竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

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風が吹くと桶屋が儲かる

なぜ、風が吹くと桶屋が儲かるのか。ちょっと復習しておこう。風が吹くと砂ぼこりが舞う。砂ぼこりが目に入ると、目を患ってものを見えなくなる人が増える。目の見えない人は三味線弾きになる。三味線をたくさん作るためには、猫の皮が必要になる。猫がたくさん殺されると、天敵がいなくなったネズミが増える。増えたネズミが桶をかじる。桶が壊れると、桶に対する需要が増す。だから桶屋が儲かる。

なんとも回りくどい話だが、この諺からぜひ学んでおきたいことが2つある。
その1、因果関係が巡り巡って、思わぬ結果を招くことがある。
その2、時間が経つと、必ずいろいろな条件が変わってくる。

習さんが怒ると◯◯がダメになる

さて、この◯◯に何が入るか。そもそも、習近平さんが怒るとはどういうことか。中国の国内景気はあまり良くない。そんな状況を放置すると、国を導くリーダーとしての資質を問われかねない。にもかかわらず、中国の人たちは盛んに日本に出かけては「爆買い」とやらに熱を上げている。これでよいのか。

と習近平さんが腹を立てたのかどうかは定かではない。けれども、2016年4月8日、中国政府は海外で購入した商品を国内に持ち込む際にかかる関税を引き上げた。その結果、何が起こったのか。

「爆買い」が止まったのである。これがマーケティングの因数分解パート2「ペスト(PEST)に注意」のP、つまりPolitics=政治的要因である。ビジネスを行う上で、必ず注意しなければならない変化は、法改正だ。確かに中国国内の法改正が「爆買い」に影響することは読めなかったかもしれない。けれども、少なくとも関税引き上げが公表された時点で「爆買い」への影響は予想されたはずだ。ダメになったのは「爆買い」期待で店舗を増やした量販店を筆頭に、「爆買い」頼りになってしまった小売店である。

これが国内の法改正なら、もっと早く読める、というかそもそも公表されている。飲酒の取締が厳しくなりどうなったか、駐禁の取締が厳しくなった結果どんな影響が出たか。影響を受けた業種があり、ビジネスチャンスを見出した業種もある。

10年ほど前の話になるが、厚労省がメタボ対策に本腰を入れて取り組む動きを知り、時間をかけて開発されたのが、ヘルシア緑茶である。メタボ対策は厚労省の審議会などで検討された。その審議会の内容はホームページで公表されている。これを見ていれば、どんなビジネスチャンスが、いつぐらいに生まれるのかを予測可能。だからヘルシアは誕生した。ペスト(PEST)のPは、ある程度先読みができるのだ。

為替と株の値動きは?

NHKのニュースではないが、為替と株の値動きを注視しておくのは経営者の義務と言っていい。ペスト(PEST)のEは、Economicalすなわち経済動向である。というと短期的な話と思いがちだが、決してそれだけではない。

企業とは「Going Concern」である。企業活動には永続性が求められる。だから長期的な視点、つまりこれから起こることを予測し、それに備える必要がある。短期的な視点はもちろんだが、3年先5年先さらには10年先を読むことも欠かせない。

その意味では、国内だけでビジネスを続けていてよいのかという問いは、常に頭の中に置いておくべきだろう。アベノミクスをいくらぶち上げても、国内景気が上向かないのは当たり前の話。日本国内だけでは、需要が伸びないのだ。その意味で経営上の最大のリスクは、膨らみきった国債の行方かもしれない。

既に金融資産の海外持ち出しに制限がかかってきている。こうした動きは今後、厳しくなることはあっても、緩和される可能性はまずない。事業のリスク分散をどうすべきかは、今から考えておく必要のある課題だ。

賢かった代ゼミ

代々木ゼミナールが、予備校事業を縮小・撤退している。18歳人口の継続的減少が、今後も見込まれるのだから、予備校業界での生き残りが厳しくなるのは当然のこと。特に、国公立トップ校合格を目指す駿台や河合塾に比べて、代ゼミは私立を対象としていたから厳しさもひとしおだ。

私立大学は既に全入に近い状況である。早稲田でさえ、試験を受けて入ってくる学生は半分以下だと聞いたことがある。要するに系列高校から入ってくる学生が多いわけだ。今どき、私立大学合格のために、わざわざ予備校に通う現役高校生がどれだけいるか。ましてや浪人してまで私立大学を狙う層は激減している。事業縮小は賢明である。さらに代ゼミが賢かったのは、事業縮小後の展開まで考えていたことだろう。

京都駅前に「ホテルカンラ京都」がある。ミシュランガイド京都・大阪版に5年連続で選ばれるほどの、知る人ぞ知るホテルである。この前身は、京都駅前にあった代ゼミ。代ゼミは18歳人口縮小を読み、予備校事業の次を考え、駅前の好立地を活かすことを考えていたのだろう。

18歳人口の減少を先読みし、将来戦略を立てた好事例としては、以前金沢工業大学を紹介した。同校は北陸新幹線ができて、受験生の首都圏流れが懸念されたが、そんな影響がまったくないほど人気を集めている。

ペスト(PEST)のSは、Socialすなわち社会動向である。未来を予測するのは難しいが、一つだけ確定している未来のあることは頭に入れておこう。10年後の20歳人口は、既に決まっているのだ。

産業構造激変のおそれ

AIが何をもたらすのか。IoTにより、どんな影響を受けることになるのか。この2つには、これからビジネスを行っていく上で最大限の注意を払う必要がある。

そもそも、人間が行う仕事の約半分は、AIに取って代わられるという。実際に半分行くかどうかはともかくとして、オックスフォード大学の研究者により、702の職種が吟味された論文にそう書かれているのだ。自社の業務をAIが代替してしまう可能性については、今すぐにでも検討すべきだろう。今まさに、こうやって書いている原稿自体も、そのうちAIがやってのけるではないか。そんな危機感を筆者は持っている。

さらに恐ろしいのがIoTである。Industry4.0とかIndustrial Internetという言葉が、一種の流行語になっている状況が象徴するように、モノづくりが根底から変わってしまう可能性が高い。とりあえず、IoTがこの先どのように普及していくのかは、特にモノづくりに関わる経営者なら見過ごしてはならない。

仮にトヨタがIoTを全面的に導入するとなった場合に、どうなるかを想像してみよう。IoTに対応できない下請け企業は、その瞬間に仕事がなくなるリスクがある。IoTはサプライチェーンを一気通貫で支配する。自動車の部品のパーツを作っている企業にまで影響は及ぶ(可能性が高い)。

ペスト(PEST)のTは、Technologyすなわち技術の進歩である。技術の進歩はビジネスを根本的に変える。これはインターネット普及以前と普及後に、どれだけ世界が変わったかを振り返れば簡単にわかること。AIとIoTはインターネットの普及に等しい革命を起こすだろう。

革命は、何もピンチになるだけではない。その昔、自動車が発明されて馬車が廃れたときに、ある企業は業態転換することで素晴らしいブランドになった。馬具メーカーのエルメスである。同社は馬車が自動車に代わることで、長距離旅行が増えると予測した。この予測に従い、馬具ではなく旅行用カバンなどに事業転換して大成功した。

何かが変わるとき、必ずそこにチャンスが生まれる。事業を継続的に行っていくなら、ペスト(PEST)に常に注意しておきたい。