スーパーサンシ鈴鹿ハンター店。宅配事業部も併設している

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システムも配送も全部自前

『イオン』や『イトーヨーカドー』、『西友』などを中心に、ネットスーパーの宅配事業に参入する企業は今や100社以上。しかし“送料無料”を売りにするため、利用件数は伸びても赤字続き。結果、撤退を強いられる企業も少なくない。採算が取れているのは片手で数えるほど。利用者は「便利」と喜ぶが、軌道に乗せるのは相当難しい。それが宅配事業の現実だ。

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 そんな中、大手スーパーを差し置いて、黒字化に成功したのが三重県に13店舗を展開する『スーパーサンシ』。宅配サービスの実施は現在8店舗で、正午までにネットか電話で注文すれば、当日17時までに届けてくれる。なんと、システムも配送も全部自前。その手法が今、小売業界でちょっとした話題になっている。

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 本社がある三重県『鈴鹿ハンター店』を訪ねると、午前8時の電話注文受け付け開始から、スタッフが10人体制でせわしなく受話器を取る現場に出くわした。

「お電話ありがとうございます! スーパーサンシです。ご注文ですね。お客様? それはどこのメーカーでしょうか? 前にも配達したことがありますか? ええ、はい。そちらは140円ですね。大きいサイズの450gでよろしいですね」

 左手に受話器を、右手でチラシを素早くめくりながら、利用者が欲しい商品を探し出し、注文を打ち出す。大きな声でゆっくり話しかけ、何度も確認をとる丁寧な対応で、電話口の相手が高齢者だと想像できる。

電話で30分話し込むことも

 宅配事業部の山田正徳さんによれば、朝、電話が鳴りやまないのは日常茶飯事。

「子育て世帯の多くはネットからの注文ですが、パソコンを使わない高齢者の場合、電話注文がほとんど。特売の商品を出す火曜日は特に電話注文だけで1日500件に及ぶこともあります」

 配布しているチラシや季刊のカタログを見て、欲しい商品の番号を正しく伝える─そんな形式的な注文をする高齢者は多くない。「30分話し込むこともあるんですよ!」と、オペレーターの女性は笑う。「緑色の丸い容器に入った、あの……」などと商品の形状や色を曖昧に伝えられても、希望の商品を割り出すまで根気強く対応するためだ。

配送コストはきちんと取る、会費を払ってでも利用したいと思わせる

『スーパーサンシ』の宅配サービスは月額使い放題516円(以下、すべて金額は税込み)の会費制。単発で利用する場合は104円で、購入金額が1544円未満なら別途84円の配達サービス料がかかる。その他、冷凍食品を注文すれば、ドライアイス代104円。2階以上の家への配達には155円の利用料をとる。細かい料金設定にして、基本会費を少しでも安く抑えている。

 “送料無料”と謳わず、かかる配送コストはきちんと取る。それでも、会員数が毎年1000世帯ペースで増える理由は「会費を払ってでも利用したいと思わせる、きめこまかなサービスを徹底しているため」と山田さん。店舗で値引きしたら、宅配商品も値引きし、損をしない配慮も忘れない。

「現在、会員は1万6000人で、うち7500人は電話注文なのでカタログを配布します。ひとりひとりよく購入する商品データを反映し、カスタマイズで作成するので、それぞれ掲載商品が微妙に違うんです」

 60歳以上の利用者(現在1750人)には曜日と時間を決め、スーパーから「何かいるものはありますか?」と毎週、必ず電話を入れる安否確認も兼ねたサービスを実施。電話がつながらなければ、親族に連絡を入れることもある。

全世帯に鍵つき宅配ロッカーを提供

 正午までに注文すれば、当日17時までに商品を受け取れる。そのスピード感も人気の秘訣。配達効率の高さはピカイチだ。

「午前中の注文を10時と12時締めの2便に区切り、一定数の注文分をまとめて店舗からピッキング。その後、個別に箱詰めします。常温と冷蔵、冷凍商品を3つのラインに分けてそれぞれ箱詰めし、最後にドライバーが担当エリアの世帯ごとにまとめてトラックに荷積みします」(山田さん)

 1台のトラックが1回で20〜25軒分を積み、1日3便ずつ配達。1台の稼働範囲は30分圏内に絞り込む。

 驚いたのは、全世帯に鍵つき宅配ロッカーを提供していること。おかげで不在配達はゼロ。「宅配ロッカーの設置ができない」「エレベーターのない建物の3階以上に在住」などのケースは利用を断り、ドライバーの負担軽減と効率化に努めている。

 ドライバー歴6年の山村和美さん(49)のトラックに同乗させてもらうと、新聞を配るようなスピードで1軒あたりの所要時間は2〜3分。チャイムは鳴らさず外から「こんにちは! スーパーサンシです」と声をかけ、商品を宅配ロッカーに入れる。そのとき、空の宅配ロッカーに資源ゴミがあれば、回収するサービスまで素早くこなしている。

全員でクレームに目を通して地道に改善、バナナの完熟度の好みまで把握

 実に見事なハンドルさばきだが、数年前までは苦労することもあったという。

「ピッキングが遅れて、ドライバーの出発が遅れると大惨事。以前は、1日2便で回していましたが、荷積みのトラックが待ちぼうけ状態だった。16時30分に店舗を出発することもあってね。“17時までに届けなあかんのに〜!”って泣きました(苦笑)。結局、配達が19時台にズレ込んで1軒ずつ謝りながら配達に回りました」(山村さん)

 当日17時まで配送には相当な効率の高さが求められる。現在は、1台につき1日3便に改善され、遅延もなくなった。

 同社のサービスが始まったのは1983年、約30年前のことだ。顧問の高倉照和氏はこう振り返る。

「当初は、苦情も多かったですよ。しかし現場の社員だけでなく、社長もすべてのクレームに目を通して、地道に改善を重ねた経緯があります。例えば、バナナやキウイなどの生鮮食品は利用者ごとに完熟度の好みをデータで管理する。挨拶がいるか、チャイムだけ鳴らして置いていくか、手渡しがいいか、など細かい要望をできるだけ何でも聞く方針でやってきました」

「スーパーサンシがないと生きていけません」

 それでも、会費は年間で約6000円と決して安くない。利用者はどう感じているのか。

 20年前からの常連で、ひとり暮らしをする浅野佳代子さん(83)は週3回、日用品や食料品を頼んでいる。

「お寿司やお刺身も届けてくれるでしょう。ありがたくてね。スーパーサンシがないと生きていけません」

 ご主人と2人暮らしで、週1回約5000円分を利用する別の80代女性は、

「会費は安いと思います。近くに住む孫に車で買い物に連れていってもらうこともありますが、そっちのほうが高くつきます(笑)」

 最近はお弁当配送や生活サポート事業も始め、それらの収益で送料をカバーすることにも挑戦している。

「いずれは会費制もなくし、高層階の方でも利用できるようにしたい」と高倉さん。

 しかし、ドライバー増員や配達密度の向上など課題は多い。

 便利なサービスの裏には配達人がいる。送料無料にいつまでしがみつくか。配達料はムダ金か。企業も利用者もいま1度考え直すべき岐路に立たされている。