スマートフォンや電気自動車など、現代の生活にリチウムイオン電池は欠かせません。しかし、リチウムイオン電池には発火の危険性や、廃棄時の環境への影響、低温での性能低下など、様々な問題があります。サンクトペテルブルク大学の研究チームにより、こうした問題を乗り越え、従来より10倍高速に充電できる新型電池が開発されたことが報告されています。

The Fast and the Capacious: A [Ni(Salen)]‐TEMPO Redox‐Conducting Polymer for Organic Batteries - Vereshchagin - 2021 - Batteries & Supercaps - Wiley Online Library

https://doi.org/10.1002/batt.202000220



A new type of battery that can charge ten times faster than a lithium-ion battery created | EurekAlert! Science News

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-04/spsu-ant040621.php



サンクトペテルブルク大学のオレグ・レビン教授らのチームは、酸化還元活性のあるニトロキシル含有ポリマーの研究を進めてきました。ニトロキシル含有ポリマーの特徴はエネルギー密度が高く、酸化還元反応が迅速であることから充放電速度も速いという点です。一方で、電気伝導性が十分ではなく、カーボンのような高導電性添加剤を使用しても電荷収集が妨げられるという課題がありました。

研究チームは課題解決に向けて、広範な温度において高い静電容量性能を達成できる、ニッケルサレン錯体をベースにしたポリマーを合成しました。ポリマー開発にあたっては、新素材のコンセプト検証に1年をかけ、完成までには3年かかったとのこと。

この新開発ポリマーを用いた電池は、一連の実験により、従来のリチウムイオン電池に比べて約10倍高速に充電可能であることがわかっています。また、「低温動作時も性能低下がない」「コバルト系の電池に比べて火災の危険性が少ない」「環境に悪影響を及ぼす金属含有量も少ない」などの利点が挙げられています。

ただし、容量が30%〜40%少ないという問題があり、チームは充放電速度を維持しつつ容量増大のための研究に取り組んでいます。