国立天文台は8月8日、同天文台特任研究員のワン・タオ氏(東京大学附属天文学教育研究センター)らの研究チームによって、今から110億年以上前の初期宇宙に星形成活動の活発な銀河が複数見つかったことを発表しました。研究成果は論文にまとめられ、同日付でネイチャーのオンライン版に掲載されています。


今回見つかった巨大星形成銀河(画像中に4つある大きな天体)の想像図


■塵が多い遠くの銀河はハッブル宇宙望遠鏡で観測できない

星空の狭い範囲をクローズアップ撮影すると、信じられない数の銀河が写し出されます。そのなかでも遠くに存在する銀河を見つけてその性質を詳しく調べると、宇宙の初期の様子を探ることにつながります。特にNASAの「ハッブル」宇宙望遠鏡は、130億年以上前の初期宇宙を含む膨大な数の銀河を撮影してきました。


ただ、ハッブル宇宙望遠鏡も万能ではありません。銀河から届く光や電波は、天体が遠ざかることで波長が伸びる赤方偏移(遠ざかる救急車のサイレン音が低く聞こえるのと同じ原理)の影響を受けており、遠くにある銀河ほど赤方偏移も強く作用します。


問題は、塵を多く含む銀河を観測する場合です。塵は光をさえぎりますが、赤外線ではよく見えます。しかし、赤方偏移によって波長が伸ばされてしまうと、非常に遠くの天体からの赤外線はより波長の長い電波(サブミリ波)として観測されることになります。


ところが、ハッブル宇宙望遠鏡は紫外線・可視光線(人の目に見える光)・赤外線を利用しているので、電波で天体を観測することはできません。そのため、初期宇宙にある塵が豊富な銀河は、ハッブル宇宙望遠鏡では見つけることができないのです。


■初期宇宙の星形成銀河は予想以上に多かった

そこで研究チームは、サブミリ波を観測できる南米チリの「アルマ」望遠鏡に注目しました。ハッブル宇宙望遠鏡が長い期間をかけて観測したCANDELS領域(ろ座、ろくぶんぎ座、くじら座にある3つの観測領域のこと)にある天体のうち、ハッブルでは見えないが「スピッツァー」宇宙望遠鏡のデータには写っている63個をピックアップし、アルマ望遠鏡による観測を試みたのです。


その結果、63個のうち39個の天体からサブミリ波を検出。いずれも天の川銀河の100倍のペースで星が生まれている星形成銀河であることが判明しました。その大きさは天の川銀河と同程度ですが、110億年前の宇宙ではじゅうぶん巨大といえるサイズです。


ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像(左)と、アルマ望遠鏡がサブミリ波で観測した巨大星形成銀河(右の4つ)。アルマで観測された銀河に付与された番号は、ハッブルの画像内にある四角形に対応していますが、ハッブルの画像には何も写っていないことがわかります(Credit: 東京大学/CEA/国立天文台)


この研究を通して、新たな疑問も浮上しました。今回見つかったような巨大星形成銀河は、満月1つ分の範囲に100個くらいは存在しているだろうと推定されます。全天では膨大な数に上りますが、星形成活動の活発な銀河が110億年前の宇宙にこれほど多く存在していたことは想定外で、従来の理論やシミュレーションではその成り立ちを説明することができません。ワン氏はアルマ望遠鏡による追加の観測や、将来の宇宙望遠鏡による観測によって、この新たな謎にチャレンジしたいとコメントしています。


 


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Image Credit: 国立天文台
[https://alma-telescope.jp/news/press/darkgal-201908]
文/松村武宏