「ウィズコロナ」で部活はどう変わる?強豪校サッカー部の感染予防対策
5月25日に非常事態宣言が全国で解除され、休校がつづいた学校活動も6月に入り再開が進んでいる。だが、厚生労働省から新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」が提言されたように、私たちの暮らしは大きな変化が求められている。
大津高校サッカー部の平岡和徳総監督に、今後の部活動の在り方を聞いた
それは、無観客での開催が進められているプロ野球やJリーグだけでなく、学校スポーツも同じだ。今後の学校生活や、部活動はどのように変化し、何を意識すべきなのか。そこで今回、熊本県立大津高校サッカー部の平岡和徳総監督へのオンライン取材を実施。氏の考え方や部の取り組みを紹介していく。
<子どもたちファースト>
3月から全国の学校が休校になり、様々な部活動が活動を中止。県外生も多くいる大津高校も全員が自宅に帰ったが、「三密を避けるため手と手は触れ合えないけど、心と心の触れ合いは重要」(平岡総監督)と考え、自主期間中もできる範囲での活動を続けた。
活動自粛中に写真で送ってもらった1日の日誌をもとに部員全員と文章でコミュニケーションをとり、選手の心理状態を把握。プレー面でも、取り組んだリフティングの映像をチェックし、ツールを使ったランニングの距離やスピードを計測した。
また、本やSNSなどネット上で新しい情報に触れる時間もつくり、心の成長も意識した点で、平岡総監督は「プレーしたい気持ちやサッカーができるありがたさに気付けたため、再開後は今まで以上に精力的にプレーしてくれるはず。この自粛期間、技術が向上する以上に人間的にたくましくなった選手が、トップアスリートには多いと思います」と口にする。
「高校総体がなくなったのはショックで、心が折れそうになった時期もあったけど、平岡先生から何度折れても立ち上がる意味を持つ『百折不撓』という言葉をもらい、選手権に向けてもう一度頑張ろうと思えました」
そう話すのは3年生で主将のFW半代将都だ。自粛期間中は課題である筋力量のアップと一瞬の速さを身につけるため、チームから与えられたトレーニングに加え、自らテーマに合ったメニューを見つけて、肉体改造に励んだという。
冬の高校サッカー選手権など、次の目標に気持ちを切り替えやすい大津の選手とは違い、夏で引退を迎え、消化不良のまま部活動を引退する生徒も少なくない。都道府県単位でインターハイの代わりになる大会ができないかと大人が模索しているのは、子どもたちに夢やロマンを与えたいという想いがあるからだ。
しかし、開催には三密や移動のリスクを伴う。授業時間を確保するため夏休みを短縮せざるを得ない理由もあり、代替大会の開催は容易ではないが、平岡総監督は「危ないからやらないと簡単に決断するのではなく、大人が知恵を出しながら、どうすればできるかという方向性で考えてあげたい。学びの保証を考えるのが教員なら、サッカーでの保証を考えるのが我々の役目です。その際には、当然、子どもたちファーストにすべきだと思っています」と強調する。
熊本県では、代替となるサッカー大会を開催する準備を進めているという。
<部活動も新しい生活様式を守る>
6月に入ってからは、各地域で学校と部活動の再開が続いている。平岡総監督が教育長を務める熊本県宇城市では、文科省が作成した100以上の基準をもとに学校再開の準備を進めた。教室内の配置や分散授業など生徒の感染リスクを低減させる取り組みと共に、教職員を守るため人数分のフェイスガードも配布済みだ。
「新型コロナウイルスとの共存を前提にしながらも、感染リスクをいかに低くして通常に近い活動ができるかを考えています。重要なのは、大人が新しい生活習慣の下で、安心、安全、安定をいかに学校内につくっていけるかです。同時に子どもたちも、まずは自分が感染しないことを前提に、他者への思いやりを持ちながら感染リスクを常に意識するのが大事」と平岡総監督は話す。
部活動もコロナ禍以前と変わらない活動を取り戻す作業が求められる。指導者は活動自粛を言い訳にしない姿勢が重要になるだろう。今年の大津高校には100名以上の新入部員が加入したが、活動自粛のため顔を合わせられない時期が続いた。
4月中に全員の顔と名前を一致させている例年と変わらない状況をつくるため、平岡総監督は活動自粛期間中に選手の顔写真を眺め続けた。同時に変化も求められる。検温、マスクの着用、消毒などの徹底とともに、暑さが増すこれからの時期は熱中症のリスクも加わるため、チームスタッフや保護者がこれまで以上に選手の体調管理に気を配らなければいけない。
6月から再開した大津の練習でも、JFA(日本サッカー協会)が作成した活動再開のガイドラインを参考に、徹底した感染予防対策を行なっている。
まずは、活動休止中の取り組みを踏まえ、5つのグループを作成。1日に3グループが学校のグラウンドと町営の人工芝グラウンドに分かれて練習を行ない、密集をつくらない環境を整えた。
飛沫感染の恐れがある給水にも注意を払い、一人ひとりがマイボトルを用意。マネージャーがゴム手袋をして、ジャグタンクから空になったボトルへの補充を行なう。密が発生しやすい部室も入場制限をかけ、代わりとしてテントも常設した。
再開1週目に行なったのはフィジカル系のトレーニングや対人が発生しにくいボール回しが中心のメニュー。コンディションを回復させるためにも、6週間のスパンで活動休止以前の状態まで戻していく考えだ。
理由について、山城朋大監督は「自主練をしっかりやってくれたので身体がひと回り大きくなった選手は多い。ブランクなく練習をやっているので、活動休止以前の強度を求めてもやれるとは思う。ただ、やりたい気持ちが強くドンドン強度を上げていくと、ケガをする可能性も高くなる。選手には『徐々にでいいから、とにかく焦るな』と伝えています」と明かす。
変化への戸惑いや不安もあるかもしれないが、平岡総監督はネガティブに考えていない。
「新型コロナウイルス感染症の危険性が認識されだした2月後半と今を比べると、ウイルスに対する一人ひとりの自覚が高まり、生活がガラリと変わりました。意識を継続できれば共存も決して難しい話ではないと思います。スポーツはルールがあって成立するものなので、新しい生活様式というルールも守ってくれると期待しています」
サッカーの場合、ヨーロッパや韓国のプロリーグがひと足先に再開し、Jリーグも今月末からの段階的な再開が決定した。部活動は感染のリスクを避けるため、多くの都道府県で対外試合の禁止がつづくが、Jリーグやプロ野球が動き出せば、子どもたちが活動を再開する際の指針になるだろう。
スポーツに関わるすべ人たちが、新しい生活様式での部活動を意識しつづければ、子どもたちにとって当たり前だった日常と笑顔は必ず戻ってくる。