<文 中島早苗(東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長)>

2019年もいよいよ終わろうとしている。このお正月休暇を、ハワイで過ごそうとしている方もいるかもしれない。今月はそんなハワイの伝統的な踊り、フラダンスについて書いてみたい。

フラダンスと言えば、ハワイアン音楽に合わせて女性が優雅に踊るイメージが湧くが、男性がグループで踊る「メンズフラダンス(メンフラ)」が日本でも少しずつ広がり始めているらしい。男性だけが躍るステージを客席で見られるイベントも盛況だと聞き、メンフラとはどんなものか、目黒区祐天寺の練習スタジオを訪ねてみることにした。

課題曲「ノホパイパイ」の音楽に合わせて踊る皆さん。一番手前は、「メンフラアイドル」としてデビュー予定の愛甲さん

訪ねたのは一般社団法人日本メンズフラダンス協会のスタジオ。ここで毎月第1木曜日と最終木曜日の19時から、メンフラのクラスが開かれている。男女混合のクラスも毎月1回開催。現在、20代から40代の十数名が参加している。会費は1回3000円だ。

「メンフラ」の意外な歴史

クラスが始まる前に、協会代表理事で講師の土屋聡さん(41)に話を聞いた。

土屋さんは元々ドラマーとして活躍するミュージシャンだった。しかし34歳で結婚したのを機にプロデューサーに転身。3年前、男性だけでフラを踊る「モキハナボーイズ」のステージに衝撃を受け、モキハナボーイズの人たちと一緒にメンフラの協会を設立するに至った。

左から、講師の土屋さん、愛甲さん、中野さん、村田さん、渡辺さん

土屋「僕は自分自身ドラマーだったので、さまざまなミュージシャンのステージを見る機会が多く、音楽性やクオリティについても理解しているつもりです。それが、モキハナボーイズのステージを見た時に、とにかく一生懸命踊る純粋さに胸を打たれて。素晴らしいショーだなと思い、メンフラを日本でももっと広めたいと考えたのです」

土屋さんによれば、もともとハワイではフラは、男性が神に捧げる特別な踊りで、女性はサポート役だったという。当時の踊りは今では「古典フラ」と称されるが、その歴史は1820年に閉ざされてしまう。キリスト教が入って来て、ハワイアンの伝統や信仰が否定され、裸に腰蓑で踊るフラは野蛮だとして禁じられたのだ。

それから50年以上が経った、カラカウア大王の時代。大王はハワイ的精神をよみがえらせ、フラをはじめとするハワイの伝統文化が再び公共の場で日の目を見るようになったのである。復活したフラはウクレレなどの楽器が取り入れられた新しい音楽と共に、女性も多く踊る「近代フラ」として広まっていった。

さて、そんなフラだが、日本のフラ人口は全体でおよそ100万人。うち男性は1000人以下とみられているが、土屋さんは「少しずつ増えているという手ごたえを感じています」と言う。

メンフラやハワイ音楽のライブを楽しめる「OYAJI PARTY」や、「そいやっ!男Hula祭り」などのイベントは盛況。毎月第一水曜日の夜は、六本木アロハステーションで、ライブミュージックでフラが踊れる「MENHULA NIGHT FEVER」も開催されている。

メンフラアイドルもデビュー予定

2020年の春には3人のメンフラアイドルを売り出す予定だという土屋さん。

では実際の練習風景を見てみよう。

クラスは1時間。前半30分がストレッチや、ステップなどの基礎練習で、後半30分は課題曲を踊る。

ステップや振りにはメンフラらしい勇ましいものも

時間になって集まって来た参加者の皆さんに話を聞いてみた。

まずはアイドルとして売り出し予定の一人、愛甲広夢さん(26)。メンフラ協会の公開オーディションに合格し、現在デビューに向けてレッスンを受けている。

愛甲「フラは最初は難しくないかと思っていましたが、ステップと振りを同時に動作するなど、思った以上に難しいし、ハードです。初めて聞くハワイ語の歌詞を覚えるのも大変で(笑)」

土屋さんの紹介で始めたという渡辺悠也さん(32)は、「1回見に来て、お試し体験をしてから参加しています。最初は難しかったですが、踊っていると体幹の筋力が大事で結構使うので、生涯続けられるスポーツになると思って楽しんでいます」。

一番最近の参加者で、今日で3回目という村田佳介さん(27)はプログラマー。下に紹介する中野さんの紹介で来ているという。「結構難しいですが、リズムに乗れると楽しい」

土屋さんと2年以上前からの知り合いだという中野光裕さん(46)は、普段はセミナー講師をしている。

中野「お試し体験会に来て、はまりました(笑)。フラダンスなんて、となめていましたが、やってみると意外としんどい。足腰を使うので運動になるし、姿勢がよくなる気がします。見た目の印象より、やりがいがありますよ。腰の位置を低くしたまま踊り続けられる人は上手ですね」

中島「メンフラの魅力ってどんなところでしょう?」

中野「一体感ですかね。一緒に踊っている時も感じますし、イベントなどでは、踊っている人と見ている人が一体になれる気がします。見ている人も踊れますしね。ITが浸透して、同じ会社でも横に座っている人の仕事の中身を知らない、みたいな今の世の中で、一体感、つながり感を体験できるのは貴重な時間です。フラって奥が深いですよ」

年をとっても続けられる趣味である点も魅力だという。

中野「先日行われた『OYAJI PARTY』で、60、70代のメンフラグループがいらしたんですが、それが格好よくて。その年代でスポットライトを浴びられるチャンスってなかなかないと思いますが、メンフラをやっていればあるんだなと(笑)。年をとっても刺激を受けられるっていいですよね」

動きを合わせて踊る一体感が魅力

前で踊る講師の土屋さんを見本に踊る皆さんを見ていたら、楽しそうで、ちょっとやってみたいなと思った。上手な人ほど、体幹や頭がぶれずに無駄な動きがないのがわかる。確かにこれは、生涯続けられるスポーツ、趣味になりそうだ。

メンフラは力強さと、コミカルな動きで、見るだけでも楽しい。人気なのもうなづけて、来る年のイベントを見に行ってみようか、という気にさせられる。

外の空気は冷たいが、スタジオの中にはハワイアンミュージックが流れ、汗をかきながらフラを踊るメンズがいる。今年も皆さん、さまざまなことがあったと思う。来年はよい年になりますように。メンフラを踊る皆さんを見ながら、そんなことを考えた2019年末の夕べだった。

今回の筆者:中島早苗(なかじま・さなえ)1963年東京墨田区生まれ。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「モダンリビング」副編集長等を経て、現在、東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長。暮らしやインテリアなどをテーマに著述活動も行う。著書に『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)、『建築家と造る 家族がもっと元気になれる家』(講談社+α新書)、『ひとりを楽しむ いい部屋づくりのヒント』(中経の文庫)ほか。