怒りを糧にするパワハラ“女ボス”を徹底解剖【前編】

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「2020年までに女性管理職の割合を30%以上に!」国のかけ声によってじわじわ増えている“女ボス”。ただ、問題ありのケースも少なくないようで……。

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≪解説してくれた人≫
「困った」人の心理分析 矢幡 洋
臨床心理士。矢幡心理カウンセリング研究所を主宰する傍ら、犯罪心理学・社会時評などの論評も。著書に『困った上司、はた迷惑な部下』など。『有吉ゼミ』ほかテレビ番組に出演。
女子業界の動きに精通 辛酸なめ子
漫画家・コラムニスト。独自な皮膚感覚で新しい事象・人物を見いだす力に定評。「サードウェーブ系男子」の名付け親。近著に『絶対霊度』『なめ単』など、多数。
「怒り」対処のエキスパート 安藤俊介
日本アンガーマネジメント協会代表理事。怒りの感情との付き合い方の心理トレーニングの第一人者として大手企業などで研修を。著書に『「怒り」のマネジメント術』など多数。

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■ただ今台頭中。自称サバサバ系は恐ろしい

都内中堅商社に勤務する女性社員Aさん(28歳)は声を潜めて語る。

「ウチの女性課長、取締役の男性にウケがいいんです。『◯◯さん、女性だけどサバサバしてるね』って。本人もそのサバサバを自任していて、『私、男っぽいからさ〜』が口癖。でも女性部下は正反対の本性だと知っています」

件の“自称サバ女上司”は当初、気取りのないタイプと高評価だった。しかし、闘争心や権力欲が旺盛なのはいいにしても、仕事のやり方がガサツで、相性の合わない部下の小さなミスを陰で執拗にあげつらうこともあった。

また、部長に気に入られている若手の女性社員(美人)に嫉妬し、嫌がらせ。「涙を見せるまで許さない」といったサディスティックな面も露呈した。内面のドロドロとした感情を隠しているが、同性はお見通し、とAさん。

コラムニストで女性の胸の内、腹の内を熟知する辛酸なめ子さんは言う。

「組織で幅を利かせている自称サバサバ女ほど怖い人はいません。リーダーシップがあり、タフで強いイメージ。服装や表面的な振る舞いは、“女々”していません。だから、好感を持って近づく人も多いのですが、一度取り込まれると、大変です。そして歯向かおうものなら、えげつない悪口を流布されるなどネチネチとひどい仕打ちにあって、どこまでも追い込まれます」

Aさん曰く、自称サバ女上司は、「私の勝手なイメージでは、歌手の和田アキ子さんや女優の江角マキコさんのような感じ。キャスターの安藤優子さんにも似たにおいがします」。

そういえば江角氏は一昨年、子どもが同じ私立小に通う著名人宅の壁に、何かを怨み『バカ息子』とマネジャーにスプレーで書かせたとの憶測記事が週刊誌に載って、物議をかもした。

「女ボスに見えて、実はメンタリティは超女子です。扱いを間違えると、こちらの人生を狂わされるのが、自称サバ女上司です」(辛酸さん)

臨床心理士の矢幡洋さんが解説する。

「仕切り屋で姉御肌。そして、何かカチンとくるとドSな一面を見せるパーソナリティの女性は企業に少なくありません。あまりよく思っていない部下との会話では、相手の真意を聞こうともせず、『どうせ私の提案に反対なんでしょ』と。エスカレートすると、その部下を仲間外れにする。声を荒らげるのではなく、そういう冷淡な方法で制裁を加え、攻撃してきます。一般的に、女性は対決姿勢を明確にして戦いたがる男性に比べ、相手に配慮して居心地をよくしてあげようとするような心理が優位に働くものなのですが、それがごっそり欠落することがあります」

日本の企業は、男社会。そんな中、出世した女性は、「男にナメられない」ことを念頭に置き、自分を強く見せようとするところがあるのだろうか。

「競争社会を勝ち抜いてきた自負心があるがゆえ、敵と思われる人物や、すぐに弱音を吐くような部下は男であろうと女であろうと許さない。そんな思想が背景にある」(矢幡さん)

■部下は、うつ。怒りが原動力の壊し屋上司

こちらも見た目はサバサバ系。言動の「男濃度」が高いのが特徴だ。

「僕の女性上司は、いわゆるクラッシャー系です。攻撃の武器は、口。罵詈雑言で部下をぶっつぶします。うつになった同僚もいます」

とは、IT系企業に勤務する33歳の男性Bさんだ。男性上司が「バカ」とか「死んじまえ」とか言えば、それはもちろんパワハラだが、キャラクターによっては「熱い人」と解釈され、おとがめなしのケースもある。

しかし、Bさんの女性上司の言葉は部下の心を突き刺し、えぐる。

「(肩を落として、他の社員に聞こえるように大きなため息をついて)もうちょっと期待してたんだけどな〜」
「おまえ男のくせにろくでなしだな」
「あなたのせいで、プロジェクトがボツになった。どーすんのよ」

など、嫌みで挑発的な言い回しで人格否定したり、責任転嫁したり。

「メンツをつぶし、鼻をへし折る。鋭利な言葉を意識的に使って、屈服させて、満足感を得る性格の人です。いびる、いたぶる、というのが得意なのでしょう」(矢幡さん)

辛酸さんも心当たりがある。

「毒を吐くことを自らの糧にして、仕事を回すタイプです。怒りを燃料にして、働く。相手のエネルギーも吸い取る。ただ、汚い言葉で罵るので心が汚れ、顔がどす黒くなります。こうした上司には、部下がヨガや瞑想教室に誘って毒や怒りをデトックスしてもらうように仕向けるのが得策でしょう」

■「あいつは敵」勝手に妄想し部下を密偵!攻撃力

「どちらかといえば、さっぱりした印象の女性上司です。でも人って見かけによりませんね。すごく猜疑心が強いんです」(流通・34歳女性Cさん)

サバサバした性格とまではいかなくとも、女性上司だからと余計な神経を使わなくていい存在だと思っていたら、実はそうではなかったというケースだ。Cさんが続ける。

「部下を、敵か味方かで判断するところがあるんです。ある部下の自分に対する言葉遣いを聞いて『何か私に不満があるはず』と勝手に想像したり、自分で社内懇親会を主催し『基本、自由参加』と言いながらも欠席者を細かくチェックしたり。そして、味方にはえこひいきし、敵と見なした部下にはみなが敬遠する業務を割り当てるのです」

表向きはスマイルでも、裏では自分の敵か味方かを見定めるための情報収集に余念がないのだという。矢幡さんはこう解説する。

「妄想系上司といっていいかもしれません。こうしたタイプは、自分の取り巻き連中をスパイにして、偵察させる。自分への反乱分子を一刻も早く見つけ出します。あらゆる人・場面に目を光らせていて、あら探しをするところは同じ『困った女性上司』の警察官タイプに似ています。常に、自分が正義であり、悪いヤツを懲らしめないといけないという考えなのです」

Cさんによれば、その女性上司は部下のフェイスブックやツイッターなどもこまめに確認し、「今日、仕事大変でした」といったような他愛ないコメントを「自分へのアンチテーゼ」と捉えているそうだ。

(大塚常好=文)