コンセプチュアル思考〈第14回〉 概念の図化 =空間的表現=/村山 昇
引き続き「コンセプチュアル思考」の演習と作例をみていきましょう。今回と次回は概念を図化する〈モデル化〉の演習例です。
【例題】
「仕事とは何か」を一枚の図(絵)で表わしなさい
「仕事」は大きくて曖昧な概念です。あなたはこれをつかむのに、どんな根源的要素を掘り起こし、抽象して、本質を洞察しようとするでしょうか。そして、構造的にどう表現するでしょうか───。ここでは3種類〈空間的・時間的・混合的〉の図にまとめていく思考プロセスを共有します。
〈1〉空間的な広がりでとらえる
物事を一枚の図でとらえるときに、最も基本的な作業は、その意味の広がりを考えてみることです。その広がりを押さえるために、どんな基軸が適当かという思考目線を入れる。もし2つの軸が見えてくれば「2軸平面図」に落とし込めますし、3軸で押さえることができそうなら立体的な構造にできます。
では、「仕事」についてみてみましょう。私たちはふだん、仕事という言葉をさまざまに使っています。例えば、
「この伝票処理の仕事を今日中に片付けて」
「営業という仕事の難しさはここにある」
「課長の仕事はストレスがたまって大変だ」
「この仕事じゃ食っていくのがやっとだ」
「彼が生涯にわたって成し遂げた仕事の数々は人びとの心を打つ」
「途上国に病院をつくる。それが私のやるべき仕事です」……など。
こうした仕事という言葉が持つ意味の広がりに、どんな軸を突き刺せるでしょうか。ここが、コンセプチュアル思考の基礎力として大事なところになります。
例えば、仕事がなされる時間単位に着目します。伝票処理のように短時間でなされる仕事もあれば、課長の仕事というようにある一定期間の仕事もあります。さらには、生涯にわたって成し遂げる仕事というふうにもっと長い時間をかける仕事もあるでしょう。こうしたことから、仕事をとらえるための一つの軸として、それがなされる時間の長短、あるいは単発的か継続的か、が浮き上がってきます。
次に例えば、仕事の“重さ”の違いに気がつきます。ルーチンワークとして行う雑多な伝票処理にはさしたる重さがありません。神経をあまりつかうことのない軽い業務です。ところが、営業の仕事とか課長の仕事といったものには、給料をもらうためとか責任を果たすためといったある程度の重さが出てくる。そして、途上国に病院をつくる仕事には、とても重いものがある。すると、もう一つの軸は、仕事の「重い/軽い」が思い浮かんできます。
が、これではまだ練り足りない気がします。その「重い/軽い」の奥にあるものは何でしょうか。それは、動機の違いではないでしょうか。伝票処理をやる動機はさほど高尚なものではありません。単に処理しなければならないという労役的な動機です。それに比べ、途上国に病院をつくる仕事の底にあるのは使命的なものです。となると、軸としては「いたしかたなくやる動機/湧き上がってくる動機」を両極としてはどうだろうと考えつきます。
そして、その2つの基軸を立てて四角の枠を描いてみます。そこにさまざまな要素を配置していくと、仕事という概念の広がりを2軸平面上に表した図ができあがります。
また、ここでは図の補強として『3人のレンガ積み』の寓話を加えることもできます。寓話は次のようなものです。
中世ヨーロッパのとある町。建築現場で3人の男が働いていた。何をしているのか? と聞かれ、それぞれの男はこう答えた───
「レンガを積んでいる」。最初の男はつぶやいた。
2番目の男は「カネ(金)を稼いでいるのさ」と答えた。
そして、3番目の男は高く顔を上げて言った。「町の大聖堂を造っているんだ!」。
この3人の男はレンガを積むという同じ仕事をしています。しかし、おのおのの仕事観はまったく異なります。1番目の男はレンガ積みを単発の作業としてやっています。2番目の男は生活の糧を得るための稼業としてやっている。3番目の男はそれを使命としてやっている。彼らの仕事を図の平面においてみると下のようになります。
次回は、「仕事とは何か」を時間的な観点で図化する作例を取り上げます。