『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』より
 - (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

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 今年で連載から30周年を迎えた国民的人気タイトル『クレヨンしんちゃん』。その中でも屈指の人気を誇るキャラクターが「ぶりぶりざえもん」だ。

 見た目はどう見てもブタ。腰には刀のようなものを差していて、いつもなんだかエラそうなポーズをとっている。テレビシリーズにはめったに登場しないが、登場回だけを集めたDVDが発売されたときは大きな反響を呼んだ。さらに劇場版シリーズ28作目となる『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』(京極尚彦監督、近日公開)では久々にスクリーンに復活するという。

 いったい、ぶりぶりざえもんとは何者なのか? 何が人々を惹きつけるのだろうか? その魅力に迫ってみたい(大げさ)。

ぶりぶりざえもんヒストリー

 ぶりぶりざえもんとは、“嵐を呼ぶ5歳児”こと野原しんのすけが創作した絵本「ぶりぶりざいもんのぼうけん」に登場するキャラクター(当時は「ぶりぶりざいもん」という表記だった)。コミックス2巻では早くも絵本の表紙として姿を見せている。

 TVアニメで初登場したのは「ブリブリざえもんのボーケンだゾ」(1992年12月)。このときはしんのすけがぶりぶりざえもんに扮して、カメになった風間くんを助けていた。「夢の世界の大ボーケンだゾ」(1993年4月)では、よしなが先生そっくりの妖精からもらった魔法のクレヨンで描いたぶりぶりざえもんが実体化して、まつざか先生そっくりの魔女を倒してみせた(セリフはなし)。“ミラクルクレヨン”で描かれたぶりぶりざえもんが動き出す『ラクガキングダム』とほぼ同じ設定なのが興味深い。

 ついにキャラクターとして「声」を発したのは、「ぶりぶりざえもんの冒険 雷鳴編」と「ぶりぶりざえもんの冒険 風雲編」(いずれも1994年9月)。このときにはすでにぶりぶりざえもんのキャラクターは完成されていた。映画版ではシリーズ2作目『映画クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝』(1994年)、3作目『映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』(1995年)では姿を見せていたが、4作目『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996年)で正式に登場。以降、コミック、TVアニメ、映画それぞれで活躍を見せることになる。

ぶりぶりざえもんのキャラクター

 救いのマラカスを鳴らすとやってくる「救いのヒーロー」、それが、ぶりぶりざえもんだ。しかし、その性格はというと、尊大かつ小心、下品で卑屈で卑怯で、常に強い者の味方という「救いのヒーロー」とは到底思えないもの。ピンチになると平気でしんのすけを裏切って敵に寝返るのも当たり前。かつては登場するたびに一度は裏切っていたほどだった。結局、敵にも味方にも袋叩きにされることが多い。

 それでいて欲深く、何もしていないのにすぐ法外な「救い料」を要求する。かつては現金を求めていたが、最近は「キャッシュレスも可」らしい。どうやらマゾヒストらしく、しんのすけが呼び出したらSMプレイ中だったこともあった(ひどい)。こうやって書くと本当にろくでもないヤツなのだが、なぜだか憎めない。

 二枚目の役柄が多かった声優の故・塩沢兼人さんが声を務めていたのも異様なおかしみを生んでいた。みさえ役の声優、ならはしみきも塩沢さんが演じているのを間近で見て「なんでこんなカッコイイんだ、このブタ」と感じていたという(「クレヨンしんちゃん大全」双葉社より)。

ぶりぶりざえもんとしんのすけの友情

 しんのすけにとって、ぶりぶりざえもんは、かけがえのない友達だ。そのことが強く描かれていたのが、映画のシリーズ6作目『映画クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』(1998年)だった。

 ぶりぶりざえもんは、悪の秘密結社「ブタのヒヅメ」が世界征服のために作り上げた史上最強のコンピューターウイルスとして登場(春日部在住の博士がしんのすけの落書きを拾ったため)。当初は自分のことを理解していなかったが、しんのすけとおバカな対決を繰り返した末、自らが「救いのヒーロー」だと説明されて和解。ぶりぶりざえもんがワクチンソフトによって消滅する際、しんのすけは人知れず涙を流していたし、最後のピンチにしんのすけが「助けて! ぶりぶりざえもん!」と叫ぶと、消えたはずのぶりぶりざえもんが登場して窮地を救ってくれた。

 ぶりぶりざえもんと、しんのすけは、お互いにとってなくてはならない存在だ。これを「友情」と呼んでも差し支えないだろう。

ぶりぶりざえもんはしんのすけの分身

 2000年に声優の塩沢兼人さんが不慮の事故で亡くなって以降、ぶりぶりざえもんがセリフ付きで登場することはなかった。しかし、2016年5月、16年ぶりにぶりぶりざえもんが復活。声優の神谷浩史が起用され、TVアニメ「ぶりぶりざえもんの冒険 覚醒編」「ぶりぶりざえもんの冒険 閃光編」では変わらず卑怯で卑劣な活躍ぶりを見せた。偶然だが塩沢さんと神谷は誕生日が同じ1月28日である。

 今年公開が予定されている映画最新作『ラクガキングダム』では、ミラクルクレヨンが生み出したラクガキとしてぶりぶりざえもんが登場。相変わらずの裏切りを見せつつ、しんのすけとの名コンビぶりを存分に発揮する。

 しんのすけは、視聴者の子どもたち(と元子どもの大人たち)にとって、やりたくてもできないことを平然とやってのける等身大のヒーローだが、そのさらに上を行くのがぶりぶりざえもんだ。TVアニメのムトウユージ監督は、ぶりぶりざえもんについて「しんちゃんでさえやれないことを全部やってくれるキャラクター」と説明する(「アニメディア」2016年5月号より)。

 自分に正直でやりたい放題。これはしんのすけも、ぶりぶりざえもんも一緒。神谷は2018年からしんのすけ役を務める声優の小林由美子に「ぶりぶりざえもんはしんのすけの分身だから。これからよろしく」と声をかけたという(「ケトル」Vol.53より)。

 ぶりぶりざえもんは、しんのすけの分身であり、さらに自由な存在だと言えるだろう。しんのすけのことが好きな人は、ぶりぶりざえもんだって好きになるに決まっているのである。(大山くまお)