国内のモスバーガー看板が緑色になって久しいが、海外にはいまも「赤色の看板」が残る地域がある。なかでも出店数が多いのが台湾だ。実はこの地は、モスフードサービス(以下、日本MOS)が初めて海外進出したエリア。櫻田厚会長(66)が海外事業部長だった90年代当時、現地に赴任して、みずから陣頭指揮を執った「思い出の地」である。


キャストミーティングでの記念撮影(以下、2018年3月23日Jタウンネット撮影)

台湾1号店オープンから27年。同社は2018年3月、台湾の店舗キャストを対象とした「キャストミーティング」を行った。そこへJタウンネットK編集長も同行し、日本発のモスバーガーが、海を越えた台湾で、どのように受け入れられているのか取材した。

「名も無い」ところからのスタート


モスバーガー店舗の例

キャストミーティングは、全国47都道府県のお客さんと交流する「タウンミーティング」(2011〜15年)に続いて、15年度から行われている。櫻田会長の講演や質疑応答、懇親会など、職位に関わらずに、直接経営者とキャストが交流できる場だ。

全国各地で開催されているが、海外では台湾が初めて。現地のモスバーガーは、日本MOSと台湾の大手電機メーカー・東元電機(TECO)の合弁による「安心食品服務」が運営している。日本との違いは、全店が直営で、フランチャイズ店が存在しないことだ。


講演する櫻田会長

台湾でのキャストミーティングは、現地法人の研修施設「安心学院」(新北市淡水区)で18年3月22、23日に行われた。K編集長が取材したのは、23日の2日目。ミーティング開始前、櫻田会長に初日の感想を聞いた。

「私が感じた言葉で、一方通行でないリアルなコミュニケーションができたのが一番良かったですね。いまはおかげさまで、これだけの会社になりましたが、名も無いところからスタートしました。その時のことを話すと、『台湾のモスバーガーも、いまこうやって有名だけれど、そういう時(草創期)もあったんだ』とか。各国の人気商品を紹介すると、『自分たちは台湾のモスのことしか知らなかった』といった反応があって、勉強にはなったのかなと思います。忌憚なく話せたのが良かったです」

現地では「ライスバーガー」が人気

櫻田会長は、創業者・櫻田慧氏(「慧」は旧字体)のおいだ。1号店である成増店(東京都板橋区、1972年開店)の立ち上げから参画し、後に海外進出を任された。台湾1号店の新生南路店(台北市、現在は「新生店」)の現地採用キャストや、開店当時の写真を紹介しながら、台湾出店の経緯や日本での台湾モスに関する報道を説明していた。

日本と台湾では、人気の傾向も異なる。2017年時点で、国内ではモスバーガーとテリヤキバーガーが人気だが、こちらではライスバーガーの「海鮮かきあげ」と「焼肉」がツートップ。日本と違って、米のバンズにキヌアが混ぜ込まれているのが特徴で、味付けは現地の舌にあわせて若干薄くなっている。


台湾で期間限定販売されている「ライスバーガー『明太子サーモン』」。茶褐色の粒がキヌア。

いまでこそ順風満帆だが、台湾赴任直後にはいろいろと苦労もあった。1年ほど経ったある日、現地スタッフと会食した際、厳しい表情でこんなことを言われたという。

「櫻田さんはこちらに来ているけれど、中国語を覚えようとしないし、台湾を勉強しない。(スタッフと)交流せずに、すぐアパートに帰っちゃう」

これまで通訳を介したやり取りが当たり前だった会長は、この言葉にハッと気づかされた。当時のキャストにはTECOグループからの出向者もいたが、大学を出てすぐ、まだ無名だった安心食品に飛び込んだ人もいる。「この小さな会社で、どうやって家族のように親しくなっていくか」。それからは自分なりに、少しずつ言葉を覚え、コミュニケーションができるようにしたといい、それが台湾でのスタートだったと振り返る。

質問者には「金色の名刺」が

質疑応答のコーナーでは、安心食品や、食材製造部門である魔術食品工業のスタッフが、桜田会長に次々と質問。スタッフとの連携に苦心しているキャストには、櫻田会長が自らの経験を交えつつ、

「一番確実に伝わるのは、1対1なんです。私の話を1時間聞くよりも、目を合わせて5分、10分話す方が伝わる。全体に伝えるのは1回やるが、それを因数分解して、最終的には各スタッフと1対1でやれば必ず伝わる」

などとアドバイスをした。質問者には、会長のメッセージ入りの「金色の名刺」が渡される。これは日本でも行われているそうだ。

参加者はその後、立食形式の交流パーティーで、キャスト同士の世間話にも花を咲かせた。また、2月に発生した花蓮地震を受け、日本側から100万円の義援金贈呈式も行われた。


交流会でのじゃんけん大会。日本MOSのシールなどが賞品


義援金贈呈式の様子(左は安心食品の林建元会長、モスフードサービス提供)

実際に食べてみた


天母店の店内

せっかく台湾へ来たので、現地の商品も食べてみようと、天母店(台北市士林区)を訪れた。「ライスバーガー」は、ご飯にキヌア入り。たまにプチプチとした食感があるが、そこまで違和感がない。表面に焼き色がないのも、日本と違うポイントだ。また、アイスティーには標準でシロップが入っていて、わずかな違いが異国情緒を感じさせる。期間限定商品の「パストラミビーフバーガー」も食べてみた。こちらは、レモンを絞っていただく本格派だ。


ポテト、バタフライシュリンプとともに、アイスティーも注文


台湾独自商品も豊富だ

また、台湾では一部、タッチパネル式の注文機も導入されている。近くの導入店舗である天母東路店へ行ってみると、入ってすぐ大きなパネルが現れた。日本のモス同様に自社発行のプリペイドカードが導入されているが、その普及率は台湾の方が高いそうだ。


タッチパネルで、すぐ注文

台湾に進出して、まもなく30年。店舗数は18年3月末時点で、258店にまで成長した。取材前後に台北市内を歩いたK編集長だが、そこかしこに「モスバーガー」を見かけたのが印象的だった。昨年創業45周年を迎えたモスフードサービスだが、半世紀を目前にしてなお、海の向こうに「日本式のハンバーガー」を発信し続けている。