ホンダが電気自動車「Honda e」(ホンダe)の特徴として強調するポイントの1つが小回りだ。よく曲がることの指標となる最小回転半径は、ホンダの軽自動車よりも小さい4.3m。なんでこんなに曲がるのか、横浜の特設会場で迷路に挑戦し、開発責任者に話を聞いてきた。

ホンダe」は迷路を突破できるのか(本稿の写真は撮影:原アキラ)


○RRで小回りの限界を突破!

ホンダは神奈川県横浜市にある商業施設「横浜ハンマーヘッド」の建物内に段ボールで迷路を作成。そこでホンダeの試乗会を開催した。目的はもちろん、このクルマの小回りの利き具合を体感してもらうことだ。

排気ガスの心配がない電気自動車(EV)ということで、わざわざ屋内に設置してあった今回の迷路。全長は400mで、コース幅は3.5mと狭い。高さ1.5mほどの壁として積み上げたのは、3,000個もの段ボール箱だ。

センターコンソールの「D」ボタンを押して迷路に侵入すると、開始前に感じていた圧迫感はすぐに消えた。クイクイと曲がるホンダeの特性を十分に感じながら運転していると、コースをクリアする楽しみの方が大きくなってくる。RR(リアモーター、リア駆動)によるタイヤの切れ角は外輪で40度、内輪で50度というから、同サイズのFFコンパクトカーにはマネができないほどよく曲がる。

全長400mのダンボール迷路をクリアする「ホンダe」。この写真ではハンドルを最大まで右に切っている


木目調のセンターコンソールにシフトボタンなどが配されている


迷路内には、某テーマパークの隠れ●●のような感じで、ホンダeの車体の絵がいくつか描かれていた。実車のボディにも隠し絵の如くホンダeが描かれているのだが、その数を合計するといくつになるかはクイズになっていて、筆者のチームは見事正解。景品として「カレーうどんの素」を獲得した。カレーうどんは栃木や熊本など全国にあるホンダの拠点(社員食堂)で毎週金曜日に登場する人気メニュー。味は拠点ごとに異なるそうだ。週末になると、ホンダのトレードマークである真っ白な作業服に、いかに汁を飛ばさずにカレーうどんを食べるかを競い合う光景も見られるという。

ホンダe」には「隠れホンダe」が描かれているが、よく探さないと見つけられない


そんな楽しい話をホンダ広報に聞いていると、「すいません、途中乱入で」と現れたのが、ホンダeの開発責任者である一瀬智史(いちのせ ともふみ)氏だ。なぜホンダeがよく曲がるのか、聞いてみるにはうってつけの人物である。

ホンダeの開発責任者であるホンダ四輪事業本部の一瀬智史シニアチーフエンジニア


――ホンダeで迷路を走ってきましたが、本当によく曲がりますね。

一瀬氏:ホンダeはフロント側にモーターやエンジンを積んでいないので、その強度を保つための棒や柱も入っていません。すると、タイヤと干渉するものがなくなるので、その分、ハンドルがよく切れるようになりました。ただし、こんなにタイヤが曲がると、普通であればドライブシャフトとタイヤを回す軸をつなぐジョイント部分が抜けてしまうので、そうならないようにする機構を入れる必要がありました。

――最初からRRを想定していたのでしょうか。

最初はFFで考えていたんですが、小回りが利く「街中(まちなか)ベスト」を目指してテストをしてみると、モーターを守るためのオーバーハングが必要になってしまい(モーターを前に積むと、クルマのフロント部分が長くなってしまう)、そこまでよく曲がるクルマにはできないとの結果がボディのプロジェクトリーダーから上がってきました。みんなで“山ごもり”して検討していたのですが、彼らから「すみません、FFでは無理です!」という回答があったんです。

315Nmという3リッターエンジン並みのトルクを持つモーターでの走りなら、RRの方が「面白いじゃん!」という提案もありまして、「そうだそうだ、リアにしよう」みたいな空気になったんです。つまり、走りを面白くしたいという下心と、街中ベストという現実的な制限とが合わさって、RRになったんです。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら