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 現在、全国各地の高校野球代替大会で名も知れぬ逸材たちが突如として続々と登場している。春の都道府県大会や練習試合が新型コロナウイルス禍によって中止となり、選手たちが日の目を見ることがなかったからだ。それほど高校生にとっての「ひと冬を越えた成長」というものは目覚ましいものがある。

 8月2日に開幕した千葉の独自大会でも、強豪校にとって脅威となりそうな無名校の逸材がいる。

 今年5月、例年なら高校野球雑誌の執筆をするために春季大会で情報収集する時期だが、緊急事態宣言下で不可能のため、各強豪校の監督へ頻繁に電話で聞き取りをした。そのなかで日体大柏の伊藤太一監督から、失礼ながら名前に聞き覚えのない高校のひとりの投手を紹介された。

「秋に対戦したのですが、すごく気持ちが入っていて全球全力で投げるような投手。スライダーもよかったです」

 伊藤監督がそう評したのが、東葉(とうよう)高校の右腕・清水大翔(だいと)だ。


将来はプロに進みたいと語る東葉高校のエース・清水大翔

 秋の千葉大会1回戦で日体大柏は東葉に延長13回の激闘の末、2対3で敗れている。その試合で清水は完投勝利。一方で、3回戦の中央学院戦では0対18と大敗。結果だけを見ると実力は測りきれない。

 そこで東葉の山田弘徳監督を紹介してもらい電話をかけると、さらに驚くべき事実を知らされる。

「『この間、元気にしているか?』と連絡したんですけど、すると『147キロが出ました』と。ひと冬越えたら140で出るだろうと思っていたのですが、そこまでとは......」

 ただ前述したように部活動はおろか、学校も2月末から休校を余儀なくされていた。監督でさえ未確認の"急成長情報"だったのだ。

 とはいえ、その数字が本当であれば、プロスカウトも放っておくはずがない。そこで練習再開から1週間が経った6月下旬、東葉高校のグラウンドを訪れた。

 千葉県船橋市の東葉高速鉄道・飯山満(はさま)駅から歩いて5分ほどの場所に校舎を構える東葉高校。長らく船橋女子高校として歴史を刻み、共学となったのは2005年から。まだ野球部として県大会上位への進出はない。校舎の裏手にあるグラウンドは、もともと畑だった場所に切り拓かれたため水捌けが悪く、至るところに大きな水溜りができていた。

 だがブルペンは幸いにもコンディションがよく、投球練習を行なうという。この日、NPB球団のスカウトとその上長であるスカウトも視察に訪れていた。清水がブルペンに入りキャッチボールを始めると、投手出身のスカウトはこうつぶやいた。

「腕というより胸の使い方がいい。胸の開き、柔軟性がある」

 そしてこう続けた。

「最近、都会の学校に通う投手は、野球塾などでフォームを教えられすぎているからか、本来の自分の出力を知らない選手が結構多いんです」

 清水にはそうした部分がなく、自然と自分の力量に合ったフォームで球に力を伝えられているという。

 聞けば、習志野台中学時代は軟式野球部に所属し、変化球投手だったという。それが高校1年夏から先発の機会をもらい経験を積むと、チームメイトとエース争いを繰り広げるなかでメキメキと実力をつけ、球速も上がっていった。

 そのなかで大きなターニングポイントとなったのは、やはり昨年秋の日体大柏戦だった。その試合で延長13回を投げ切った清水は、その後、体調を崩した。なんとか中央学院戦までには回復したが、2018年に甲子園春夏連続出場を果たした強豪相手には歯が立たず、大敗を喫した。

「同じ高校生にコテンパンにやられて悔しかった。ボールの重さや質を変えよう」

 この敗戦を機に、清水はこれまで以上に体づくりに着手した。すると70キロ前後だった体重は78キロまで増量。身長は175センチと決して大きいわけではないが、昨年秋に撮られた写真よりも明らかにガッチリとした体型になっていた。

 くわえて、スカウトも評価した上半身の柔軟性が光る。胸郭や肩甲骨周りがとくに柔らかく、山岡泰輔(オリックス)のように体全体を使って、伸びのあるボールを投げ込んでいた。

「めちゃくちゃ力んじゃいました」と、初めてプロのスカウトが見守るなかでの投球に苦笑いしたが、2月末からコロナ禍による自粛期間も走り込みやウエイトトレーニング、キャッチボールなどを欠かさなかった成果は確実に見て取れた。

 自粛期間中に、球速測定できるボールを使って計測されたという147キロに達することはなかったが、伸びのあるストレートに加え、スラーブ(カーブとスライダーの中間のような球種)、タテに鋭く曲がるスライダーのキレも十分に将来性を感じさせるボールだった。

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 まずは強豪大学への進学を目指しているという清水だが、将来については「プロの第一線で活躍できる選手になりたい。(高校時代は無名だった)ソフトバンクの千賀滉大投手のようにはい上がりたいです」と意気込む。

 目標にしているのは「岸孝之投手(楽天)のようにどこまでも伸びるようなボールや、山本由伸投手(オリックス)のような速い変化球にも憧れます」と目を輝かせる。

「一緒にして楽しい」と語る、仲間たちと戦う最後の夏。

「中央学院にリベンジしたいです。そのためにもこの船橋地区(第2地区)で優勝して、県ベスト8に行きたいです。とにかく1試合1試合を大事に戦いたいです」

 夢描く将来に一歩でも近づくために、そして仲間たちの1試合でも多く戦うために......清水はさらなる大物食いを狙う。