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ニュルブルクリンクのタイムは7分40秒1

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

自動車メーカーが生み出すクルマの中には、純粋なドライバーズカーとして正しく仕立てられたものが、数は多くはないが何台か存在する。特にポルシェのGTシリーズや、ミドシップ・フェラーリのスペシャルバージョン、そしてルノーメ・ガーヌのホットモデルなど、AUTOCARの読者なら共感していただけるだろう。

今回紹介する最新のルノー・ガーヌRSトロフィーRも、見事に同じことが当てはまっている事実をレポートできて大変嬉しい。史上最高のFFモデル・トップ10のランキングを見直す時がやってきた。

ルノー・メガーヌRSトロフィーR

例によって、ドイツ生まれのライバルが打ち出したラップタイムを更新している。ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェのタイムは7分40秒1で、量産FFモデルとしては最速のクルマとなった。しかしトロフィRは最高速を狙うというよりも、ハイスピード・ドライブを楽しむクルマ。

パフォーマンス向上のために、様々な方法を駆使して車重は130kgも削られている。リアシートを省いて25kgのマイナス、フロントシートを軽量なものに交換して14kgの減、ボンネットはカーボンファイバー製になり8kg、チタン製のエグゾーストシステムで7kg、リアワイパーをなくして3kg、リアドア・ガラスを薄くして1kg減など。さらに、車内のタッチモニターの画面サイズを小さくして、250g削っている。

フロントドライブのポルシェ911 GT3 RS

またRSメガーヌ以下のグレードに装備されるアクティブ・リアステアリング・システムが省かれており、少し驚かされた。そのリアサスペンションには軽量なトーションビーム式が採用され、40kg近くを減量。厳しいダイエットの結果獲得した車重は1306kgとなる。

リアステアリング・システムが付かないことで、高速走行時の安定性はやや劣ると思われるが、クルマとの対話性は向上しているはず。また軽量化の効果も加わり、レスポンスの一貫性も高まっていることになる。

ルノー・メガーヌRSトロフィーR

装備面では、調整式のオーリンズ製デュアルフロー・バルブ・ダンパーに軽量なスプリングを採用。フロントキャンバーは角度が強められた。巨大なリアディフューザーにフロントスプリッターが追加され、空力面の向上も抜かりはない。車高はユーザーが最大で16mmまで下げることもできる。

サーキットでの仕上がりは、まるでフロントドライブのポルシェ911 GT3 RSかのようだ。低められた車高に硬すぎないダンパーの設定が、ポルシェのような流麗なフィーリングと、不足のないグリップとトラクションを生んでいる。

ニュルブルクリンクでのラップレコードを破ったクルマにも装備されていた、カーボンセラミック・ブレーキの装備も可能。しかし高価で生産側にも混乱を招くということで、500台限定のトロフィRながら、納車時に選べるドライバーは30名限り。ルノーによると残りの470名のドライバーも、納車後に希望すれば後付は可能だとのこと。

ステアリングホイールにすべてが伝わる

6点ハーネスや、1本当たり2kgの軽量化が可能なカーボンファイバー製のホイールなど、レコードマシンと同じ装備も選択はできる。この軽量ホイールは、納車時にはクルマに取り付けられることなく、別に梱包されるそうだ。オーナーは街乗り用の通常のタイヤセットと、サーキット走行用のカーボン・ホイールのタイヤセットを持つことができる。トロフィRのオーナーにとっては、ありがたい設定だろう。

徹底的に軽量化が図られたトロフィRは生々しく騒がしい。ドライバーに深く強く訴えかけてくる。アルカンターラ巻きのステアリングホイールからはタイヤの状態がリアルタイムで伝わり、操舵感も重すぎることはない。

ルノー・メガーヌRSトロフィーR

わずかに発生するトルクステアを感じ取り、ハードブレーキング時には時折、細かな振動が伝わる。タイヤにどの程度の余力が残っているのか、どの程度流れているのか、すべてを知覚できる。もしこのガーヌRSトロフィーRの最高出力が2倍あったのなら、極めて高いグリップレベルによって、スーパーカーレベルの速さでサーキットを走ることができると確信するほど。

横方向のボディコントロール性や、減速時の能力も凄まじい。タイヤはブリヂストン・ポテンザS007で、通常のガーヌRSトロフィと同じ銘柄。1日中サーキットを楽しんだ後でも、トレッド面の状態は良好に見えた。

ターンイン時はスロットルを戻すか、ややブレーキを引きずるかたちだと、クルマは驚くほど期待通りに向きを変えていってくれる。トロフィーRをパワー・アンダーステアに持ち込むことも可能だが、その挙動は極めてニュートラルに始終する。縁石に乗り上げるとガタガタとノイズを立てるけれど。

一般道でのグリップも「異常なほどに高い」

ルノー・メガーヌRSトロフィーRのボディコントロール性はずば抜けて良かった。車高を少し戻してダンパーを緩くすることで、魅力的なロードカーにもなると思う。ルノーのチーフ・テストドライバー、ローラント・ハーゴンによれば、一般道でのグリップレベルも「異常なほどに高い」という。疑いようがない。

トランスミッションは、デュアルクラッチATより軽量という理由でマニュアルのみの設定。エンジンも仕上がりも素晴らしく、レスポンシブでスムーズ。最高出力は300psと通常のトロフィと変わらないが、500台と限られているクルマの認可取得は、コスト的にも難しいからだろう。そのかわり、徹底的な軽量化でパワー・ウェイト・レシオを向上させ、エクストラ・スピードを得るという作戦を選んだのだ。

ルノー・メガーヌRSトロフィーR

価格はフランス現地において、およそ5万ポンド(650万円)になるとのこと。ホンダ・シビック・タイプRと異なり、こちらのラップレコード・ホットハッチには資金力も必要だ。だとしても、クルマの仕上がりは極上そのもの。充分に価格を上回る訴求力があると思うが、購入時に一番ネックになるのは価格でもある。

確かに安くはないが、4倍近い値段の付いたスーパーカーに引けを取らないほど、スリリングなドライビングを味わえるのだ。難しく考えないで選んだ方が良いのかもしれない。

ルノー・メガーヌRSトロフィーRのスペック

価格:5万ポンド(650万円・予想)
全長:4410mm
全幅:1875mm
全高:1435mm
最高速度:262km/h
0-100km/h加速:5.4秒
燃費:9.2km/L(予想)
CO2排出量:180g/km(予想)
乾燥重量:1381kg
パワートレイン:直列4気筒1798ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:300ps/6000rpm
最大トルク:40.7kg-m/3200rpm
ギアボックス:6速マニュアル