中国人漫画家が語る中国の捏造報道 (C)孫向文/大洋図書

写真拡大

 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。

 2016年9月6日、日本の外務省は同月4〜5日に中国・杭州市で行われた「G20」(20ヶ国・地域首脳会議)で発表された首脳宣言の全文を発表しました。通常、G20の宣言公表は会議の閉幕直後に行われるのですが、今回は公表が5日の深夜に行われたため、外務省側の発表が翌日に持ち越されるという異例の事態となりました。この事実は『産経ニュース』上で発表され、各方面で波紋を呼んでいます。

■対照的な報道内容

 今回、宣言公表が遅れた要因は中国側により事実の粉飾・捏造が行われたからだと僕は推測します。事実、今回のG20に対する報道を見ると、中共政府の機関メディアは「大成功した」と結論付けた一方、多くの海外メディアは「大失敗に終わった」と報道するという対照的な結果になっていました。

 今回、中国側が情報統制を行ったことを示す証拠はいくつか存在します。通常、G20が閉幕する際は各国首脳陣による共同声明が発表されます。しかし、今回の場合は閉幕時に習近平国家主席による300文字程度のスピーチが行われただけで、共同声明の発表がないという異例の事態となりました。しかも習主席のスピーチは他国の承諾を得たものではなかったそうです。

 機関メディアは一様に「円満・団結・勝利」という言葉を使用し、G20が成功したことを強調しましたが、おそらくこの言葉は中共中央宣伝部が通達したプロバガンダ用のキャッチフレーズでしょう。事実、中国のメディアはG20に対する独自の取材は禁じられ、政府側が発表する情報のみが中国国内で報道されました。

■アメリカは融和ではなく警告を行った

 例えば、アメリカのオバマ大統領が航空機から降りる際にタラップが用意されず、大統領の側近たちが中国当局から激しい注意を受けた問題を、世界各国のメディアは「意図的な嫌がらせか?」と疑問視しましたが、機関メディア側は「欧米メディアによる誹謗中傷を目的とした報道」と、「逆ギレ」のような見解を唱え、五毛党(報酬と引き換えに、中共政府に対し肯定的な意見を書き込むネットユーザーの総称)たちは「ここは中国の杭州だ!米帝は中国に対し生意気を言うな!」などとポピュリズムを扇動しました。

 米中間の対応は今回のG20において大きな話題となりましたが、米中首脳会談後、習主席がオバマ大統領を誘って西湖付近の茶室で会談をしたことを受け、機関メディアは「会談の結果、重要な35件の結果を得た」と、中国側にとって有益な会談になったことを強調しました。しかし、アメリカ・ホワイトハウスのホームページによると会食時にオバマ大統領は

(1)南シナ海仲裁の結果を中国側が受け入れること
(2)米中両国の間にミサイル発射の連絡メカニズムを設けること
(3)人権弾圧とインターネット情報規制問題の改善
(4)チベット、ウイグル自治区に対する宗教弾圧の停止
(5)日本、フィリピン間との領海問題に対し、国際海洋公約を適用すること

 以上の5つの事項を提案したのです。つまり今回の会談は米中間の「融和」ではなく、横暴を続ける中国に対するアメリカからの「警告」だったのです。

 G20が開催された杭州市は僕の出身地ですが、実家の母親に連絡したところ、「会議が大成功した」という機関メディア側の発表を完全に信用していました。また日本の安倍晋三総理が来訪したことを嬉しそうに語るなど、尖閣諸島付近の船舶侵入問題をはじめ、現在日中間の緊張が高まっていることは全く知らない様子でした。中共政府は自国民に嘘で塗り固めた美談しか伝えません。

著者プロフィール


漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)など。

(構成/亀谷哲弘)