中日ドラゴンズ 荒木 雅博選手(熊本工出身)「理想となるグラブの作り方」【前編】
「ぼくが大事にしているのは最初にグラブをはめた時のフィット感ですね」濃色のスーツ姿でインタビュールームに登場した中日ドラゴンズ・荒木 雅博選手。テーブルに置かれていたミズノ製のグラブを手に取るや、左手にはめ、捕球面を右手の拳で軽く叩きながら、自身がグラブを選ぶ際に大事にしているポイントを語った。
「グラブの中で手や指が動いてしまうのが嫌なタイプなんですよね。なので、極力、手と指が中で動かない、『遊びがない』グラブを求めます」
二塁手として通算6度のゴールデングラブ賞獲得歴を誇る荒木選手。球界屈指のインフィルダーの左手にはいつだってミズノ製のグラブがあった。「ミズノさんのグラブには全幅の信頼を寄せています。長年のお付き合いで、ぼくの好みやこだわりも全て理解してくださっているので、すべてをお任せしています」
【荒木選手のこだわりの「小技」について伺ったインタビューもあわせてチェック!】・バント成功の秘訣は「間」と「コース」・練習では緊張して、試合では気楽に小技を決めよう
荒木流・グラブ手入れ法――荒木選手は、新しいグラブを使い始める際、時間をかけてご自身でならしていくタイプですか?それともメーカーにある程度柔らかくしてもらった状態で使い始めるタイプですか?
荒木:ぼくは硬めの革で作られたグラブをじっくりと時間をかけて、試合で使えるようにならしていくタイプですね。例年8月に翌シーズン用のグラブをミズノさんに作っていただき、練習で使いながら、翌年の4月から使えるように仕上げていきます。1シーズン使ったら翌年は次の新しいグラブに代えていくことが多いですが、使えるものなら何年でも使用したい。過去には3シーズンにわたって同じグラブを使用したこともあります。
――日々のグラブの手入れはどのように行っているのですか?
荒木:試合や練習で使ったらその日にグラブオイルを塗る選手が多いですが、ぼくは使った日は何もしないんです。土がついていたらそれを落とす程度。オイルを塗るのは、翌日の試合前で捕球面を中心に薄く塗ります。天気予報を見て、試合中に雨が降りそうなときは水をはじくようにグラブの外側も含め、全体的にオイルを塗るようにしています。
――グラブを使用したその日ではなく、翌日にオイルを塗る理由は?
荒木:使った日にオイルを塗ってしまうと、翌日の試合で使うときには硬くなってしまっている気がするのが理由のひとつ。もうひとつは、使った直後はグラブに汗が染み込んでいるじゃないですか?汗を含んだ状態のグラブにオイルを塗ってしまうのが嫌なんですよ。なので、一晩おいて乾かし、汗がひいた状態でオイルを塗るようにしています。
――なるほど。
荒木:次の日にオイルを塗る選手は周りではあまり見かけませんが、自分は昔からずっとこのやり方ですね。
カラー、サイズ、ウェブへのこだわり荒木 雅博選手(中日ドラゴンズ)
――常にオレンジ色のグラブを使用している印象が強い荒木選手ですが、何か理由があるのですか?
荒木:昔から「オレンジこそがプロ野球選手の内野手が使う色」というイメージが自分の中にあるんですよね。理由はただそれだけなのですが、グラブはオレンジ一辺倒です。
――ウェブへのこだわりはありますか?
荒木:ぼくは「セカンドと言えばこのウェブ」と言いたくなるような昔からある、定番のウェブをずっと使っています。
――ヒモがXの形で入っている昔ながらのオーソドックスなウェブ。
荒木:そうです。特にこだわりがあるわけではないのですが、セカンドと言えばやはりこれかなという思いが昔からありまして。
――グラブサイズは小さめですか?
荒木:内野手用としては小さめですが、セカンド用としてはごく普通の大きさだと思います。
――2010年からの2シーズンはショートを務めましたが、グラブの仕様も変更されたのですか?
荒木:少しサイズを大きくし、ウェブを十字に変更しました。でも少し大きくなったグラブに慣れるまでにけっこう時間がかかったんですよね。最終的にはミズノさんにお願いして、セカンド用と同じ大きさに戻したものを使っていました。
理想を作らないことが理想のグラブを呼び込む――グラブ選び、グラブのならし方に関して高校球児に伝えたいことはありますか?
荒木:人間には手の使い方のクセというものがあると思うんです。手の使い方は厳密にはひとりひとり異なるといってもいいと思う。つまり、自分の手の使い方に準じた形のグラブがその人にとっての一番いいグラブの形だと思うんです。
――なるほど。
荒木:高校生だと、友達や先輩のグラブを見て「このグラブの形、かっこいい!こんな形のグラブに育てたい!」といった動機でグラブを作り始める選手が多いんじゃないかと推測しますが、その形になる可能性は相当低いと思うんですよ。使ってる人が違うので。だから「こういう形を作りたい!」という理想は最初から作らない方がいいというのがぼくの考えです。
――理想を作らない。
荒木:そうです。グラブがカチカチの硬い状態からじっくりとならしていき、柔らかくなっていくとともにできあがってくる形がその人に一番合う理想の形だと思います。じっくりとならす最大のメリットは自分の手の形、使い方に応じた方が自然と作られていくこと。グラブをならしていくときは、その発想を大事にすると、いいグラブが仕上がる可能性が高いと思います。
後編では、荒木選手がウリとするポジショニングや荒木選手の守備についての考えを伺いました。お楽しみに!
(インタビュー/文・服部 健太郎)
注目記事・【1月特集】「2017年は僕らの年に!」