新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、全世界で68.8億枚もの使い捨てマスクが日々廃棄されており、深刻なゴミ問題に発展しつつあります。細かく砕いた使い捨てマスクと、解体された建築物の破片を道路の素材にすることで、大量の資源を埋め立てずにリサイクルすることが可能になるという研究結果が、新たに発表されました。

Repurposing of COVID-19 single-use face masks for pavements base/subbase - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969721005957

Recycling face masks into roads to tackle COVID-generated waste - RMIT University

https://www.rmit.edu.au/news/all-news/2021/feb/recycling-face-masks-into-roads-to-tackle-covid-generated-waste

COVID-19の影響で、使い捨てマスクに代表される個人防護具(PPE)の使用も急増しており、「全世界で毎月1290億枚の使い捨てマスクと650億枚の手袋が廃棄されている」と試算結果が報告されています。この試算の基になったデータには、各国の政府がマスク着用を義務化する前の期間も含まれていることから、オーストラリア・ロイヤルメルボルン工科大学の土木工学者であるモハマド・サベリアン氏が改めて試算をしたところ、「全世界で使い捨てられているマスクは1日68.8億枚、重量にして約20万6470トンに上る」という結果となりました。



廃棄されたPPEは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に汚染されている可能性が高いため取り扱いが難しく、また生分解性プラスチック製ではないため自然に分解されて土に返ることもありません。そのため、廃棄された使い捨てマスクは焼却されたり埋め立て地に送られたりするのが一般的です。

そこで、サベリアン氏らの研究チームは、再生コンクリート骨材(Recycled Concrete Aggregate:RCA)に細断した使い捨てマスクを混合させて、道路の舗装材としての適性を調べる実験を行いました。RCAとは、建物を解体した際に発生するコンクリート片などから成る建築材料です。全世界で毎年発生する廃棄物の約半分が、建造物の建設や改修、解体に関連して発生した廃棄物だといわれており、オーストラリアだけでも毎年約315万トンのRCAが使われることなく放置されているとのこと。



RCAと使い捨てマスクを、重量比で99対1の割合で混合して作られた舗装材は、応力・耐酸性・耐水性・強度・変形及び動的特性などのテストで優れた結果を示し、舗装材としての使用が認められるための要件を全て満たしていたとのこと。以下が、サベリアン氏らがRCAと使い捨てマスクから作った舗装材のサンプルです。



使用済みの使い捨てマスクを再利用するとなると、ウイルスによる汚染が懸念されますが、研究チームは「使い捨てマスクに消毒液を噴霧して、一般家庭にもある800Wの電子レンジで加熱する『マイクロ波法』を使えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の99.9%を死滅させることが可能」としています。また、実際に使い捨てマスクから作った舗装材を使用する際には、感染リスクを回避するため「舗装材を1週間屋外に放置してウイルスを不活性化させる」ことも検討されているとのことです。

サベリアン氏らが作ったサンプルには、一般的なサージカルマスクが使われましたが、研究チームは「実験により、使い捨てマスクに使われているポリプロピレンの層が舗装材の強度を高めていることが示されました。ほとんどのPPEがポリプロピレンやポリ塩化ビニルでできていることを踏まえると、使い捨てマスク以外のPPEも舗装材にすることができると考えられます」と述べています。

研究チームの試算によると、使い捨てマスクを含んだ舗装材で2車線の道路を1km舗装するだけで、約300万枚のマスクを再利用することが可能で、埋め立てられる廃棄物も93トン減少させることができるとのこと。



サベリアン氏は研究結果について、「使い捨てマスクで舗装材を作ると、道路の素材にしても問題がないどころか、かえって工学的なメリットまで発生するのには驚かされました」とコメント。論文の共著者であるジエ・リー氏は「今回の研究は、ポイ捨てされた使い捨てマスクが路上に落ちているのを見たのがきっかけでした。もし、ポイ捨てされたマスクが適切に廃棄されていたとしても、それらは焼却されたり埋め立てられたりするのが関の山です。しかし、COVID-19に伴う廃棄物問題に循環型経済の考え方を採り入れれば、スマートで持続可能な解決策を見いだすことができるはずです」と述べました。