<不育症とは?>流産続きの女性が「生まれてくるかわからない」命を抱くまで
「不妊症」に比べ、「不育症」という病気を知っている人は少ないのではないだろうか。Wさん(45)は、この不育症に悩まされ、心身ともに辛い4年間を過ごした。いったいどんな病気なのか、そして苦しい治療を乗り越えた末にWさんが掴んだものとは?
何度も流産を繰り返し──
赤ちゃんができないことは同じでも、「不妊症」と「不育症」は似て非なるもの。不育症は、妊娠はするけれど、流産や早産を繰り返し、赤ちゃんが得られない病気のこと。
不妊症の人から見れば「妊娠できるのだからうらやましい」と思えるが、不育症の人からすると「こんなにつらい思いをするぐらいなら、妊娠しないほうがいい」と思ってしまうほど、両者の間には深い溝がある。
26歳のときに同級生同士で結婚したWさん。29歳で初めての妊娠、32歳で2回目の妊娠をするが、いずれも心拍が確認されることがないまま流産してしまう。
2回目の流産後の手術では、途中で麻酔がきれてしまい、ひどい痛みに耐えなければならなかったことがトラウマになり産婦人科から足が遠のいてしまった。3回目の妊娠は34歳のとき。流産後の手術で麻酔がきれるのは嫌だと訴えると、今度は効きすぎて、気分が悪くて起き上がれない……。
それまで何も言わなかった夫が「今はまだ次の子どものことは考えなくてもいいけど、検査だけはしてみない?」と提案、Wさん夫婦は大学病院に足を運んだ。
そこで初めて不育症が判明。赤ちゃんができると異物として攻撃してしまう「自己免疫異常」と、血栓ができやすいことで赤ちゃんに栄養が届かず、流産していたことがわかったのだ。
生理が終わってから排卵日まで、血液をサラサラにする薬を飲む治療が始まった。しかし、それから4年、妊娠することはなかった。
「子どもが欲しい気持ちと、流産後のあんなつらい手術は嫌という気持ちと、行ったり来たりしていました」
37歳になっても子どもができず、夫婦での検査をすすめられた。そのとき再びトラウマとなった体験の記憶がよみがえり、「流産後の手術が怖い。あんなつらい思いをして赤ちゃんを奪われる経験は、もう2度としたくない!」と、病院で泣いて訴えた。隣にいた夫も黙って聞いていた。
「手術しなくて大丈夫。自然に流れるまで待てばいい」
という主治医の言葉にホッとした。緊張が一気にほぐれた。
「不育症の治療の4年間、つらいとはダンナにも言えなかったんです。いま思えば、それがかなりのストレスだったんでしょうね。翌月、夫婦で検査を受ける予定日前に、自然に妊娠しました」
妊娠を周りに口止め
しかし、そこからも不安は続く。心拍はあるのか、本当に育つのか……。検査のたびにハラハラし、初めて赤ちゃんの心音が聞けたときは、夫婦2人で泣いた。
きょうだいと両親以外には“出産まで誰にも言わないで”と、妊娠を口止めした。ギリギリまで、子どもの出産準備もしなかった。本当に生まれてくるのか、わからないから。
'10年8月、無事に男の子を出産。陣痛開始から約4時間の安産だった。
「不育症は、周りに同じ状況の人もいないし誰にも相談できないことがつらいです。いま思えば、もっと早く自分の気持ちを主治医に言えばよかったかな。専門家のアドバイスがあると、やっぱり心強いですからね」