京セラ、新型コンセプトカーを公開。「透明になるダッシュボード」など将来に向けた技術を多数搭載
Fortmarei

京セラが独自の技術やデバイスを多数搭載したコンセプトカー「Moeye(モアイ)」を発表しました。

1月のCES 2020で発表されたソニーのコンセプトカーと同様、自動車会社ではない京セラが手掛けるコンセプトカーも、シャシーやパワートレインについて語るべきものではなく、今後の自動車に搭載される技術のショーケースとしての役割を担います。

特に今回、京セラが製作したコンセプトカー第2弾となるMoeyeでは、完全自動運転が実現した未来を想定し、そんな時代における「人とモビリティの新たな関係性」を探ることで「新しい価値」を提案するものとなっています。

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過去から現在、未来へ

「新しい価値」を謳うわりに、まるでクラシックカーのような雰囲気のエクステリアにも、ちゃんと理由があります。既存のクルマをベースにするのではなく、ゼロからデザインを手掛けたFortmarei(京セラと同じ京都に本拠を置くデザイン・スタジオ)の石丸竜平氏によると、そのテーマは「時間を駆け抜けるデザイン」。クルマに近づき、ドアを開けて車内に乗り込み、シートに座って走り出す、という一連の体験が、自動車の歴史における過去、現在、未来とリンクするようにデザインされているとのこと。

離れた位置から見ると、豊かな曲線で構成された造形は1950年代の自動車を思わせます。事実、公開された石丸氏のスケッチノートには、シトロエンの「2CV」や「DS」、そして自動車デザインを変えたと言われるチシタリアの「202SC」らしきクルマの絵が描かれていました。

しかし、徐々にクルマに近づくと、一見クラシックな丸形ヘッドランプの中に組み込まれた幾何学的なLEDライトや、ドアミラー代わりに装備されたカメラに気づくはず。これらはまさに現在の最新モデルに見られるトレンドです。

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そしてドアを開ければ、最初に目に入るシートには伝統的な質感のファブリックとレザーが張られていますが、ゆっくりと車内を見回せば、外観とは打って変わって直線を基調にした先進的なデザインであることがわかります。光沢のある黒いセンターコンソールに備わるタッチボタンも、現代の新型車がこぞって採用しているものです。

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さらに目線を上げると、ハンドルもメーターもないダッシュボードに未来を感じざるを得ません。よく見ると、シートのフレームも現代の自動車では見たことがないデザインで、ヘッドレストはルーフに固定されています。後述しますがもちろんこれにも理由があります。

透明になるダッシュボード

過去の美しいデザインから現在の最新トレンド、そして未来を感じさせる車内のシートに座った乗員には、さらに未来的な経験がもたらされます。

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ダッシュボード全面に装備されたディスプレイは、速度や地図などの情報から車内エンターテインメントのソースまで、裸眼立体視技術によってグラフィックをバーチャル3Dで表示。さらにこのダッシュボードは、まるで透明になったかのように、本来ならばクルマのフロント部分で見えないはずの前方の風景が映し出される機能まで搭載しています。

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これは東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授が研究している光学迷彩技術によるもので、クルマの前部に搭載された8個のカメラで捉えた映像を、リアルタイムでコンピューター処理し、乗員背後のプロジェクターからダッシュボードに投影するという仕組み。横幅1200mmにわたるダッシュボードは表面に再帰性反射材が使われており、光が当たると光源の方向にそのまま反射する工夫が施されています。

しかし、乗員の目線がプロジェクターの想定した位置から大きくずれてしまうと、ダッシュボードに映し出された映像はよく見えなくなってしまいます。だからMoeyeのシートはヘッドレスト(つまり乗員の頭部の位置)が固定されており、乗員はそれに合わせてシートの前後上下を調整する構造になりました。

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また、2ドア・クーペなのにルーフの上部が高く膨らんでいるのは、この機構を組み込むための空間が必要だったという事情があります。石丸氏はルーフ全体を高くせず、フロントウインドスクリーンを低く留め、その上端ではなくやや後方からルーフラインを乗員頭部に向けて膨らませるというデザインで、高い室内高と優美なクーペの古典的スタイリングを両立させました。リアウインドウの下は逆アールを描き、ウインドウは上を向いていますが、これは主に明り採りのためだけで、後方視界はカメラに頼るからこそ可能になった、実は現代ならではのデザインです。

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安全のために死角を減らそうと、同様の技術で透明になる(ように見える)ピラーやフロアは、ジャガー・ランドローバーなどの自動車会社も開発していますが、これほど大きなダッシュボード全面を透明に見せるクルマはMoeyeが初めてとのことです。

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様々な京セラの独自技術を活用

このダッシュボードにはさらに京セラ独自の空中ディスプレイが組み込まれており、「モビすけ」と呼ばれるバーチャル・キャラクターがダッシュボード上部の空間に浮かび上がる仕組みも備えています。

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また、ルーフとドアトリムには、太陽光に近似した生体に優しい光をつくり出すCERAPHICと呼ばれる京セラのLED照明を搭載。紫励起LEDと赤・緑・青色蛍光体の調合技術を組み合わせたこの照明は、朝や夕方の自然光を車室内で再現します。

さらにタッチボタンやタッチパネルに使用されている触覚伝達技術「HAPTIVITY」や、ピエゾ素子を用いた振動スピーカー、そしてドアの内面とセンターコンソールを飾る人工オパールなどにも、京セラ独自の技術が見られます。

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もちろん、京セラは自動車メーカーではないので、このクルマがそのまま(に近い形で)市販化されることはないでしょう。しかし、そこに搭載されている様々な技術とコンセプトは、近い将来ほかのクルマで見られる日が来るかもしれません。京セラの開発陣によれば、Moeyeは簡単に言えば「こんなクルマがあったら面白くない?」と人々に呼びかけるために作られたコンセプトカーだとか。その呼びかけに賛同する企業(既存の自動車メーカーだけでなく、ベンチャーも)があれば、一緒に新しいモビリティを作っていこうというわけです。

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4つの感覚で楽しめる移動空間

自動車産業はいま、100年に一度と言われる大改革期を迎えています。Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字を取りCASEと呼ばれる領域が拡大したら、自動車は単なる移動のための「箱」となってしまうのではないか。おそらく多くの人がそんな思いを抱いているに違いありません。京セラはその「箱の中」に注目し、「人間の五感の中から味覚を除いた4つの感覚」で楽しむことができる移動空間を提案したかったと言います。視覚、聴覚、触覚は上に挙げた様々な技術の通りですが、さらにこのクルマは、車内に5種類の香り・匂いを噴射させることができるアロマ芳香器も搭載しています(これは京セラ独自の技術でもなんでもないので、ただ開発陣が嗅覚もカバーしたかっただけかと思われますが。味覚にまで手を出さなかったのは賢明というか残念というか…)。

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この時勢に京セラがわざわざリアルな発表会を京都で催したことからも分かるように、これらの技術はコンセプトカーでもちゃんと作動するようにできています。しかし、ハンドルさえないことからも察せられるとおり、公開された車両は実際に走行することはできません。

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ちなみに"モアイ"という車名は、「More "eye"」、「More "I"nnovative」そして「Mobility "愛"」という意味が込められているそうです。単なる箱ではなく、新しい魅力的な移動空間を作りたかったという開発陣の思いは、外を見ても内を見ても存分に感じられます。しかし、このままでは絵に描いた餅とまでは言わないけれど、まだ食べられない餅であることに違いはありません。次は同じ価値観を面白がれるパワートレインや車体の開発企業と共に、自走可能な車両を作り上げ、もっとリアルな未来を我々に感じさせてもらいたいものです。

Source: 京セラ