連日カンヌ国際映画祭での華やかな様子が報道されているが、その中でもっとも花形となるのが、やはりレッドカーペットだろう。両脇に各国メディアのカメラが陣取り、フラッシュをたかれながら中央を映画スターたちが歩く姿は、これぞカンヌといった趣だ。

このレッドカーペット、どういう仕組みかというと、ガラ上映の際はまずその上映会に招待されている観客がカーペット上を歩き、先に会場入りして着席する。そして最後尾として監督や出演者がカーペット上を歩き、他の招待客は会場内で彼らが入ってくるのを迎える。その際、男性はブラックタイ、女性はイブニングドレスとドレスコードが指定されている。

女性のイブニングドレスの場合、デザインの幅はそれなりに広いが、男性でブラックタイと指定された場合、細かな意匠の違いはあるにせよ、基本的にはタキシードだ。

映画祭のドレスコードはカジノが起源


そもそもカンヌ国際映画祭のドレスコードは、なぜ男性がブラックタイ、女性がイブニングドレスなのか? これはカンヌ国際映画祭が創設された当初、会場がカンヌ市営のカジノ内だったことに由来するという。同カジノでは、入場する際に上述の服装が義務付けられていた。その後、映画祭の会場自体は同カジノに隣接する現在のパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレに移ったものの、ドレスコードの名残は現在でも続いている。

ちなみにタキシードとは、ブリタニカ国際大百科事典によれば、男性の略式夜間用礼服のことで、黒または濃紺のシングルブレストのジャケットに、同色の絹地で覆った刻みのないタキシードカラーまたはダブルブレストをともなったもの。そこに黒のちょうネクタイ、そしてチョッキまたはカマーバンド(一種の腹帯)をつける。

カンヌ国際映画祭といった格式高そうに思える場面では、このドレスコードが厳格に守られていると思う人は多いだろうが、じつはイメージよりゆるい。



タキシードを着ていない来場者も多い


実際にレッドカーペットの順番待ちをしている人の格好を見ていると、主役となる監督や出演者は、きっちりとタキシードやイブニングドレス着こなしていることは多いが、それ以外はタキシードではなく、普通の黒のスーツにちょうネクタイをつけた服装の人も多い。黒スーツを着ている人の場合、もちろんカマーバンドなどはせず、普通の黒のベルトで代用している。

普段タキシードを着る機会がない場合、映画祭だけのために一式そろえるのも大変であるし、監督や出演者のように中心となる対象でもないため、黒のスーツで代用しようと思う人も多いのかもしれない。

だからといって、どんな格好でも良いというわけでもない。たとえば2015年に、フラットシューズをはいてガラ上映に入場しようとした女性が、入場を止められた出来事があった。その後、この出来事に抗議する形で、ジュリア・ロバーツが素足でレッドカーペットに登壇する、ということもあった。


では現在では、どこまでの服装の「ゆるさ」が許されるのか? 映画祭の服装について同映画祭責任者は、男性のドレスコードはタキシードではあるがスーツにネクタイをしていればいいし、女性もイブニングドレスという指定はあるものの自分の好きな靴を履いている、と現地メディアに対し答えている。

カンヌのドレスコードは、時代とともに少しずつ変化しているのだ。
(加藤亨延)