子どもに本物の包丁を贈った日〈今日はなにを手に取ろう?〉
旬の素材を使った毎日の料理や、時季ならではのおいしい食べ方をつぶやくツイッターアカウント、「きょうの140字ごはん」(@140words_recipe
)を運営する文筆家の寿木(すずき)けいさん。
使いたいと思う食材や道具、そしてだれかへの贈り物は、四季に導かれるものだそう。
寿木さんから季節のあいさつに代えて、読者の皆さんへ「今日はこれを手に取ってみませんか?」とお誘いします。
今回は、お子さんに子ども用の包丁を贈って一緒に料理をした日のことを教えてもらいました。
貝印の子ども用包丁。パンダのマークがチャーミングだ。
私は教育ママからはほど遠いタイプで、子どもと一緒にいかに自分が楽しめるかばかり考えている。たとえば、スーパーにオムライスの材料を買いに行くのだって、ちょっとした冒険だ。具はハムにするか、刻んだウインナーにするか、もしくはツナもいいなとか、そういえば卵は何個残ってた? など、どうでもいい話をしながら売り場を歩く。
子どもは近所の個人商店もよく知っていて、たとえば私が
「牡蠣が食べたいなあ」
とひとりごとを言ったりすると
「◯◯(魚屋さんの名前)にあるんじゃない? 保育園の帰りに寄ってこっか」
とたたみかけてきたりする。
個人商店と大手のスーパーのキャラクターの違いもなんとなく把握していて、これを買うならあそこ、あれならこっちの店という風に、知ったような顔して私にくっついてくるのなんか、おもしろくて仕方ない。
都会のお母さん、お父さんたちのなかには、ずいぶん熱心な人がいて、
「芸術系、語学、プログラミングなどの技術系。3歳から少なくとも3タイプの習いごとをさせないとだめ。スズキさん意識低すぎ」
と言われたこともある。でも、正直私にはピンときていない。
●小さい人へのギフトは、本物の包丁
食べるだけではなくつくることにも興味をもちはじめた下の子に、昨年のクリスマスに包丁をプレゼントした。選んだのは、料理上手な友人から勧められていた貝印「リトル シェフクラブ」の包丁
。もともと貝印の包丁を私も使っていたので、品質は間違いないだろうとネットで購入した。
子どもが紙工作用のハサミをかなり器用に使えるようになってきたので、じつを言うと、親である私のほうが包丁を使わせてみたくて仕方なかった。
“切り初め”にはキノコを切らせてみることにした。根菜は大人でも力がいるし、青菜は広がった葉を左手でおさえながら切らなくてはならないから、案外難しいと思ったのだ。
私の著書『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』
でもご紹介しているスローガン「まごこにわやさしい」に登場する、「し」(シイタケなどのキノコ類)をたくさん取れるキノコのマリネをつくることにした。ちなみに、スローガンを解説しておくと
ま/豆類 豆腐や納豆、油揚げ
ご/ごま
(まご/たまご)
こ/こめ
に/にく
わ/わかめ、ひじき、海苔など海藻類
や/やさい
さ/さかな
し/しいたけなどキノコ類
い/いも、コンニャク
これらの食材を、1週間のあいだにまんべんなく食べるように心がけることをおすすめしている。キノコ類は一年中安定してスーパーにあるし、値段も手頃で、調理も簡単。低カロリーで体にいい。365日、いつだって家にストックしておきたい食材だ。
●「左手は猫ちゃん」が合い言葉
下の子は、エプロンと三角巾を身に着け、踏み台に立ってまず手を洗うことろまで自分でできるようになっている。しかし、ここからは未踏の地。なんせ本物の包丁だ。私の指導を仰ぐ子どもの視線の、なんと真剣なこと。刃物で命を刻むって、本来すごく集中力を要するしごとなのだ。
シイタケをぱっくり、半分に。「猫ちゃん」が崩れかけてはいるが、なんとか上手にできた。シイタケは表面がすべらないから切りやすそうだった。
指を切らないように、左手を「猫ちゃん」(猫の手の形)にして添えなさいと、まず私が実演してみせる。
「猫ちゃんね」
「猫ちゃん、忘れてる」
「ほら、猫ちゃんだよ」
途中何度でも言う。
シメジは数本をまとめて切るので、シイタケより難易度アップ。エノキはもっと細くてバラバラしているので、私が代わりに切ってあげた。
キノコのマリネなんてしゃれた名前で呼んでいるけれど、要は塩を強めにきかせた、クタクタのキノコ炒めだ。
つくり方は、
(1) キノコを食べやすい大きさに切り分ける。この日はシイタケ、シメジ、エノキの3種類のキノコを使った。
(2) その間にフライパンにオリーブオイルとニンニクを熱する。
(3) 切ったキノコを加えて、塩とコショウを振り、しんなりするまで炒める。
(4) 最後に黒酢を加えると、コクが増しておいしい。
以上。
たっぷり刻んだキノコをフライパンで炒める。火がとおればかさが減って、ちょうどよいあんばいに。ツヤツヤでおいしそう。
スープに入れたり、オムレツの具にしたり、パスタの具にしたり、パンにのせて食べたりする。カレーに加えてもいい。とにかくこれがあると安心、という1品だ。
子どもたちも、キノコが好きでよく食べてくれるから、本当に助かる。
●キノコはイマジネーションの宝庫
考えてみれば、キノコほど絵本や児童文学によく出てくるモチーフもない。擬人化されたり、さまざまなキャラクターのイラストになったりして、商品化されているものも多い。キノコと童心はなにか響きあうものがあるのかもしれない。
1歳のときに贈ったオモチャの包丁。ずいぶん活躍したので、合掌して処分します。
キノコの次はなにを切らせよう。手のひらにのせた木綿豆腐をタンっ…これはまだ早いだろうか。ネギは上級者。子どもの大好物であるきんぴらゴボウも、もう少し先の話だろう。
今度スーパーに行ったら、「子どもが切るのに適したもの」という視点で一緒に売り場を眺めてみよう。レシピの幅も広がるだろうし、子どもの力にもなって一石二鳥だ。
ちなみにこれは、まだ包丁が使えなかった幼い頃のお手伝い。白瓜のみそ漬けを「おいしくなあれ」と言いながらもんでいるところ。
【寿木(すずき)けい】
富山県出身。文筆家、家庭料理人。最新刊『いつものごはんは、きほんの10品あればいい
』(小学館刊)が好評発売中。初めての書き下ろし随筆集『閨と厨
』(CCCメディアハウス刊)が発売中。趣味は読書。好物はカキとマティーニ。
ツイッター:きょうの140字ごはん(@140words_recipe
)
ウェブサイト:keisuzuki.info
)を運営する文筆家の寿木(すずき)けいさん。
使いたいと思う食材や道具、そしてだれかへの贈り物は、四季に導かれるものだそう。
寿木さんから季節のあいさつに代えて、読者の皆さんへ「今日はこれを手に取ってみませんか?」とお誘いします。
今回は、お子さんに子ども用の包丁を贈って一緒に料理をした日のことを教えてもらいました。
貝印の子ども用包丁。パンダのマークがチャーミングだ。
子ども用の包丁を贈ったときのこと。買い物こそ、親子共通の遊び
私は教育ママからはほど遠いタイプで、子どもと一緒にいかに自分が楽しめるかばかり考えている。たとえば、スーパーにオムライスの材料を買いに行くのだって、ちょっとした冒険だ。具はハムにするか、刻んだウインナーにするか、もしくはツナもいいなとか、そういえば卵は何個残ってた? など、どうでもいい話をしながら売り場を歩く。
子どもは近所の個人商店もよく知っていて、たとえば私が
「牡蠣が食べたいなあ」
とひとりごとを言ったりすると
「◯◯(魚屋さんの名前)にあるんじゃない? 保育園の帰りに寄ってこっか」
とたたみかけてきたりする。
個人商店と大手のスーパーのキャラクターの違いもなんとなく把握していて、これを買うならあそこ、あれならこっちの店という風に、知ったような顔して私にくっついてくるのなんか、おもしろくて仕方ない。
都会のお母さん、お父さんたちのなかには、ずいぶん熱心な人がいて、
「芸術系、語学、プログラミングなどの技術系。3歳から少なくとも3タイプの習いごとをさせないとだめ。スズキさん意識低すぎ」
と言われたこともある。でも、正直私にはピンときていない。
●小さい人へのギフトは、本物の包丁
食べるだけではなくつくることにも興味をもちはじめた下の子に、昨年のクリスマスに包丁をプレゼントした。選んだのは、料理上手な友人から勧められていた貝印「リトル シェフクラブ」の包丁
。もともと貝印の包丁を私も使っていたので、品質は間違いないだろうとネットで購入した。
子どもが紙工作用のハサミをかなり器用に使えるようになってきたので、じつを言うと、親である私のほうが包丁を使わせてみたくて仕方なかった。
“切り初め”にはキノコを切らせてみることにした。根菜は大人でも力がいるし、青菜は広がった葉を左手でおさえながら切らなくてはならないから、案外難しいと思ったのだ。
私の著書『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』
でもご紹介しているスローガン「まごこにわやさしい」に登場する、「し」(シイタケなどのキノコ類)をたくさん取れるキノコのマリネをつくることにした。ちなみに、スローガンを解説しておくと
ま/豆類 豆腐や納豆、油揚げ
ご/ごま
(まご/たまご)
こ/こめ
に/にく
わ/わかめ、ひじき、海苔など海藻類
や/やさい
さ/さかな
し/しいたけなどキノコ類
い/いも、コンニャク
これらの食材を、1週間のあいだにまんべんなく食べるように心がけることをおすすめしている。キノコ類は一年中安定してスーパーにあるし、値段も手頃で、調理も簡単。低カロリーで体にいい。365日、いつだって家にストックしておきたい食材だ。
●「左手は猫ちゃん」が合い言葉
下の子は、エプロンと三角巾を身に着け、踏み台に立ってまず手を洗うことろまで自分でできるようになっている。しかし、ここからは未踏の地。なんせ本物の包丁だ。私の指導を仰ぐ子どもの視線の、なんと真剣なこと。刃物で命を刻むって、本来すごく集中力を要するしごとなのだ。
シイタケをぱっくり、半分に。「猫ちゃん」が崩れかけてはいるが、なんとか上手にできた。シイタケは表面がすべらないから切りやすそうだった。
指を切らないように、左手を「猫ちゃん」(猫の手の形)にして添えなさいと、まず私が実演してみせる。
「猫ちゃんね」
「猫ちゃん、忘れてる」
「ほら、猫ちゃんだよ」
途中何度でも言う。
シメジは数本をまとめて切るので、シイタケより難易度アップ。エノキはもっと細くてバラバラしているので、私が代わりに切ってあげた。
キノコのマリネなんてしゃれた名前で呼んでいるけれど、要は塩を強めにきかせた、クタクタのキノコ炒めだ。
つくり方は、
(1) キノコを食べやすい大きさに切り分ける。この日はシイタケ、シメジ、エノキの3種類のキノコを使った。
(2) その間にフライパンにオリーブオイルとニンニクを熱する。
(3) 切ったキノコを加えて、塩とコショウを振り、しんなりするまで炒める。
(4) 最後に黒酢を加えると、コクが増しておいしい。
以上。
たっぷり刻んだキノコをフライパンで炒める。火がとおればかさが減って、ちょうどよいあんばいに。ツヤツヤでおいしそう。
スープに入れたり、オムレツの具にしたり、パスタの具にしたり、パンにのせて食べたりする。カレーに加えてもいい。とにかくこれがあると安心、という1品だ。
子どもたちも、キノコが好きでよく食べてくれるから、本当に助かる。
●キノコはイマジネーションの宝庫
考えてみれば、キノコほど絵本や児童文学によく出てくるモチーフもない。擬人化されたり、さまざまなキャラクターのイラストになったりして、商品化されているものも多い。キノコと童心はなにか響きあうものがあるのかもしれない。
1歳のときに贈ったオモチャの包丁。ずいぶん活躍したので、合掌して処分します。
キノコの次はなにを切らせよう。手のひらにのせた木綿豆腐をタンっ…これはまだ早いだろうか。ネギは上級者。子どもの大好物であるきんぴらゴボウも、もう少し先の話だろう。
今度スーパーに行ったら、「子どもが切るのに適したもの」という視点で一緒に売り場を眺めてみよう。レシピの幅も広がるだろうし、子どもの力にもなって一石二鳥だ。
ちなみにこれは、まだ包丁が使えなかった幼い頃のお手伝い。白瓜のみそ漬けを「おいしくなあれ」と言いながらもんでいるところ。
【寿木(すずき)けい】
富山県出身。文筆家、家庭料理人。最新刊『いつものごはんは、きほんの10品あればいい
』(小学館刊)が好評発売中。初めての書き下ろし随筆集『閨と厨
』(CCCメディアハウス刊)が発売中。趣味は読書。好物はカキとマティーニ。
ツイッター:きょうの140字ごはん(@140words_recipe
)
ウェブサイト:keisuzuki.info