ファンイベント「D23」の会場に設けられたディズニープラスのブース(記者撮影)

動画のインターネット配信が拡大する中、アメリカのウォルト・ディズニーが改めてその本気を見せた。

8月23日、アメリカ・カリフォルニア州のアナハイムで開かれた「D23エキスポ」。ディズニー社が2年に1度主催する、世界最大のディズニーのファンイベントだ。動画配信を統括するケビン・メイヤー氏は、11月から始める動画配信「ディズニー+(プラス)」にさらに独自コンテンツを加えると発表した。

メイヤー氏は「ディズニープラスはすべての年代層にとって楽しく、魅力的なサービスになるだろう」と胸を張った。

最大の武器はコンテンツの豊富さ

ディズニープラスは、11月12日に開始される動画配信サービス。最大の武器は、何といってもコンテンツの豊富さだ。

ディズニーは2006年のアニメーション製作会社・ピクサーを皮切りに、2009年にアメコミのマーベル、2012年に『スター・ウォーズ』シリーズで著名なルーカスフィルムを買収してきた。ディズニープラスではディズニーはもとより、ピクサー、スター・ウォーズ、マーベルという4つのブランドのコンテンツが過去作品も含めて見放題となる。

さらにディズニーは2019年3月、約713億ドルで21世紀フォックスを買収。今後は『アバター』や『X-MEN』といった強力なラインナップが加わることになる。ディズニープラスではまず、フォックス傘下で自然・科学などのドキュメンタリー専門チャンネル「ナショナルジオグラフィック」を配信する。

そこに加えられるのが、ディズニープラス独自のコンテンツだ。今回の発表では、ディズニーの実写版映画の製作会社やマーベル、ルーカスフィルム、ディズニーチャンネルの各トップが入れ替わりに登壇。予定の時間を30分近く超え、約2時間にわたって独自コンテンツを次々と披露した。

新たに発表されたのは、『スター・ウォーズ』に登場するオビ・ワン・ケノービにスポットを当てたシリーズや、人形劇『マペット』の短編集など。会場にはオビ・ワン・ケノービ役のユアン・マクレガー氏や、『アベンジャーズ』シリーズに出演するポール・ベタニー氏、エリザベス・オルセン氏ら著名人も次々と登場し、約6800人の観客を魅了した。

ネットフリックスの半額、月6.99ドルで攻勢

前のめりの姿勢は価格にも現れている。ディズニープラスはアメリカで月6.99ドル。ネットフリックスの通常プラン12.99ドルのおよそ半額の設定になる。さらにグループで展開するスポーツチャネル「ESPN+」と動画配信「Hulu」のセットで月12.99ドル(アメリカのみ)。完全にネットフリックスを意識した価格設定といっていいだろう。


月6.99ドルは「かなり魅力的な価格だ」と語るディズニーで動画配信を統括するケビン・メイヤー氏(記者撮影)

ディズニープラスは、4Kなど高画質に対応。好きなキャラクターの設定や視聴内容などによってリコメンドも受けられる。それで通常料金月6.99ドルは「かなり魅力的な価格」(メイヤー氏)だ。

さらに今回のイベントでは、来場したファン向けに特別価格も設定。3年契約で140.97ドルと、実質月3.9ドルで提供する。特別なファン向けということもあり、もう一歩踏み込んだかたちだ。

11月12日にサービスを開始するのは、アメリカ、カナダとオランダ。その後はグローバル展開を視野に入れる。メイヤー氏は「ディズニーのコンテンツはグローバルに通用する質の高さがある」と自信を示す。国際事業の強化のために、ネットフリックスから人材を招き入れたことも明らかにした。

ただ、他地域での開始時期について、メイヤー氏は「できるだけ早く展開を始めたい」と述べるにとどめた。日本では今年3月にNTTドコモと組んで動画配信サービス「ディズニーデラックス」を月額700円(税別)でスタートさせている。棲み分けの問題もあり、ディズニープラスが日本で見られるようになるのは、まだ少し先になりそうだ。

ディズニーが動画配信に力を入れるのは当然の流れだ。動画配信大手のネットフリックスは、最近増加数が鈍化しているとはいえ、アメリカだけで約6000万人の契約者(2019年6月末)を抱える。ネット通販の王者アマゾンは「アマゾンプライム」で着々と動画配信を増やしている。

【2019年8月27日17:40追記】初出時、ネットフリックスの契約者数が誤って記載されていました。お詫びして訂正します。

今秋にはアップルも動画配信サービス「アップルTV+」を立ち上げる。アメリカの携帯電話サービス大手AT&Tもほぼ同時期に、買収したワーナーメディア(旧タイム・ワーナー)のコンテンツを活用した動画配信を始める。動画配信が新しい時代を迎えることは間違いない。

映画やテレビビジネスへ悪影響との声も

ディズニーは単にコンテンツを供給するのではなく、自らが動画配信の主役になろうとしている。ディズニープラスのサービス開始に合わせ、ディズニーはネットフリックスへのコンテンツの供給を止める方針。メイヤー氏は「業界が激変する中、われわれは幸いにも自分たちの運命を自分でコントロールすることができる」と表現する。

ディズニーの動画配信は、既存の映画やテレビビジネスに悪影響を与えるといった指摘もある。しかし、メイヤー氏は「有料チャネルのコンテンツをそのまま放映するわけではない。動画配信は、既存ビジネスを補うサービスになる」と意に介さない。


ファンイベントの最後には、「+」をかたどった紙吹雪で会場が埋め尽くされた(記者撮影)

ファンイベントでの発表会の最後、会場は「+」をかたどった紙吹雪で埋め尽くされた。そして来場者に配られたのが、「WE LOVE YOU 3000」のピンバッチ。過去最高の世界興行を記録した『アベンジャーズ エンドゲーム』で使われた、印象的なセリフからきたものだ。

ディズニーははたして、動画配信でも視聴者を「3000回愛せる」か。