【箱根駅伝】どんな選手が適任!? 駒澤大学黄金期を支えた二人に「2017年の期待」を聞いてみた

写真拡大

お正月の風物詩、箱根駅伝。正式名称は「東京箱根間往復大学駅伝競走」で1920年に初開催され来年で93回目を迎える。

【ランニング】後半の失速・故障を防ぐ!自分でフォームがチェックできるポイント5

主催は関東学生陸上競技連盟ということなので実は関東ローカルの大会ではあるのだが、毎年のようにスター選手を輩出し回数を重ねるごとに注目度は過熱していて、国民的イベントに成長した箱根駅伝。

2016年に圧倒的な強さを見せて2連覇した青山学院大学が2017年も大本命と誰もが口をそろえる中、かつて駒澤大学の黄金期を支えた、駒澤大学の初優勝に貢献(当時9区区間新記録樹立)し2001年エドモントン世界陸上マラソン日本代表にもなった西田隆維さん(以下:西田)と駒澤大学陸上競技部OBで駅伝主務だったM高史さん(以下:M)の二人に2017年の予想や期待、4区と5区の距離変更に伴う影響、また優勝するためには各区間にどんな選手を配置するべきなのか、を聞いてみた。

すばり今年の優勝校は?そしてそこに勝つための方法はあるのか?

■M高史の予想:応援の多い大学に期待

M:優勝はもちろん母校の駒澤大学に期待していますが、冷静に分析すると青山学院大学でしょうね。青山学院大学を倒すとしたら、力のある駒澤、東洋、早稲田、山梨学院、東海大あたりでしょうか。

中央学院も出雲駅伝、全日本大学駅伝を見ていると確実に成長していて楽しみなチームですね。今回、5区ではそれほど差がつかないと思うので、復路の9区、10区の終盤まで激しい上位争いやシード権争いをしている可能性がありますね。

僕、駒澤大学のマネージャー時代に運営管理車に乗っていたのですが、そこで気づいたことがあるんです。実は選手にとって沿道の応援というのがすごく力になるんです。

沿道にどれだけ自分の大学を応援してくれる人がいるか、ということが、実は結構影響を与えていると思います。

「頑張れ!」って、応援されると反射的に体が動くこともあるので、苦しいとき、競り合ったときに、応援の力は有利に働くと思います。なのでOBや卒業生が多い伝統校が強い理由はそういうこともあるかなと思います。応援の多い大学に注目ですね。

西田:確かにスタートからゴールまで応援が途切れることないもんね。高校野球の応援もすごいけど、この箱根駅伝の応援で沿道に出ている人も相当の数だと思う。自分たちが出場した頃に比べても多くなっていると思うな。

西田隆維の予想:「開き直り」ができるかどうかが重要。

西田:出雲・全日本・箱根の3冠、そして箱根駅伝3連覇のかかっている青山学院大学がやはり本命でしょうね。

期待値が高いのは出雲駅伝、全日本大学駅伝で安定した成績を残した中央学院と、往路で勢いに乗ったら東海大も面白い存在になると思う。

青学を倒すためには…大会前に青山学院大学内で風邪が流行るかどうか(笑)。風邪といっても、発熱とかの風邪より、お腹の風邪。お腹(内臓)をやられちゃうのは深刻な問題。

栄養素が入ってこなくなり、エネルギーがない状態でレースに臨まなきゃいけないというのは、ブレーキを起こす相当リスクが高い。

箱根駅伝は200人の選手が走るから、ちょっと熱っぽかったり、鼻水が出たり、喉が痛かったりって風邪気味の選手も当然いますよ。でも、そのくらいならなんとか大丈夫かなと思うけど、お腹の風邪はどうしようもない。

M:お腹の風邪とかじゃなくても、レースの3週間前とかから緊張で食欲がなくなって、食べられなくなってしまうこともあります。

しっかり寝られる、しっかり食べられるっていう状態が、チーム全体で万全にできているかどうかというのは勝負に影響を与えるでしょうね。

西田:この緊張って避けられないから、これを乗り越えるには、信じるものがあるかないかってことかもしれない。開き直れる能力や方法があるかないか。

M:図太さとかですかね。

西田:そう。例えば海外留学生選手って失敗が少ないですよね。それって、自分の信じるものがあるかどうかってことが背景にあるのかなと思うことがあります。日本だと仏教でいう仏さまとかそういうものかな。

留学生選手っていつもお祈りしているから大丈夫ってことで自分を安心させる方法がある。

やることは全てやって、「最後は神頼み」ということでは一緒なんだけど、留学生の出身国に比べて、最近の日本人って、そういうものが薄れてきているので、いざ不安になったときに、自分をどう安心させるかという方法がないかもしれない。

練習は嘘をつかないっていう安心させる方法もあるけど、それって練習が上手くいっていればいいけど、上手くいってなかったときにどうするか。

開き直る方法、自分を安心させる方法として「信じるものがあるかないか」って関係あるかもしれない。でも、ないかもしれない(笑)

4区・5区の距離変更によってどんな影響があるのか

■久し振りの往路逆転劇に期待

西田:4区は単に2.4km距離が伸びただけでなく、長くなった2.4kmが後半の上り坂ってところがポイント。最後に2.4kmが上り坂ってことで、ここで大きなタイム差が出る可能性もある。今回からは4区に上りの適正のある選手を配置することも必要になると思う。

じゃあ、5区の区間が2.4km短くなって楽になったかというとそうではなく、最初のダラダラの上りがなくなっただけで、5区の選手は昨年より最初の入りが難しくなったかなと思う。

M:短くなったとはいえ、5区はタイム差がつきやすいですよね。

西田:だから、今回も山のスペシャリストが誕生したら、優勝を決定づけるかもね。

M:神野選手(2016年大会の青山学院大学5区)も卒業して、今回の5区においては各校の戦力差は小さくなっていると思います。それにより、もつれることも予想されるので、往路だけじゃなく復路にも戦力を置きたい。

選手配置の難しさは例年より増したとかもれしれませんね。そう考えると、ここ10年くらい山で決着が着いてしまって、復路での逆転劇がなくなりましたけど、今回からは復路での逆転劇の可能性が出てきたかもしれません。

西田:とはいえ、逆転劇を起こすには、先行する大学がどこか、その大学がどんな選手を復路に配置しているかで、追う側のモチベーションは変わるね。選手層の厚い青学が今回も先行していたら、追う大学は結構きついかもね。

M:前を行くチームが往路に選手をつぎ込んでいるって分かっていれば、復路で逆転できるぞってモチベーションが上がります。とはいえ、3分差(距離にすると1km差)とかあったら9区、10区まで追い付けない。

駅伝って一人でひっくり返そうとしたら、自分の実力以上のものを出そうって気持ちになります。その気持ちが強すぎると、頑張れる選手もいるけど、それがプレッシャーになってオーバーペースになりすぎたりして、力を出し切れないこともありますから、自分の走りをするっていう平常心を持つことが大切になると思います。

各区間にどんな選手を起用するのがいいのか

■1区:早起きで賢い選手

西田:まず、朝に強い人だね。3時くらいに起きるので、それに対応できるかどうかは必要。それと絶対に外さない安定感のある選手を配置したい。区間賞を獲らなくてもいいから、先頭と20秒差以内でタスキを渡せる選手がベストかな。

M:1区は流れをつかむうえで、重要なので、エース級が配置されることが多いですよね。1区はペースが速い年と遅い年がありますので、駆け引きが上手かったり、レースの動きに対し、臨機応変に対応できる能力も必要ですね。

西田:他のメンバーより圧倒的に力の差があるなら、一人でドンっといけばいいけど、そうでなかったら、団子状態になるね。その中で、誰をマークするか、マークされているなら自分がどう動くか。賢い選手である必要もあるね。

■2区:エースだけど実は上りも得意

西田:距離も長いし、やっぱりチームで信頼感のある一番強いエースでしょうね。

M:流れをつかむためにも、大崩れしない安定感も求められますよね。

西田:さらに権太坂や中継点手前の上りもあるから、速いペースで突っ込んできて、登りも対応できる能力は絶対必要。

M:チーム内でエースって言われているけど、上りが苦手ってなると、3区に回ることが多いですね。そういうチームは2区は無難につないで3区にエースを配置してくるでしょうね。

西田:たしかに、チーム内で2番手、3番手で上りが得意な選手が2区にそろう可能性もあるね。

■3区:自分のペースを刻める安定感のある選手

M:3区は割と走りやすいコースですかね。最初は下りですし。

西田:1・2区とタスキがつながれてきて、選手もばらけてきて、単独で走ることもあるので、その中で自分のペースを作れるやペースを守れる能力は必要。そう考えると、クレバーな選手がいいかな。僕は3区で失敗しているから(笑)

M:前半の重要な区間なので、経験の少ない1年生を使うのはちょっと怖いですね。

西田:でも、力が十分にあって、自分をコントロールできる頭の良さがあれば1年生でも3区はありかな。あと、海岸近くを走るので向かい風が強いときが多いから、向かい風に対応する力も必要だね。

■4区:ギアの切り替えと後半の上りが鍵

M:小刻みにアップダウンがありますよね。

西田:そのアップダウンに合わせて、ギアを切り替えられる走りが上手い選手がいいかな。

M:今回から距離も伸びますから、上りに対応できるってことももちろん必要ですよね。

■5区:上りが得意な選手

M:もちろん上り坂が得意な選手ですよね(笑)

N:上り坂が得意な選手って、骨盤の向きとか、ガッツがあるとか、基本的な走力、色々な要素が必要だと思うけど、上り坂への適正ってあるよね。好き嫌いではなく、単純に上り坂に向いているか向いていないかを見極めることが選手選びには重要だと思うな。

■6区:センスのある選手

西田:もちろん下りが得意な選手でしょ(笑) 前半は突っ込める勇気を持てることも必要かも。

M:そうですね。あとは最後の3kmで差がつくこともあるので、ラストが強い、体幹が強い、粘り強い選手がいいかもしれません。この区間からは谷口浩美さん、川嶋伸次さん、川内優輝さんと日本代表になった選手も多くいますよね。

N:これも上り同様に、下りの適正というものがあると思う。走ること自体のセンスが高い選手がいいかもね。

■7区: 各チームの戦力が現れる区間

西田:いわゆるつなぎの区間ではあるけど、ここに強い選手を配置できたら、そのチームは相当強い。ここにエース級を置くためには選手層の厚さ必要。

M:全体的に若干下っているので走りやすいですから、経験の少ない選手が配置されることが多いですよね。それに最近は6区で一斉スタートが多く、集団で7区にタスキをつなぐことが多いですよね。

西田:そう。だから、一人で走るのが苦手な選手が配置することが多いかもしれないね。

■8区:暑さに強い選手

西田:時間的にちょうど暑くなる時間帯だし、暑さに強い選手を置いた方がいいね。

M:8区でフラフラになる選手も過去にいましたよね。

西田:あと、この時期は追い風になることが多いから、汗をかきやすい。それで気温が上がると、フラフラになる可能性が高いのかな。

M:後半に遊行寺の急な登り坂があって結構スタミナを奪われるので、8区も上りの強さというのは必要でしょうね。

■9区:前半から攻められて、スタミナがある選手

西田:前半の下りでリズムが作れれば、コースとしてはそんなに難しくない。スタミナに自信のある選手であれば安心していけると思う。

M:駅伝って最初は抑えて入るという傾向があるかもしれませんが、9区はある程度最初からリズムよくいった方がいいタイムで走れる傾向がありますね。

西田:たしかに。僕も最初の1kmを2分40秒ちょいで入ったと思う。(※当時の区間新記録樹立)

■10区:風に強く、最後まであきらめないメンタルの選手

西田:後半にビル風が強いから、風に負けずにグイグイ押せる選手であった方がいいかも。自分のリズムで走ってきて、疲れてきたところで風の影響でリズムが狂ってしまったら、ラスト4kmとかで後ろから追い付かれることもある。

M:アンカーですから、シード権争いをしている大学は、どうなるかハラハラしますよね。前を走るチームと1分差だったとしても58秒とか少しおまけして伝えて、モチベーションを切らさないようにしているとこもあるみたいです。

西田:最後まであきらめないメンタルの強さと、メンタルを切らせないチームワークも必要だね。

M:繰り上げで見た目の順位と、本当の順位が違うことが多いですよね。でも、最近は情報網が発達して、選手は自分が何位で前のチームと何秒差というのはしっかりと伝って分かっています。最終的な順位が決まる10区は気持ちの強さは必要だと思います。

・・・・・・・・・・・・・・

箱根駅伝まで、あとわずか。今年はどんなドラマが起こるのか目が離せない、今から楽しみです。

≪インタビュー≫

■西田隆維(にしだ たかゆき)
駒澤大学出身→S&B食品。箱根駅伝で駒澤大学の初優勝に貢献(当時9区区間新記録樹立)。2001年エドモントン世界陸上 マラソン日本代表。
現在は市民ランナー向けのランニングクラブNRC(NISHIDA RUNNING CLUB)の指導とマラソン大会などの企画・運営を中心に活動中。また、これまでの経験で学んだことを企業や学校で講演。


■M高史(えむ たかし)
ものまねアスリート芸人
駒澤大学陸上競技部OB(駅伝主務)。東京マラソン2017チャリティ・アンバサダー。自身考案の「ものまね体操」で保育園から高齢者施設まで訪問し続けるエンターテイナー。ものまね体操・英語版「ジャパササイズ」は8ヶ国後で翻訳され、スペインのテレビでも放送されるなど国内外から注目のエクササイズ。
オフィシャルブログ:M高史の日々精進!