調達購買改革を巡る誤解 その4/野町 直弘
その4.「部品集約」=「コスト削減」の誤解
過去三回で調達購買改革を巡る様々な誤解について取上げていますが、今回はその第四回目で「部品集約」について取上げていきます。
第一回目では「集中購買」と「サプライヤ集約」は違い、「サプライヤ集約」は品目によっては困難であり「コスト削減」にも必ずしもつながらない、ということを書きました。
その「サプライヤ集約」とともによく取り上げられる購買手法が「部品集約」です。
「部品集約」は要するに購入しているモノを共通化しましょう、標準化しましょう、という活動になります。しかし、これもいくつかのパターンに整理できますし、パターンによって難易度が全然変わってきます。
例えば新製品のために新しく何か購入しようとするパターンと既に量産化している製品の構成品を変更して共通化しましょう、という2つのパターンがあげられます。また、集約には今まで購入してきたあるものに統合しよう、要するに「同じものを購入しよう」というパターンと標準品を購入しようという2つのパターンあります。つまり2パターン×2パターンの4パターンに層別されるのです。
この4つのパターンでメリットデメリットや推進の難易度は大きく異なります。パターン毎に検証してみましょう。
パターン1は「新規×共通化」これは比較的やりやすいです。しかし、コストが安くなるかというと疑問視はつきます。共通化ということは同じ部品で複数の機能を果たさなければならないということですから専用品の方が安くなるケースも多いです。一方でカスタマイズ品など、新規生産のために専用の金型や治具が必要なものはその分初期投資が不要となるのでコストメリットにつながりやすいでしょう。
パターン2は「新規×標準化」です。その前に標準化ですが、サプライヤが持っている標準的な部品を買う、というものと自社規格や設計標準がありそこで定義されている標準品を買う、JISやISO規格品を買う、というパターンがあるでしょう。多くのケースであてはまり易くメリットが出しやすいのはサプライヤ標準品の採用です。これは物だけでなくサービスなどにも当てはめることができます。話を戻しますが、「新規×標準化」はそれが可能であればやりやすいでしょう。またコストも安くなりそうです。これは標準品のコストが量拡大によって安くなるということではなく、どちらかというと標準品でないモノを買うとかなり割高になるのを標準化することで抑制することができる、というのが一般的でしょう。
パターン3は「既量産×共通化」です。これは難易度が高いです。既に製品設計が終わっているので再度設計変更や代替品の試験評価などを行わないと実施できないからです。
ですから購買部門だけでなく全社を巻き込んだ活動になってきます。一方でコストメリットもあまり大きなコスト削減は通常考えられません。ですから現実的には殆ど進まない取組みと言えるでしょう。
パターン4「既量産×標準化」これも難易度は高いです。しかし単価は安くなる可能性が高いでしょう。ですから実際にはこの取組みを全社を巻き込み如何に進めていくかが推進のためのポイントとなります。しかし今まで買っていたものを標準化することで、もし新規生産のための投資による償却が終わっていなければ償却負担は残るため、切替えの時期などにも注意する必要があるでしょう。
このように4つのパターン毎に考えてもそもそも集約が難しいものもありますし、やり易くてもメリットが出難いものもあります。こういう観点からも「部品集約」=「コスト削減」とは必ずしも言えないのです。
ただ4つのパターンではやはり「標準化」の2つのパターンであれば、部品集約がサプライヤ集約にもつながり一社のある特定の品目の生産量の増加につながりやすいです。または特定のサプライヤの売上増加につながり収益向上につながることも考えられます。このように「標準化」の方が一般的にサプライヤのコスト削減や収益向上につながりやすくメリットを享受しやすいと言えるでしょう。
しかし現実的には標準化の推進であっても「既量産」の部品集約の活動はハードルが高く殆ど行われていません。そのため部品集約のメリットを出すためには如何に「新規」の時に新しい部品をつくらないで標準品や既存品を採用するか、がポイントになります。またそれを仕組みとして持つことが望まれます。
ある企業では製品開発部門に製品別のプロダクトマネジャーを設置するとともに部品毎の責任者を設置しました。この部品毎の開発責任者は部品集約や共通化の役割を担っており開発が新規でその部品を開発する際には必ず部品毎の開発責任者の承認を得ること、という仕組みを作りました。それによって従来であれば製品毎に勝手に開発が行われていた
ものを管理し、部品種類の大幅な削減を実現しています。いわゆる「部品主査」制度です。
一方で難しいのは部品集約などの推進はトータルコストの視点を持たなければならないという点になります。例えばある特定の部品は関係する部品の設計によってスペースが制限されてしまいどうしても製品毎に限られたスペース内で開発するために種類が増えてしまったというようなケースです。この場合には部品集約をするためには特定の部品はもしくは関係する部品のどちらかを変更しなければならなくなります。特定の部品Aを標準化するために関係するBという部品の種類を増やさなければならない、ということです。このようなケースではA部品とB部品のトータルコストでどちらの部品を標準化すればメリットが出るか考えなければなりません。
このような新規設計の際の部品種類を集約する取組みやトータルコストで検討を進める等の取組みを進めることで始めて「部品集約」=「コスト削減」につながるのです。
前回の繰り返しになりますが調達購買改革のキーワードの元、何から何まで一つの考え方で推進しようとすると無理が生じるのでしょう。
次回は、誤解その5「競争化」=「コスト削減」の誤解について述べていきます。