータが生み出す広告売上に目がない。そのことがわかっているアンチFacebook派は、キッズ向けインスタグラムというコンセプトに批判の矛先を向けている。家族の貴重なデータを集め、新世代のインスタグラムユーザーを開拓すれば、Facebookの懐は潤うかもしれない。しかし、そんなことをすれば「青少年のプライバシーとウェルビーイングがリスクにさらされる」と、児童擁護団体のキャンペーン・フォー・ア・コマーシャル・フリー・チャイルドフッド(Campaign for a Commercial Free Childhood)は、Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏に宛てた4月15日付けの書簡のなかで、そう述べている。

米国の議員たちも、データと広告売上の獲得に貪欲さを見せるFacebookに、懸念を示している。3月、偽情報に関する議会聴問会が開かれた。その席で、共和党のガス・ビリラキス下院議員(フロリダ州選出。消費者保護・商業下院小委員会幹部)はザッカーバーグ氏に、仮に無料で利用できるとして、キッズ向けインスタグラムでどのように金もうけをするつもりなのかと質問をぶつけた。「それとも、子どもたちもマネタイズの対象にして、彼らを幼いうちから中毒にしようとしているのか?」と、ビリラキス氏は尋ねた。「あなたと(Google CEOのサンダー・)ピチャイ氏が、これ(キッズ向けインスタグラム)とYouTube Kidsに、コンテンツでこの年齢層をターゲットするビジネスケースを見出していることは明らかだ。そのことが私は心配でならない」と、同氏は述べた。

4月5日付けの書簡のなかで、米国議会はザッカーバーグ氏に、子ども向けを自称するインスタグラムにおけるデータ使用の可能性について質問をぶつけた。たとえば、子ども用プラットフォームのユーザーに関するデータを使って、メインプラットフォームの関連ユーザーにターゲティング広告を配信する可能性はあるのかといったような質問だ。

Facebookが持つデータ追跡のDNAが騒ぐに決まっていると、キッズ向けインスタグラムの懐疑派が懸念するのも(まだ構想の段階であるにもかかわらず)無理はないと、コリンズ氏は話す。「個人データのマネタイズをビジネスの中心に据えると、個人データを増やす方法を中心としてデザインとデザインの機能を考えがちになってしまう。子ども向けサービスの運営は、それとは正反対のものだ」と、同氏は語る。

YouTube Kidsの教訓



Facebookは、インスタグラムの未来のかじ取りを、キッズ向けデジタルサービスのベテランに託した。Facebookのバイスプレジデント、パブニ・ディワンジ氏はGoogleの元幹部で、YouTube Kidsをはじめとする、同社の子ども・家族向けプラットフォームとプロダクトを束ねていた。その同氏がキッズ向けインスタグラムの先頭に立つことになっている。「キッズ向けテクノロジーに関しては、同氏はシリコンバレーでもっとも優れたアイデアを出せる人物のひとりだと思う。ほかの誰よりも多くのことを成し遂げてきた人物なのだから」と、コリンズ氏は語る。米DIGIDAYはディワンジ氏へのインタビューをFacebookに依頼したが、残念ながら断られてしまった。

だが、子ども向けサービスの提供をめぐる規制当局とYouTubeの衝突が、一種の教訓となった可能性はある。それがFacebookの決断に影響を及ぼし、キッズ向けインスタグラムには広告を出稿しないという結論に至ったかもしれない。連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)は2019年、Googleが子どもを反映する永続的識別子を収集し、親に通知することも、親の同意を得ることもなく、それを使ってウェブ上で子どもを追跡したとして、COPPA違反で同社に1億7000万ドル(約184億2000万円)の罰金を科した。Facebookも2019年、子ども向けMessenger「Messenger Kids」のバグにより、子どもたちを招かれざる(それゆえ危険かもしれない)ユーザーとのチャットのリスクにさらし、冷笑を買った。児童擁護団体らがMessenger Kidsのサービス中止を要求しているが、Facebookは依然として同アプリの提供を続けている。

FTCとの和解が成立したのち、YouTubeは2020年、子ども向け動画のターゲティング広告を廃止した。これにより、広告主は「子どもを追跡しません」のシグナルを広告に入れなければならなくなった。それだけではない。ガブリエル氏によれば、YouTubeがキャンペーンのクリエイティブアセットを承認しないかぎり、YouTube Kidsへ出稿することもできなくなったという。

YouTube Kidsには、プログラマティック広告という選択肢も、利用可能なオープンオークションもない。そのため、サードパーティトラッキングを行うことは不可能であり、それがキャンペーンレポートや各種測定、フリークエンシーキャップを著しく制限していると、同氏は話す。「オーディエンスに関するインサイトの入手は今後も難しいだろう。広告主にとっては、本当に頭が痛い問題だ」と、同氏は語る。

子ども用デジタルウォレット?



Facebookがキッズ向けインスタグラムから広告なしで売上を生み出す可能性はあるのか? あるとしたら、どのように? これについて確かなことはわからない。同プラットフォームの使用にあたり、親にサブスクリプションを求める。そうすることが、Facebookやインスタグラムなどの人気ソーシャルメディアサイトを多くの人に親しんでもらえるようにしてきた「無料で利用できる」モデルからの脱却につながるかもしれないと、コリンズ氏は話す。「サブスクリプションは厄介だ。導入すれば、これほど大きな力をインスタグラムに与えているネットワークモデルを捨てることになるからだ」と、同氏は語る。親の同意が必要な、子どもに安全なストア機能をFacebookが開発する可能性もあると、同氏は話す。「そうなれば、いずれは子ども用のデジタルウォレットが開発される可能性もあるだろう」。

[原文:Why Facebook won’t sell ads in its planned Instagram app for kids]

KATE KAYE(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)