これで無料、diskunionのフリーマガジンがすごい

写真拡大

コアな音楽ファンに人気のレコードチェーン「diskunion」(以下、ユニオン)が、2016年発表の優れた作品を振り返るフリーマガジン『いますぐ聴いてほしい2016年オールジャンル700』を発行した。


「音楽を売る現場」目線のディスクガイド本



・日本のロック・ポップス
・ロック・ポップス
・プログレッシヴ・ロック
・ハード・ロック/ヘヴィ・メタル
・パンク
・ジャズ
・ワールド・ミュージック
・ソウル/ブルース
・ヒップホップ
・クラブ/ダンス・ミュージック
・クラシック
・映画音楽
・本

>『いますぐ聴いてほしい2016年オールジャンル700』は、以上計13ジャンル+αから成るディスク(/ブック)ガイドである。表紙にはこんな文句がある。

ALL STAFF’S SELECTION for ALL MUSIC LOVERS

「年間ベスト」の類は、雑誌などにおける年末のお約束企画だが、本誌の最大の特徴は、中心となる選者がユニオンのスタッフたちーーすなわち「音楽を売る現場」の人間だということ。紹介される各アルバムには、所属店舗名/役職および名前と共に、熱のこもった推薦コメントが付されている。

CD不況などと言われながらも、年間にリリースされる作品数は膨大だ。当然、素晴らしい内容ながらもそこまで注目されなかったり、売れない作品だって少なからずあるはず。そのことに歯がゆい思いをするのは、作り手ばかりではない。本誌の熱量の大きさは、売り手側の「もっと聴かれるべき!」という強い思いの賜物であろう。

「非ランキング形式」であることの意味


もう1つ、ランキング形式ではないというのも大きな特徴だ。

人はランキングが好きだ。

ランキングは、わかりやすく人気を可視化する装置である。しかしその反面、1人の人間の強い思い入れやこだわりは、なかなか反映されにくい。多くの人間の支持を集める、その年を代表する音というのは、確かにある。しかし、その音だけが時代を作っているわけではなく、じっさいには、無数の、多様な音が響き合うことで、“今の音楽”は“今の音楽”として成り立っているのである。

大物歌手も、ベテランバンドも、若手バンドも、インディーバンドも、同じ「1枚」として並列に並べてみせる編集は、ともすると誌面を雑然とさせることにも繋がりかねないが、本誌に関しては、むしろ音楽というものの持つ“厚み”を伝えることに寄与しているように思える。

なお、紹介されるアルバムに重複はほぼない。しかし、ユニオンのスタッフもかなりの人数にのぼるため、多少は被りも出てくる。つまり、稀に同じアルバム・ジャケットが並んでいる箇所があるわけだが、よく見ると微妙にクレジットが違う。

一瞬「ん? どういうこと?」と思うわけだが、これは1枚がCD/もう1枚がLP(レコード)だったり、「CDのみ/CD+DVDの限定版」というような違いだったりする。そのまま素直に「同じアルバムです」とはせず、それぞれ「●●さんが選んだ1枚」として意地でも差別化するところにレコード屋の執念のようなものを感じ、ちょっと面白かった(音楽におけるメディアの違いは、こだわる人と気にしない人とで、その捉え方に雲泥の差がある)。

店頭で、通販で、電書で


全128ページから成る>『いますぐ聴いてほしい2016年オールジャンル700』のメインはユニオン・スタッフのアルバム紹介だが、それ以外の読み物も充実している。

ユニオンにゆかりのあるミュージシャンや音楽評論家らが「今年の1枚」を選ぶ「スペシャル・ゲスト」コーナーや、同店のイベントやポスターにビジュアルを提供してきたイラストレーターの作品を紹介する「ディスクユニオン・ギャラリー」、さらにはピーター・バラカン、真島昌利(元THE BLUE HEARTS、現ザ・クロマニヨンズ)、冨田ラボ、能地祐子、山崎まどかによるコラムページも。

世界的に主流になりつつある音楽の定額配信と、かつて「音楽との出会いの場」であったラジオの現在について言及するバラカン、自身の新譜において“次世代”や“若手”と呼ばれるシンガーを多数フィーチャーした冨田による新世代論、旅と現地で買うレコードの関係を綴った山崎のエッセイが印象に残った。

本誌は、ユニオンのメンバーズカードを店頭で提示すると無料でもらえる。オンラインショップでの購入の際に、本誌をカートに入れることでも入手可能。

あるいは、モノにこだわらないという向きには、電子書籍版もオススメ。今すぐ読める。また、電書版ならではの便利な機能も。アルバム・ジャケットをクリックすると、ユニオンのオンラインショップに飛ぶので、そのまま気になった作品を購入できるのだ。ユニオンは中古商品も扱っているので、場合によっては多少安価に購入できるかもしれない。また、人気の商品は品切れもあり得るが、中古盤設定があることで購入できる可能性も高まる。

来年版も刊行されることを祈りつつ、まずは本誌片手に今年の未聴盤をチェックしたい。

(辻本力)