「べっぴんさん」72話。昭和23年のクリスマス、日本人はどうしてたのか

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連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第12週「やさしい贈り物」第72回 12月24日(土)放送より。 
脚本:渡辺千穂 演出:鈴木航


72話はこんな話


クリスマスの日。紀夫(永山絢斗)は坂東営業所を辞めてキアリスの経理になることを宣言する。
すべてはすみれ(芳根京子)への思い。「すみれの仕事と家庭がうまくいくように間に立つ」、それが自分の幸せだと紀夫は気づいたのだ。

超高速社長交代


紀夫は「本日をもって坂東営業所を辞める」と言い、潔(高良健吾)は「今日からわしは坂東営業所を引き継ぐ」と超高速経営者交代。紀夫が辞めても体制に影響がないっていうのも寂しいけれど、適材適所というものがあるから、キアリスで経理のほうが合っていると思う。
もともと紀夫は子供の頃からすみれが好きだったから、こういうふうにすみれのためを思って進路を変更するのもナットクの展開だ。
72話は珍しく、長台詞があるが、いつも言葉少ない人物が思い余って語ると説得力がある。

言葉数が多い名シーンはここ!


さくら「お父さんはお母さんのどこが好き?」
紀夫「愛にあふれているところ」 
ここはいつもの言葉少ないパターン

さくら「お母さんは お父さんのどこが好き?」
すみれ「なんか、なんかなあ・・・ちゃんと見てくれてるところ、優しいところ、意外に男らしいところ、
家族を大事にしてくれるところ、それから計算の正確なところ・・・」
紀夫「もうええ」
ここは言葉数が多くなっているイレギュラーなパターン。微笑ましいものになっている。

ハッピークリスマス


「キアリスガイド」の原稿も完成して、喜代(宮田圭子)も退院し、紀夫の決断ですみれもキアリスに戻ることが可能となり、みんなハッピーでクリスマスパーティー。
ミュージカル俳優・市村正親(麻田)が名調子で「ホワイトクリスマス」を歌い上げてうっとりさせるという
サプライズもあった。
彼がふいに唄い出すと「麻田さん?」とすみれがツッコムところがナイス。そして、適度に歌ったあとは、
歌声がオフになるところも、やりすぎない「べっぴんさん」の良さ。

市村で思い出すのは「クリスマス・キャロル」のスクルージ。ケチでいじわるなおじいさんスクルージが、クリスマスの晩に3人の幽霊に出会うディケンズが書いた物語を市村はひとり芝居「クリスマス・キャロル」とミュージカル「スクルージ」で演じている。歳とって縮こまっている男の心が徐々に変化していく様が緻密に形作られる。そして、この物語を、「花子とアン」の主人公・村岡花子も翻訳しているという朝ドラつながりがあった。

昭和23年12月のクリスマスって


神戸のキアリスではみんなが幸せな気持ちになっていた。
だが、紀夫の台詞には「大事な時間を戦争に奪われた」というものがあり、71話で戦争中に死んだ野上正蔵(名倉潤)が登場して「無念やった」とも言う。
楽しいイブの前日、昭和23年12月23日には、歴史上ではこんなことがあった。現在は天皇誕生日、当時は皇太子・秋仁の誕生日である12月23日、東京裁判によって第2次世界大戦のA級戦犯として東条英機はじめ7人が巣鴨プリズンにて絞首刑に処せられた。朝日新聞デジタルの記事「東京裁判と戦争責任─ビジュアル年表(戦後70年)によると、12月27日には、日本人戦犯にクリスマス特赦があったとある。
そんなことが・・・と思うと、紀夫が「大事な時間を戦争に奪われた」と言ったあと、「そやけどもっと大事なのはこれからや。すみれの人生はあと何十年も続くんや。それこそ僕と生きていく人選も何十年も続くんや」と希望を語り、厳かなクリスマスの夜に愛する家族や仲間たちと片寄せあって、このひとときの幸せを噛み締めている場面には(近江や潔とゆり夫妻の場面もちゃんとでてくる)、いろいろな思いを感じてしまう。

奇しくも、巣鴨プリズン跡地に建つサンシャイン60に隣接したサンシャイン劇場では、過去、市村の「クリスマス・キャロル」(市村の公式サイトによると、96年と2001年)が上演されている。
(木俣冬)