高校中退、野球部未所属 異色の経歴を持つ元阪神右腕が目指すNPBへの再挑戦
昨年オフに阪神から戦力外通告を受けた福永春吾、今季は徳島インディゴソックスでプレー
2016年ドラフト6位で阪神へ入団した速球派右腕の福永春吾投手は高校の野球部を卒部していない異色の経歴を持つ。昨オフに戦力外通告を受け今季は古巣の四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックスからNPB復帰を目指している。
福永にとって5年ぶりの独立リーグ公式戦となった3月27日、開幕戦特別ゲストとして連続フルイニング出場などの世界記録保持者で前阪神監督の金本知憲氏がゲストとして招かれた。ドラフト会議で自身を指名した元指揮官との再会に、2人は笑顔で冗談を交わした。
小学1年から野球をはじめた福永は大阪屈指の強豪私立・金光大阪へ進学。1年秋からエースナンバーを背負い甲子園を目指した。しかし度重なる肘の故障に苦しみ、2年時に高校を中退してしまう。転入したクラーク記念国際にはまだ野球部がなく、福永は甲子園出場もプロ野球選手になる夢も一度は諦めた。高校3年になった2012年の夏、当時大阪桐蔭のエースだった阪神の藤浪晋太郎投手など同学年の高校球児が甲子園で全力プレーをする姿を見ているうちに、夢への想いが再熱した。
「(野球を続けるための)治療にはもう通っていなかったし、全然ボールを投げていなかったので、まずは肘のレントゲンを撮りに行きました」
リスタートから4年で掴んだプロへの切符「急に夢が近づいてきた」
怪我の再発防止のため負荷の少ない身体の使い方を勉強し、高校卒業後に関西独立リーグ「06BULLS」のトライアウトを受験した。身長181センチ、体重は70キロにも満たない右腕が投じた直球は、自身が中学時代に投じた最速値を下回る最速128キロ。だが、再び野球ができるチャンスに高揚感を抱いた。
06BULLS入団後、のちに韓国プロ野球の「KTウィズ」で活躍する洪成溶氏と出逢う。毎日つきっきりでトレーニングやキャッチボールの指導を行う洪に刺激を受け、必死に練習に取り組んだ結果、半年後には最速145キロまで球速がアップ。2014年オフに四国アイランドリーグplusのトライアウトを受験し、徳島からドラフト1位指名を受けるほどに成長できた。
「諦めずに少しずつ上のステージを目指して野球を続けました。そしたら徳島に来てから、プロ野球選手の夢が急に近づいてきました」
入団1年目で徳島の開幕投手を勝ち取り、ソフトバンク3軍の千賀滉大投手と投げ合い16奪三振の完投。体力づくりや投球方法の改善に取り組み、球速は更に加速し150キロを超えた。2年連続で最多奪三振を獲得するなど、高い潜在能力を磨き上げついにプロ野球選手の夢を叶えた。
1軍選手を抑えられる投手へ、ボールを強く握る指の使い方とトレーニング
阪神に在籍した4年間で1軍登板は7回のみだった。しかし、2018年にはウエスタン・リーグの最優秀防御率と最高勝率のタイトルを獲得し8年ぶりのリーグ優勝に貢献するなど2軍での成績は輝かしい。新たなトレーニング方法の導入や変化球の改善を行い“新たな姿”でのNPB復帰を目指している。
トレーニング器具を使用する際に、すべての指を強く握るのではなく、意図的に中指と薬指と小指の3本に力を入れる。野球は競技の特性上、親指から中指を使って投球することが多いが他競技では中指から小指のすべてもしくはいずれかに力を入れるよう指導されることは珍しくない。指の使い方を意識することで、より強くボールを握れるようになり制球力が増したという。
徳島へ入団するタイミングで思い切ってグラブも変え、小指を入れる場所に薬指と小指を入れた。右投げだが、生まれたときは左利き。普段の生活の中で、右手より先に左手が出ることや、左手の方が動かしやすい動作があった。左利きの感覚が残る投手は左手の使い方も大切にした方がいいことを学び見直すことにした。
NPBの1軍選手から三振を奪える投手へと成長するため、カーブの改良にも取り組んでいる。オープン戦から様々な握り方を試し、すでに実戦で三振が取れる握りに辿り着いた。得意のストレートとスラットにも磨きをかけ、全ての球種が同じリリースの感覚、変化球はストレートと同じ軌道を経て変化していくように投げ込んでいる。前回徳島に在籍した2年間は先発を担うことが多かったが、今回は絶対的守護神だ。
「プロ入りを願ってやっていくしかないです。また新しい自分で勝負したいです」
挫折を乗り越え、異色の経歴を持つ福永が一度は叶えた夢。NPB復帰の先にある1軍での活躍を見据え、貪欲に腕を磨いている。(喜岡桜 / Sakura Kioka)